【激闘最終話】〜感謝とともに帰る旅〜
〜太陽の下で見えた対話力〜
【限界と再生】
壱岐ウルトラマラソン、50キロ地点。
荷物を受け取るエイドにたどり着いたとき、
私は、身体の限界と向き合う
静かな時間に立っていた。
着替えと補給の場所。
けれど、このときの私は、
食欲も湧かず、ただ汗に濡れたウエアを
リフレッシュするだけで精一杯だった。
前半の50キロを終えて、残り半分。
計算上は「まだ余裕がある」
ように見える。
けれど、ウルトラの後半には、
計算というものが一切通用しない。
人間の身体も心も、
数字では測れないゾーンへ入っていく。
【限界を越えるリスタート】
シャツも短パンも、
靴下も総とっかえ。
新しい衣に包まれ、
再び走り出したその5分後、
痛恨のミス
に気づく。
「水を飲んでいない。」
走り出してすぐに喉が乾き始め、
焦りの色が出てきた。
いつも走る時は
現金は持ち合わせていない。
頼みはスマホだけ
後方からは、
50キロの部のランナーたちが次々とスタート。
一気に押し寄せる人の流れ。
それに巻き込まれまいと、
自分のリズムを必死に守る。
人の波は、風よりも強い。
焦りとペースの違いで追い抜きをせねばならず
進路変更の蛇行走法になりストレスを生む
けれど、焦りの中にこそ、
自分との【対話力】が試される瞬間がある。
【対話力とは、心の呼吸】
「水がほしい。」
思わず美穂さんへ送ったメッセージ
でも既読にならない、つまり届かない。
スマホのバッテリーも、
体のエネルギーもギリギリ。
すべてが尽きようとしていた。
それでも脚を止めずに走る。
やっと見えたリスタートから
3キロほど過ぎたエイドの看板に、
ようやく会えた〇〇さん的な
訳の分からない心境で
救われた気がした。
浅いシリコン皿に水を汲み、
一口ずつ喉に流し込む。
この瞬間、健康ってありがたいなと
言葉の本当の意味を知った。
「足りない」を嘆くのではなく、
「今ある」を味わうこと。
それこそが、感謝の始まりなのだと。
ひのきの香りも同じ。
派手に香らずとも、静かに空気を浄化し、
存在そのもので調和をもたらす。
人間もまた、そんな在り方を目指せるのではないだろうか。
【再びの出会い、再びの感謝】
60キロ地点。
昨年リタイアした場所で、
今年も美穂さんが待っていた。
多分ここまで来ないと
昨年同様サポート受けられないだろうな
の気持ちがあった
脚も限界、かなりしんどい。
昨年のようなリタイアは選択肢にはないが
同じくらいの疲労感はあった。
冷たいドリンク、炭酸の泡、
甘めの特製ドリンク。
炭酸水と清涼飲料水を割って飲む
喉を通るたびに、命が戻っていく感覚。
健康とは、数値でも理屈でもなく、
こうした一瞬の【癒し】の中にある。
感謝とは、「ありがとう」と口に出すことよりも、
その存在を通して心が整うこと。
ひのきの森に風が吹き抜けるように、
私の内側が清められていった。
疲労を口にするとあるものを渡された。
空腹時だったら20分くらいで効くよ
筋疲労に効くという。
ドラゴンボールの仙豆を思い出した
2粒放り込み、美穂さんのその言葉を信じ
5分ほど座ったのちリスタート
【素麺という救い】
その後、小島神社の私設エイドへ。
出されたのは、冷たい柚子と梅のドリンク、
そして一口サイズの素麺。「これだー」
流し込める補給食が欲しかった。
ここ2年連続リタイヤでここへ来れなかった
このエイドは知っていたが
素麺を出してることを忘れてた
かすかな塩分となめらかな喉越し
身体にすっと染み込む。
小さなカップの中に、
島の人のやさしさが詰まっていた。
「ありがとうございます。
めちゃくちゃ美味しいです」
地元の気さくなおばちゃんたちが
たくさん話しかけてくれる
「生き返ったやろ?」
その言葉が自然とこぼれた。
孤独な戦いの中に、そっと火を灯してくれる
温かい会話のやりとりに心が和む。
素麺もすすむ(笑)結局4杯
人の支えの中にこそ、再生の力がある。
それは、ひのきが放つ
【抗菌と癒し】の働きに似ている。
悪いものを遠ざけるだけではなく、
空間全体を整え、命が循環する土台をつくる。
人と人の関係もまた、そうあるべきだと思った。
【競争ではなく、共走へ】
66キロ地点のエイドそして関門。
時計を見ると、約1時間の貯金。
「まだまだいける」と信じ込ませる。
時間と戦うのではなく、
時間と共に走る=時間との併走
それは競争ではなく【共走】
それが私の生き方であり、
祈りのカタチと走り。
ひのきの香りのように、
自分を整え、周りを癒しながら進む。
それが、健康と感謝を
循環させる生き方なのだ。
【結びそしてまとめ】
この区間を走り抜けて、
あらためて「対話力」の意味を知った。
それは、誰かと話す力ではなく、
自分と静かに向き合う力。
水を忘れたことも、焦ったことも、
誰かの支えに救われたことも、
すべてが学びであり、祈りだった。
ひのきのように、見えないところで
健康と感謝を育てていく。
それが再生の力。
限界とは、終わりではなく、
感謝が芽吹く【はじまり】なのだ。
【次回予告】
『魂のゴール 〜最後の20km、光のほうへ〜』
関門とのせめぎ合い、
そして壱岐の空の下で迎えた再生の瞬間をお届けします。



