生活保護をやめて障害年金を請求できる?返還、加算、併給の可能性について
「糖尿病で障害年金を申請しようか考えている」「不支給となったがなんとかならないか」と模索している人に向けて、糖尿病の認定基準、申請のポイント、また、申請から受給確定までの事例をまとめました。
目次
日本における糖尿病
厚生労働省は「国民健康・栄養調査」という調査を行っています。国民の身体の状況、栄養摂取量、健康に関する意識などを把握し、健康づくりや生活習慣病対策を推進するための基礎資料を得るための調査です。
平成28年(2016年)国民健康・栄養調査報告(厚生労働省)の調査結果を見ると、第1部は「糖尿病に関する状況」と題され、「糖尿病が強く疑われる人」「糖尿病の可能性を否定できない人」が、それぞれ約1000万人と推計されています。平成9年(1997年)の調査では、糖尿病が強く疑われる人は約690万人、糖尿病の可能性を否定できない人は約680万人と推計されていますから、糖尿病リスク者が大幅に増加していることは明らかです。
また、平成29年(2017)患者調査(厚生労働省)によれば、糖尿病の患者数は男性約184.8万人、女性約144.2万人、総患者数328.9万人と推計されています。糖尿病が「現代の国民病」とも呼ばれる所以です。
しかし、糖尿病は多くの人が知っている病気の一つですが、糖尿病がどのような病気であり、糖尿病を持った人が日常生活や仕事上でどのような制限を抱えているか、という点になるとあまり知られていないと言えるでしょう。また、糖尿病と診断され、日常生活や仕事が制限されている方でも糖尿病が障害年金の対象になっていることを知らない人も多いのではないでしょうか。
その理由として、そもそも病気やケガなどで障害が生じたときに受給できる「障害年金という制度があることを知らない」、あるいは知っていても「糖尿病はその対象ではない」と思っている方が多いことがあげられます。しかし、日常生活や仕事が制限されるようになった場合、糖尿病は障害年金の対象になります。
代謝疾患における障害年金の認定基準
障害年金の受給には次の3つの要件があります。そして、障害年金を受給するためにはこの3つの要件をすべて満たしている必要があります。
(1)障害の原因となった病気やケガで初めて医師の診療を受けた日=「初診日」が確定していること。
(2)保険料の納付要件を満たしていること。
(3)国が定めた障害認定基準に該当していること。
上記(3)の国が定めた障害認定基準については、日本年金機構のホームページで傷病別に確認することができます。糖尿病の認定基準は「代謝疾患による障害」にあります。
「代謝疾患による障害」の「認定要領」には、「(1)代謝疾患は、糖代謝、脂質代謝、蛋白代謝、尿酸代謝、その他の代謝の異常に分けられるが、認定の対象となる代謝疾患による障害は糖尿病が圧倒的に多いため、本節においては、糖尿病の基準を定める」とあります。
つまり、表題は「代謝疾患による障害」となっているものの、中身は糖尿病による障害の認定基準ということです。日本年金機構の該当ページをもとに糖尿病の障害認定基準を見て行くことにしましょう。
障害等級1級
身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの(他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態)。
障害等級2級
身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの(必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害です)。
障害等級3級
身体の機能に、労働が制限を受けるか、または労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの(日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある方が3級に相当します)。
この認定基準のいずれかに該当している場合、国が定めた障害認定基準に該当していることになります。
※()内は「政府広報オンライン」で示されている具体的な説明を抜粋したものです。
糖尿病には合併症があります。そのため認定要領の(3)には「障害の程度は、合併症の有無及びその程度、代謝のコントロール状態、治療及び症状の経過、具体的な日常生活状況等を十分考慮し、総合的に認定する」とされています。
