あいテレビのNスタえひめ「未来を変えるSDGs」に登場した椅子の修理ができました(後編)
目次
「大阪の百貨店で40年前に買った椅子なんです・・・。」
「百貨店のウィンドーに飾ってたんですよ・・・。」
「脚先が割れてしまってけど、大好きな椅子なんで、子供の代まで使い続けたいんです!」
愛媛県新居浜市・O様からお問い合わせをいただきました。
この椅子は、飛騨産業さんの穂高№6-A アームチェアといいまして半世紀以上も作り続けられているロングライフの椅子なんですね。
とっても懐かしいシールが残っていました。
修理作業前/O様からお預かりしました。
O様は「脚先が割れた。」と言われていましたが、実際は脚先が剥がれてしまったようです。
40年も前と言いますと・・・
家具づくりにつかわれた接着剤は、尿素系接着剤でした。
尿素系接着剤は、今から30年位前までは、よく接着できるとほとんどの家具に使われていました。
しかし、シックハウス症候群など環境に良くないと、その後は使われていません。
家具の構造上で、尿素系接着剤の一番の欠点は、古くなると接着剤自身が “きな粉” のような粉上になり接着ヶ所が剥がれてしまうんです。
修理作業前①/治具(補助的な道具)づくり
家具修理で一番大切なのは「治具(補助的な道具)づくり」なんです!
O様がお使いの穂高アームチェアの後脚形状は、曲面加工されています。
このような曲面加工されている脚の圧着作業をするには、その形状に応じた治具(補助的な道具)が必要です。
治具(補助的な道具)無しで作業しますと、キッチリと接着できないばかりか、フレームをキズだらけにしてしまいます。
治具(補助的な道具)づくり①
まずはじめに、圧着したい部分に応じた板材を用意します。
治具(補助的な道具)づくりに使う板材は、修理する家具にキズを付けないため柔らかいめの針葉樹を使っています。
治具(補助的な道具)づくり②
脚の形状に応じて墨付け作業をします。
治具(補助的な道具)づくり③
動力機械の帯鋸盤で墨付け線に沿って切っていきます。こういった曲線切りには帯鋸盤が適しています。
治具(補助的な道具)づくり④
帯鋸盤で切った面をサンダーで整えていきます。
治具(補助的な道具)づくり⑤
最後に、椅子本体に取り付けた時に、スベリやズレが出にくいように、桟木付けなどの付帯作業をして完成です。
修理作業②/ビスケットジョイント加工~圧着作業
剥がれてしました脚先の圧着を、目違いを少なくし強固なものにするためにビスケットジョイント加工の溝堀りをしました。
接ぎのビスケットを溝に入れて、新しい接着剤を付けました。
穂高アームチェア用に作った治具(補助的な道)とクランプ類を多用して圧着作業ができあがりました。隙間なども無くキッチリと圧着できていることを確認しました。ここから、約12時間で完全乾燥いたします。
圧着部分をウラ側から見た写真です。ウラ側から見ても圧着部に隙間はありません。
修理作業中③/お届け前の調整作業
クランプを外しました。
「段取り八分に仕事二分」の気持ちで作業していたため、目違いもほぼ無く圧着作業ができました。
圧着部分の色調整ののち、押さえのためのサンディングシーラー、ウレタンフラットの補足的な塗装作業をしました。
ここまで作業しますと、脚先が剥がれていた痕跡はほぼ無くなりました。
最後の調整は、水平バランス調整です。
ガラスの厚盤(水平盤)に穂高アームチェアをのせて水平バランスを取りました。
修理作業後/O様へお届けしました。
このような一連の作業を通して、無事にO様へお届けすることができました。写真右が、今回の修理作業を施した穂高アームチェアです。
O様、ご依頼いただき写真撮影にご協力くださりありがとうございました。土岐泰弘
「段取り八分に仕事二分」
この言葉は、新居浜商工会議所の先輩O様と愛媛県立宇和島高等技術専門校のM先生から教えていただきました。
「どんな仕事でも準備が一番大切!」という意味です。
「思いつくすべての準備をしておけば、仕事は早くきれいにできあがる!」
反対に、準備を怠れば、仕事時間が延びる以上に完成度も落ちてしまいます。
下の写真は、私がお世話になった愛媛県立宇和島高等技術専門校の修了生作品展などのイベントに参加した時のものです。
宇和島時代に教えていただいた貴重な教えを思い出し、これからも微力ながら精進していきます。ありがとうございました。土岐泰弘