子どもが変わる!!集中力で
なぜ「環境」を変えると、子どもは動き出すのか
──脳科学・発達理論から見た“再設計”という答え
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前編では、
近年増加している不登校や問題行動について、
子ども個人の問題ではなく、
社会構造と発達環境の変化として整理しました。
後編では、
ではその状況の中で、
私たち大人社会に何ができるのかを
脳科学・発達理論の視点から考えます。
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発達は「教えれば伸びる」ものではない
教育や支援の現場では、
「どう教えるか」「どう導くか」が重視されがちです。
しかし、発達科学の基本原則は明確です。
発達は、外から与えられるものではなく、
環境との相互作用の中で内側から立ち上がるものです。
つまり、
適切な環境が整わなければ、
どれほど正しい指導を行っても、
脳は十分に機能しません。
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子どもの脳が動き出す「条件」
現場で見られる変化を整理すると、
子どもの脳が動き出すときには、
共通する条件があります。
① 安全が確保されていること
恐怖や過度な緊張がある状態では、
前頭前野は十分に働きません。
失敗しても大丈夫だという感覚が、
挑戦を可能にします。
② 失敗が許容されていること
やり直しができる環境は、
抑制・調整・判断といった
実行機能の発達を促します。
③ 対人関係の中で体験できること
社会性は座学では育ちません。
相手の反応を受け取りながら、
行動を調整する体験が必要です。
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管理社会が生んだ“発達の空白”
現代社会は、
安全・効率・管理を優先することで、
多くのリスクを減らしてきました。
しかし同時に、
子どもが身体を通して学ぶ機会を
静かに削ってきた側面があります。
• 失敗から学ぶ経験
• 力加減を体で覚える経験
• 相手との距離を測る経験
これらは、
社会で生きるための土台です。
この土台が十分に育たないまま成長すると、
行動・情緒・学習面に
さまざまな困難が表れやすくなります。
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環境が変わると、行動が先に変わる
現場で観察される変化は、
「理解が深まったから変わる」
という順序ではありません。
多くの場合、
環境が変わる
→ 行動が変わる
→ 感情が安定する
→ 思考が整う
という順序で進みます。
これは、
脳の発達が身体感覚や行動を基盤として
積み上がるためです。
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大人社会に求められている役割
今、必要なのは
子どもを管理することでも、
正そうとすることでもありません。
子どもが安心して試行錯誤できる環境を、
大人社会が意図的に整えることです。
それは、
放任でも、
過去への回帰でもありません。
現代社会の条件を踏まえた
再設計です。
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後編の結論
子どもたちが抱えている困難は、
能力の欠如ではありません。
育つための条件が、
十分に用意されてこなかった結果です。
だからこそ、
環境が整えば、
子どもは再び動き出します。
これは希望的観測ではなく、
発達科学が示してきた事実です。
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次に向けて
では、
人類はどのような能力を
生命活動の中核として育ててきたのか。
そして、
それが失われた社会で、
なぜこれほど多くの問題が
同時に起きているのか。
つづく
参考図書・資料
発達科学・脳科学・実行機能
• アデル・ダイアモンド 著
『実行機能 ― 脳を鍛える方法』
• ジョン・J・レイティ 著
『脳を鍛えるには運動しかない!』
• ハーバード大学 発達研究センター
『実行機能と自己制御に関するガイド』
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感覚統合・身体体験
• A・ジーン・エアーズ 著
『感覚統合理論の基礎』
• エアーズ 著
『感覚統合と子どもの発達』
• 松本千代栄 著
『子どもの感覚統合と遊び』
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社会性・社会脳・対人調整
• マイケル・トマセロ 著
『ヒトはなぜ協力するのか』
• ダニエル・J・シーゲル 著
『マインドサイト』
• 岩田 誠 著
『社会脳とは何か』
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遊び・教育社会学
• ピーター・グレイ 著
『子どもは遊びで育つ』
• デヴィッド・エルキンド 著
『急がされる子どもたち』
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公的資料
• 文部科学省
『不登校児童生徒の実態調査』
• 国立教育政策研究所
『非認知能力(社会情緒的能力)の発達に関する研究報告』
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本稿は、発達科学・脳科学・感覚統合・社会性研究などの学術的知見および公的資料をもとに構成しています。