糖尿病の障害認定基準は、たびたび改正されてきました。直近の改正は、平成28年(2016年)6月に行われました。この改正に際して日本年金機構が出したパンフレットには、改正後の糖尿病の障害認定対象者について「治療を行ってもなお、血糖コントロールが困難な症状の方」とあり、具体的には次の3つの条件を示しています。
1:90日以上のインスリン治療を行っている方
2:Cペプチド値、重症低血糖、糖尿病ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群のいずれかが 一定の程度の方(※Cペプチド値は、インスリンが、膵臓からどの程度分泌されているかを把握するものです)。
3:日常生活の制限が一定の程度の方
そして、「改正のポイント」として「以下のものを血糖コントロールが困難なものとして、障害等級の3級と認定します」とあります。
【1】検査日より前に、90日以上継続して必要なインスリン治療を行っていること
【2】次のいずれかに該当すること
(1)内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で、空腹時または随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもの(※Cペプチド値は、インスリンが、膵臓からどの程度分泌されているかを把握するものです)。
(2)意識障害により自己回復ができない重症低血糖の所見が平均して月1回以上あるもの
(3)インスリン治療中に糖尿病ケトアシドーシスまたは高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上あるもの
【3】一般状態区分表のイまたはウに該当すること
上記【3】の「一般状態区分表」は、ア~オまで次のようになっています。このうちのイまたはウに該当している方は障害等級の3級に該当するということです。
ア 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
イ 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの(例えば軽い家事や事務)
ウ 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできない が、日中の50%以上は起居しているもの
エ 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの
オ 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの
なお「一般状態区分表」のうちイやウより重い制限や支障があるエやオに該当し、また、診断書にそれを裏付ける医師の所見や検査数値などが併記されている場合、3級より上位の等級、つまり、1級~2級に該当することもあります。
糖尿病における合併症と障害認定
糖尿病は自覚症状がないまま進行し、知らぬ間に合併症を引き起こします。そして、糖尿病の認定は、多くは糖尿病の合併症に対する認定になります。糖尿病の合併症に対する障害認定について見てみましょう。
①糖尿病性神経障害
高血糖による神経障害で、足の先や裏、手の指に痛みやしびれなどの感覚異常があらわれます。糖尿病性神経障害は「神経系統の障害」の認定要領によって認定されます。
「神経系統の障害」の認定要領の(3)には、「疼痛は、原則として認定の対象とならない」とありますが、続いて「糖尿病性神経障害による激痛等の場合は、疼痛発作の頻度、強さ、持続時間、疼痛の原因となる他覚的所見等により、次のように取り扱う」として、次の2つを示しています。
ア 軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度のものは、3級と認定する。
イ 一般的な労働能力は残存しているが、疼痛により時には労働に従事することができなくなり、 就労可能な職種の範囲が相当な 程度に制限されるものは、障害手当金に該当するものと認定する。
②糖尿病性網膜症
高血糖により、眼の網膜にある非常に細い血管が損傷を受けて眼底出血を起し、視力障害をもたらすものです。成人後の失明の主な原因になっています。糖尿病の合併症が眼にある場合、障害の程度は「眼の障害」の認定要領によって認定されます。
両眼が失明した場合は1級に認定されますが、両眼の視力の和が 0.04以下も1級ですし、両眼の視力の和が 0.05 以上 0.08 以下は2級、両眼の視力が0.1以下(眼鏡によって矯正をした場合の視力)に減じたものは3級など、詳細に認定基準が定められています。
③糖尿病性腎症
