空き家の発生を抑制するための特例措置の延長・拡充
~「高額査定」と「適正査定」の違い、売却価格を高める工夫とは
不動産を売却しようと考えたとき、最初に気になるのは「自分の家や土地はいくらで売れるのか」という点ではないでしょうか。インターネット上には「カンタン60秒査定」といった広告も多く見られますが、実際の価格の決まり方や査定の仕組みは意外と複雑です。本コラムでは、不動産会社がどのように査定価格を算出しているのか、また査定の見方や注意点、そして売却価格を少しでも高めるためにできる工夫について解説します。
不動産価格の決まり方の基本
不動産の価格は「需給のバランス」と「個別的な条件」で決まります。株式や金のように全国一律の相場があるわけではなく、同じエリアでも道路の幅や方位、日当たり、形状などの違いで価格は変動します。つまり、「いくらで売れるか」は市場での需要と、その物件の特徴によって左右されるのです。
そこで、不動産会社は査定を行い、売主様に対して「このくらいの金額で売れる可能性が高い」と提示します。この査定額は、以下のいくつかの手法を組み合わせて導き出されます。
査定方法① 取引事例比較法
最も一般的な方法が「取引事例比較法」です。近隣で実際に成約した土地や建物の価格を基準に、査定対象の物件の条件(面積、形状、築年数、駅からの距離など)を加味して価格を調整します。
例えば、同じエリアで150㎡の土地が1,000万円で売れていれば、130㎡の土地はそれより安く、180㎡で整形地なら少し高め、という具合です。市場での実勢価格に基づくため、最も「現実的な査定額」が得られる方法といえます。
査定方法② 公示地価・基準地価を参考にする方法
国土交通省が毎年公表する「公示地価」や、都道府県が公表する「基準地価」も価格判断の目安となります。これらは国や自治体が調査した「標準的な土地価格」であり、税金計算や公共事業の補償基準などにも使われます。
ただし、公示地価はあくまで「指標」であり、実際の取引価格とは必ずしも一致しません。そのため、不動産会社は公示地価を参考にしつつ、実際の事例と合わせてバランスを取ります。
査定方法③ 各種路線価の活用
不動産の価格を把握するもう一つの方法として「路線価」があります。路線価とは、道路に面する標準的な土地の1㎡あたりの価格を国税庁などが定めたものです。
- 相続税路線価:国税庁が毎年公表し、相続税や贈与税の算定基準となる価格。公示地価の約80%程度が目安。
- 固定資産税路線価:市町村が固定資産税評価のために定める価格で、公示地価の約70%程度。
不動産会社の査定では、これら路線価を参照することで「税務上の評価水準」と「市場価格」との比較を行い、相場との乖離がないかを確認します。路線価そのものは「実際に売れる価格」ではありませんが、補助的なデータとして査定の裏付けに役立ちます。
査定方法④ AI査定(自動査定システム)
近年普及しているのが「AI査定」です。過去の膨大な取引事例データを機械学習させ、対象物件の条件を入力するだけで自動的に価格を算出します。
AI査定のメリットはスピードと客観性です。短時間で査定額が出るため、売主様が相場感を把握するには便利です。ただし、あくまで「統計的な推定値」であり、個別の事情(リフォームの有無、日照条件、隣地との関係など)までは反映しきれません。そのため、最終的には人の目による補正が不可欠です。
「高額査定」に注意! 適正査定との違い
査定依頼をすると、複数の不動産会社から提示額が出てきます。その中で「おっ、この会社は一番高い!」と飛びつきたくなる気持ちは誰しもあるでしょう。
しかし注意が必要です。一部の会社は「とにかく専任媒介契約を取りたい」という理由から、実際の相場よりも高額な査定を提示する場合があります。結果として売出価格が高すぎ、市場で反響が得られず、結局は値下げを繰り返して時間を浪費してしまうケースが少なくありません。
一方、適正査定は「実際に売れる価格」を見据えた現実的な数字です。最初はやや物足りなく感じても、販売開始から一定の反響が得られ、結果的に早期成約・希望に近い金額で売れることが多いのです。査定価格を見る際は「なぜこの価格になったのか」「どの事例を参考にしているのか」をしっかり確認することが大切です。
売却価格を少しでも高めるためにできる工夫
査定額はあくまで「目安」であり、実際の成約価格は売却活動や物件の印象によって変わります。少しでも高値で売るために、以下のような工夫が効果的です。
1. 室内外の片付け・清掃
第一印象はとても大切です。不要な荷物を整理し、清掃を徹底することで「大切に使われている家」という印象を与えられます。
2. 簡易的なリフォーム・修繕
大規模なリフォームまでは不要ですが、壁紙の補修や水回りの不具合を直すだけでも印象は大きく変わります。購入希望者は「手直し費用」を気にしますので、細かい部分を整えることが高値成約につながります。
3. 販売戦略の工夫
売出価格の設定、広告媒体の使い方、写真の撮り方なども大きく影響します。特にポータルサイトでは「1,000万円以内」など検索条件の区切りを意識すると反響数が増えやすいです。
まとめ
不動産の価格は一律に決まるものではなく、周辺事例や地価、公示価格、路線価、そしてAIによる統計的分析など、複数の手法を組み合わせて算出されます。大切なのは「現実的に売れる価格」を見極めることです。
一見すると魅力的な「高額査定」よりも、根拠のある「適正査定」を選ぶ方が、結果として満足度の高い売却につながります。また、売主様ご自身でも片付けや修繕など小さな工夫をすることで、成約価格を引き上げることが可能です。
不動産は人生の中でも大きな資産取引です。査定の仕組みを理解し、信頼できる不動産会社とともに戦略的に進めていくことが、成功への近道といえるでしょう。
執筆者紹介
佐藤 昌徳
(さとう まさのり)
株式会社ビーティーアール 代表取締役/おうち不動産まるごと相談所
不動産鑑定事務所に20年以上勤務し、不動産業界に携わってからは35年以上の経験を有する。不動産の売却・購入・相続・空き家対策など、幅広い案件に携わり、地域に根ざした適正な価格査定と誠実な対応に定評がある。
「高額査定で契約を取る」のではなく、「適正査定に基づき実際に売れる価格をご提示する」ことを信条とし、お客様にとって最適な不動産取引をサポートしている。



