週末コラム | 第3回 軽やかに走る喜び ― 250ccで迎えた三度目の阿蘇ツーリング
5年前にバイクに“戻った”あの年は、何もかもが手探りでした。
エンジンをかけるだけで胸が高鳴り、クラッチを握る手には汗がにじんでいました。
とにかく「転ばないように」「無事に帰るように」と、それだけを考えていました。
久しぶりに走った阿蘇の道は相変わらず美しく、景色に心を奪われながらも、緊張感だけは最後まで抜けませんでした。
――そして翌年。
2年目の阿蘇は、まるで違う風景を見せてくれました。
同じ道を走っているはずなのに、目に映る景色も、心の中の感じ方もまるで違っていました。
それは“慣れ”がくれた心の余裕だったのだと思います。
レンタルショップでバイクを受け取るときも、
去年のような緊張感はどこかに消えていました。
エンジンをかけてクラッチをつなぐ動作にも、自然とリズムが生まれていました。
「さあ、行こうか」――そんな穏やかな気持ちで出発できたのを覚えています。
阿蘇へ向かう道のりでは、去年は感じられなかった“音”や“匂い”が心に残りました。
耳を澄ますと、風がヘルメットをかすめる音が心地よく、
山のふもとに近づくにつれて、草と土の匂いが混ざっていくのがわかりました。
1年目には気づけなかった、走る喜びの細部が見えてきたように思います。
そして、何より大きな違いは“景色を楽しめたこと”でした。
去年は前だけを見つめて必死に走っていましたが、
今年はカーブの先に広がる草原の緑や、遠くの山影の濃淡に自然と目が向きました。
走りながら「ああ、バイクってこういう時間だったな」と、
思わず笑みがこぼれました。
途中の休憩所では、バイクを降りてコーヒーを飲みながら、
ゆっくりと阿蘇の空を眺めていました。
去年と同じ場所に立ちながら、
「一年経って、またここに戻ってこられたんだな」と静かに嬉しくなりました。
若い頃は、どれだけ速く走れるか、そして仲間のバイクよりも速く走れるか、
そんなことばかりを競っていました。
でも今は違います。
速度を上げるよりも、風を感じ、景色を見て、心が落ち着く時間を大切にしたい。
無理をせずに走ることが、こんなにも心地よいものだとは思いませんでした。
帰り道、阿蘇の外輪山のカーブを抜けながら、
ふと、そのエンジン音が心地よく胸に染みていきました。
1年目は“挑戦”の走りでしたが、2年目は“寄り添う走り”でした。
バイクと呼吸を合わせるように、穏やかにリズムを刻みながら走る。
その感覚が、何より幸せに感じられました。
2年目の阿蘇は、“慣れ”がくれたご褒美のようなツーリングでした。
緊張が取れて初めて、本当の楽しさがやってきたのです。
そしてその楽しさは、若い頃のそれとはまったく違う――
“穏やかに満たされる時間”という、年齢を重ねたからこそ感じられる喜びでした。
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