高血糖により、老廃物を尿として排泄する腎臓の働きが低下すると、最終的には透析治療が必要になります。糖尿病性腎症による障害の程度は「腎疾患による障害」の認定要領によって認定されます。
認定については「腎疾患は、その原因疾患が多岐にわたり、それによって生じる臨床所見、検査所見も、またさまざま」とし、「検査成績によるほか、合併症の有無とその程度、他の一般検査及び特殊検査の検査成績、治療及び病状の経過等も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して総合的に認定する」としています。
なお、「人工透析療法施行中のものについては、原則として2級と認定」、また「障害の程度を認定する時期は、人工透析療法を初めて受けた日から起算して3月を経過した日(初診日から起算して1年6月を超える場合を除く。)」とされています。
④糖尿病足病変
また、糖尿病による足のトラブルの総称を糖尿病足病変と言います。足病変には、足の潰瘍や変形などさまざまなものがありますが、重症になると壊疽を起こし、足を切断することにもなります。こうした場合「肢体の障害」の認定要領によって認定されます。
肢体の障害は、上肢、下肢、体幹・脊柱の機能、肢体の機能の障害に分かれ、「下肢の障害」についても機能障害、欠損障害、変形障害及び短縮障害に区分されています。
障害年金申請のポイント その1「初診日」
糖尿病で障害年金を申請する場合、特に気をつけたいのが上に示した支給要件の「(1)障害の原因となった病気やケガで初めて医師の診療を受けた日=初診日の確定」です。
障害年金は一般的に知られている老齢年金と同じく2階建てになっています。つまり、老齢年金が国民年金と厚生年金の2階建てになっているように、障害年金も障害基礎年金と障害厚生年金の2階建てになっています。そして、初診日に国民年金に加入していた場合は障害基礎年金、厚生年金に加入していた場合は障害厚生年金を受給することになります。
また、障害基礎年金の保障範囲は障害等級1~2級、障害厚生年金は障害等級1~3級と保障範囲が異なっています。初診日に加入していた年金制度によって、申請できる障害年金の内容が違ってくるのです。
初診日が確定できない場合、ほとんどが不支給となってしまいます。そして、糖尿病は治療が長期にわたるため、初診日の確定が困難になるケースが少なくありません。
事情があってA病院からB病院に転院して治療していた方がいるとしましょう。そして、ここ数年はB病院で治療を続けていたものの症状が重くなり、障害年金の申請を検討したとします。
この場合、初診日はA病院で初めて診察を受けた日になりますから、初診日を証明する「受診状況等証明書」の作成をA病院に依頼することになります。
A病院にカルテが残っていれば受診状況等証明書を作成してもらえます。しかし、初診日から長期間経過しているとカルテが残っていないというケースもあり得ます。受診状況等証明書はカルテをもとに作成するものですから、カルテが残っていなければ受診状況等証明書を作成することはできません。
こうした場合、カルテのサマリー(病歴等の要約)や受付記録がコンピュータに残されていないかなど、初診日の確定のためにさまざまな手を尽くさなければなりません。
そうした努力にも関わらず、初診日を確定する書類が見つからない場合は「受診状況等証明書を添付できない理由書」を作成します。ただし単に書類を作成すればよいというわけではなく、障害者手帳取得時の診断書や、A病院からB病院への紹介状など初診日の証明につながる有力な参考資料が必要になります。
糖尿病は自覚症状がないまま、ゆっくり進行します。また、病院で糖尿病と診断され、自分が糖尿病であることを知ったとしても、障害年金の基準に該当する症状に至るまでには相当程度の時間がかかります。
例えば、糖尿病による腎機能の低下が指摘されてから、人工透析を開始するまでの期間は平均13.4年という調査結果があります。また、糖尿病と診断されたあと適切な治療を受けずにいた場合、糖尿病の発症から20~30年で透析が必要な腎不全に進行するケースが多いことも報告されています。
障害年金の申請は一般の方が自分で行うこともできます。しかし、糖尿病による障害年金の申請で初診日が分からない場合、障害年金の実務の専門家である社会保険労務士のサポートが必要になるでしょう。
障害年金申請のポイント その2「病歴・就労状況等申立書」
また、障害年金の申請にあたっては「病歴・就労状況等申立書」を添付します。
発病から現在までの治療経過、日常生活や就労状況を時系列に沿って記載するものです。入院の時期、インスリン治療を行っているならインスリン注射のペースや回数、仕事をしているのであれば就業時間などを具体的に記載します。
