最終回 福岡市の英断:「5歳児健診×社会性評価」が示すメッセージ
マラソン大会が減る時代。低学年の子どもに本当に必要な運動とは?
近年、小学校のマラソン大会の廃止や順位をつけない方針が話題になることが増えています。
保護者や学校関係者の中には「子どもの体力は大丈夫なのか」と不安を感じる方も多いでしょう。
まず脳科学の観点からお伝えすると、低学年期においてマラソン大会が減ること自体を過度に心配する必要はありません。
なぜなら、この時期の子どもに最も重要なのは持久力よりも、判断力・反応力・感情コントロールといった脳の基礎機能の発達だからです。
子どもの脳は段階的に発達する
小学生期に大きく発達する脳の領域は次の三つです。
・前頭前野(判断・集中・感情制御)
・小脳(運動調整・注意)
・社会脳(対人関係)
これらは学力・社会性・自己コントロールの土台となる重要な機能です。
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低学年期に最も重要なのは「鬼ごっこ」と「ボール運動」
この時期に特に有効なのが
• 鬼ごっこ(逃げる・追う)
• ボール遊び(投げる・避ける・当てる)
といった瞬発・判断・対人要素を含む運動です。
鬼ごっこでは子どもは常に
・逃げるか止まるか判断
・相手の動きを予測
・進路を瞬時に変更
・恐怖や興奮をコントロール
・仲間と関わる
という高度な処理を同時に行います。
さらにボール運動では
・距離・角度・力加減の判断
・動作の切り替え
・感情のコントロール
・ルール理解
が加わります。
これらは前頭前野・小脳・社会脳を同時に働かせる「全脳運動」と言えます。
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持久走が育てる力
一方、持久走は
・心肺機能
・基礎体力
・ストレス耐性
を高める重要な運動です。
ただし脳の実行機能を強く刺激する運動とは性質が異なります。
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持久運動が本格的に重要になるのは高学年以降
持久運動の価値が大きく高まるのは高学年後半から思春期です。
この時期には
・ストレス耐性
・メンタル安定
・自己調整能力
が重要となり、有酸素運動の効果が強く現れます。
つまり発達の順序として
低学年〜中学年
→ 鬼ごっこ・ボール運動
高学年後半〜
→ 持久運動
という流れが自然なのです。
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どちらが正しいかではなく「順番」が重要
持久走が不要というわけではありません。
鬼ごっこやボール運動が万能というわけでもありません。
重要なのは、発達段階に合った運動環境です。
幼少期には体力だけでなく、脳・心・社会性の土台を同時に育てる運動が必要です。
子どもの未来のために、運動を「量」ではなく「質と順序」で考えることが求められています。
参考文献・資料一覧(日本語表記)
■ヒルマンら(2008)
「身体活動と子どもの認知機能」
※運動が注意力・判断力・実行機能を高めることを示した総説
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■シュマーマン(2019)
「小脳と認知機能」
※小脳が運動だけでなく注意・感情・認知に関与することを示した研究
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■エリクソンら(2011)
「運動トレーニングによる海馬容積の増加」
※運動によって記憶を司る海馬が大きくなることを確認
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■チャドックら(2010)
「子どもの体力と海馬・記憶能力の関連」
※体力の高い子どもほど海馬が大きく記憶力が高いことを報告
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■ドネリーら(2016)
「身体活動・体力・認知機能・学業成績の関係」
※運動と学力の関連を示した大規模レビュー研究
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■ハーバード大学医学部(2018)
「運動とメンタルヘルス」
※運動が不安・抑うつ・ストレス軽減に有効であることを報告
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■ローチら(2013)
「高速投擲能力の進化的意義」
※人類は“投げる能力”によって進化したことを示した研究
本記事執筆者:福岡県北九州市で「頭が良くなるスポーツ教室」S.パワーキッズプログラムを展開する 発達×教育×脳科学の実践研究者 山崎憲治



