子どもを守ったはずの社会が、子どもを壊した(前編)

山崎憲治

山崎憲治

テーマ:子育て

子どもを守ったはずの社会が、子どもを壊した


──脳科学で読み解く「現代子育て」の盲点



近年、教育・医療・支援の現場で共通して聞かれる声があります。
• 落ち着きがない
• すぐ怒る、折れやすい
• 集団行動が苦手
• 集中力が続かない
• 不登校・行き渋りが増えている

これらの変化に対して、
「性格の問題」「家庭の問題」と捉えられることが少なくありません。

しかし、脳科学・発達科学の視点から見ると、
この理解は本質を外しています。



問題は「子ども」ではなく「環境」にある


まず押さえておきたいのは、
子どもそのものが変わったわけではないという事実です。

変わったのは、
子どもを取り巻く社会環境です。
• 公園でのボール遊び禁止
• 学校・園での安全配慮の過剰化
• 苦情・責任回避社会
• 共働き・核家族化
• 管理された習い事の一般化

これらはすべて、
「子どもを守るため」の合理的判断でした。

しかしその積み重ねによって、
子どもが育つために不可欠な経験が失われていきました。



「投げる」「当てる」は、脳の統合訓練だった


発達の観点から見ると、
「投げる」「狙う」「当たる/外れる」といった行為は、
単なる運動ではありません。

この一連の行動には、
• 距離や位置を把握する(空間認知)
• 力を調整する(抑制・制御)
• 相手の反応を読む(社会認知)
• 失敗を修正する(実行機能)

といった脳の複数機能が同時に働きます。

つまり投げる行為は、
**前頭前野・小脳・感覚統合・社会脳を同時に使う
「脳の統合トレーニング」**でした。



なぜボール遊びは消えたのか


社会が問題視したのは、
投げる行為そのものではありません。
• 当たると痛い
• ケガや事故のリスク
• 管理責任・クレーム

こうした「結果」を避けるために、
体験そのものを制限する選択が取られてきました。

結果として、
投げるという発達体験は
社会からほぼ消えました。



管理された環境が奪ったもの

管理された環境は、安全です。
事故も起きにくい。

しかし同時に、
次のような経験が失われました。
• やりすぎた
• 失敗した
• 相手に嫌がられた
• どう調整すればよかったかを考えた

これらはすべて、
**社会で生きるために必要な「調整力」**を育てる経験です。



なぜ注意や叱責では改善しにくいのか

「分かっているのに、できない」
という子どもは少なくありません。

これは意志の問題ではありません。

身体感覚として
「どうなるか」を学ぶ経験が不足しているため、
頭で理解しても行動が追いつかないのです。



行動・情緒・学習に現れる影響


投げる経験を含む調整体験が不足すると、
次のような傾向が現れやすくなります。

行動面
• 衝動的
• 力加減ができない

情緒・社会性
• すぐ怒る、すぐ折れる
• 対人関係が上手く関われない

学習の土台
• 集中が続かない
• 学習が定着しにくい

これらは個別の問題ではなく、
共通の発達背景を持っています。



これは個人の責任ではない

重要なのは、
この問題を「誰かの責任」にしないことです。

現代社会は、
子どもを守るために
「安全」「管理」「効率」を発達させました。

その一方で、
子どもが失敗しながら学ぶ機会を失わせてしまった。

これは
社会構造と発達のミスマッチによって生じた現象です。



前編の結論


問題行動や不登校は、
突然起きるものではありません。

積み重なった発達経験の結果として、
表面化しているのです。

必要なのは、
子どもを責めることでも、
家庭を責めることでもありません。

社会の側が、
「育つ条件」を見直すこと。



次回予告(後編)


では、
この社会構造の中で、
私たちは何ができるのでしょうか。

後編では、
事故やリスクを増やさずに、
失われた発達体験をどう再設計するかを、
社会課題として整理します。





子どもの発達や行動でお悩みの方は、
一人で答えを出そうとせず、
まず状況を整理することから始めてみてください。


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参考図書・資料


脳科学・発達理論
• アデル・ダイアモンド 著
『実行機能 ― 子どもの脳を育てる鍵』
• ジョン・J・レイティ 著
『脳を鍛えるには運動しかない!』
• ダニエル・J・シーゲル 著
『マインドサイト』



感覚統合・身体と行動
• A・ジーン・エアーズ 著
『感覚統合理論の基礎』
• エアーズ 著
『感覚統合と子どもの発達』



遊び・社会性・発達環境
• ピーター・グレイ 著
『子どもは遊びで育つ』
• ヴィヴィアン・G・ペイリー 著
『遊びの中の子どもたち』



社会脳・協調行動
• マイケル・トマセロ 著
『ヒトはなぜ協力するのか』
• 岩田 誠 著
『社会脳とは何か』



公的資料
• 文部科学省
『不登校児童生徒の実態調査』
• 国立教育政策研究所
『非認知能力(社会情緒的能力)の発達に関する研究』



本コラムは、脳科学・発達理論・感覚統合・遊びと社会性に関する研究および公的調査資料を参考に構成しています。

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山崎憲治
専門家

山崎憲治(教育アドバイザー)

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独自開発の運動プログラムや学習プログラムで運動能力を伸し、やる気や集中力、脳の認知機能(理解・判断・記憶・思考等)を高めて学習することで学力も向上する文武両道実現。心身共に子どもの健やかな成長を育む。

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