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井川卓

司法書士と行政書士の二つの資格を生かした相続問題解決のプロ

井川卓(いかわたかし) / 司法書士

司法書士・行政書士 アワーズ事務所

コラム

民法と相続税法における「相続の取扱い」の違い(相続の基礎知識5)

2017年6月20日

テーマ:相続の基礎知識

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き相続税退職 手続き

相続に関する取扱いを定めている基本法は民法であり、相続税法も民法の考えに基づいており、大半において取扱いに違いはありません。
しかし、養子の数などいくつかのケースで異なった取扱いをするケースがあります。
なぜこのような違いが生じるのでしょうか?
また、具体的にどのような異なった取扱いがなされるのでしょうか?

1. 民法の基本原理

・私人の日常生活に関する財産と家庭の関係を定めているのが民法です。
 日本は資本主義社会ですから、民法は以下のような基本原理に基づいて体系的につくられています。
  ①個人の平等性と権利主体性・・・すべての個人が平等な権利の主体
  ②私有財産の尊重・・・生産手段の私的所有の保証
  ③契約自由の原則・・・生み出された商品の自由な交換の保証
  ④過失責任主義・・・企業活動を限界付け、その範囲内の活動を保証

2. 相続に関する法律

⑴民法
 ・相続に関する主な法律として、まず民法(第5編相続)があげられます。
⑵相続税法
 ・そしてもう一つは、相続税法です。

3. 民法と相続税法の取扱いが違う理由

・なぜ、民法と相続税法で異なった取扱いがなされるのか?
 先に挙げた養子の数を例にとって説明します。
・民法は上記のように私人間の権利義務関係を調整するための法律です。
 その基本原理である契約自由の原則から、養子縁組という私人間の契約は何ら制限されることなく認められます。
 結果として、民法上養子の数が制限されることはなく、何人でも養子になることができます。
・一方、相続税法を含む税法は国や地方公共団体が私人から円滑に税金を徴収するための法律ですから、徴収の際に私人間に不公平が生じないことが重要になります。
・相続税法上養子の数を無制限に認めると、基礎控除との関係で養子の数が多い場合と少ない場合で相続税額に差が生じることになり、不公平になってしまいます。

  ※基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人(養子も含む)数

<例>Aさん(実子2人・養子0人)
     Bさん(実子2人・養子3人)
 ・民法上AさんやBさんが何人養子を迎えようと、その数を制限することはできません。
 ・しかし、これを税法上も認めてしまうとAさんの法定相続人2人・基礎控除額4,200万円となり、Bさんは法定相続人5人・基礎控除額6,000万円となり不公平です。
 ・そこで相続税法上、一定の制限を加えてこの不公平を緩和しようということです。

5. 民法と相続税法の取扱いの違いの具体例

⑴法定相続人に含める養子の数
 <民法>何人でも相続人になれる
 <相続税法>実子あり→1人まで、実子なし→2人まで
⑵相続の放棄
 <民法>相続人の数に入れない
 <相続税法>相続税の総額の計算の際に法定相続人の数に入れる
⑶贈与財産
 <民法>特別受益として持戻し、財産の年数制限なし
 <相続税法>相続時精算課税を選択していない場合、3年以内の贈与財産のみを加算
          相続時精算課税を選択していた場合、その贈与金額を加算
⑷みなし相続財産
 <民法>特別受益の持戻し、寄与分の差引き
 <相続税法>生命保険金、死亡退職金、生命保険契約に関する権利など

みなし相続財産や贈与財産について、混同されることがよくありますのでご注意ください。
民法と相続税法では異なった取扱いをされることがあることを覚えておいてください。


親族の種類、親等、親族の範囲について(相続の基礎知識1)はこちら
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婚姻と離婚そして内縁について(相続の基礎知識2)はこちら
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親子関係の発生、実子と養子(相続の基礎知識3)はこちら
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井川卓

司法書士と行政書士の二つの資格を生かした相続問題解決のプロ

井川卓(司法書士・行政書士 アワーズ事務所)

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