また、インスリンによる低血糖から疲労感や集中力の低下があり、そのため「職場での部署が変更になった」「低血糖による意識レベルの低下があるため車の運転ができない」など、日常生活や職場での制限も具体的に記載します。
「食後、血糖値が上昇するため、職場では午後に時間をおいて休憩がとれるようなっている」など、職場の配慮があればその点の記載も忘れないようにしましょう。
ただし、事実を曲げてオーバーに書いても意味はありません。医師が作成する診断書と整合性がなければ信憑性が失われるからです。
その一方、医師の診断書の内容も確認しておきましょう。診断書には先にも紹介したように「一般状態区分表」が記載され、医師がア~オの区分から「一般状態」を選択するようになっています。また、「一般状態区分表」のほかにも、「現症時の日常生活活動能力及び労働能力」という欄があり、医師が所見を記載します。
実は日常生活や就労状況等について、障害年金を請求する本人と医師の間で認識にズレがあることも少なくはありません。診断書は医師が記載するものですから、医学的な事柄の変更を医師に求めることは許されませんが、日常生活や職場での制限や支障については、医師が直接、見ているわけではありません。
そのため、診察の際に自分の実際の状況を詳しく医師に伝えておく必要がありますし、診断書の医師の所見が実際の状況とあまりに隔たりがあると感じられる場合、修正や加筆を依頼することも考えられます。
ただ、こうした交渉を申請者が患者という立場で行うのには難しさが伴います。第三者として社会保険労務士のような専門家が間に入ったほうが、ことがスムーズに運ぶケースは少なくありません。また、医師は治療の専門家であっても「障害年金請求の専門家ではない」という事情もあります。
次に糖尿病による障害年金の事例を見てみましょう。
事例1:糖尿病で障害年金2級受給
40代の男性の事例です。平成16年に健康診断で糖尿病との指摘を受け、投薬治療を開始しました。しかし、4カ月ほどで慢性腎不全となり、その後、約15年間、通院と投薬治療を続けていました。
その間、大きな変化はありませんでしたが、令和元年の健康診断で腎臓関連の数値が大幅に悪化していることが判明し、翌令和2年から人工透析を受けるようになりました。人工透析を受けることは日常生活や仕事のうえで大きな制限が生じます。障害年金の申請を検討しましたが、自分ではどのように申請をしてよいか分からず、当方に申請のサポートを依頼されました。
人工透析を行っている場合は原則2級に認定されます。
しかし糖尿病の治療期間が長い場合、初診日が分からず申請が困難となるケースは少なくありません。しかし、幸いこの方の職場では初診時からの健康診断結果のコピーをすべて保管しておられたためスムーズに申請を行うことができました。その結果、障害基礎年金2級78万1700円、障害厚生年金2級(報酬比例部分)35万6260円、合計年金額113万7960円を受給することができました。
コロナ禍の中、直接お会いして対応することはできませんでしたが、これまでの状況などを電話で詳しくお話しいただき、スムーズに申請を行うことができました。
対面以外でも、電話、メール等でご相談に乗り、障害年金の申請のサポートを行い、受給をかちとることも可能です。
事例2:糖尿病性腎症で申請中
34歳の女性の方の事例です。長年1型糖尿病の治療を続けていましたが、腎機能の低下により、令和2年2月から人工透析が始まりました。現在は、腎臓と膵臓移植を視野に入れた治療を続けています。
当初、ご自分で障害年金を申請しようと考えていらっしゃいましたが、申請手続きの難しさを知り、当事務所にご連絡くださいました。電話でのヒアリングでもよいとのことで、電話でお話を伺いました。その後、ご自身が年金事務所から取り寄せた書類、作成済みの受診状況等証明書などを郵送していただきました。
内容を確認したところ、受診状況等証明書に一部訂正事項があることが判明しました。早速当方から医療機関に訂正を依頼し、対応中です。
障害年金の申請に際しては、医療機関とのこうした交渉が必要になることがあります。社会保険労務士のような専門家が第三者として間に入ることでスムーズに進むケースは少なくありません。
事例3:腎不全で障害厚生年金2級受給
特殊職種の技師として高収入を得ていた方の事例です。長年、高血圧の投薬治療を続けていましたが、高血圧による腎臓機能の低下から腎不全となり、人工透析に至りました。そこで初めて障害年金の申請を考えましたが、手続きの煩雑さを知り、当事務所に相談されました。
お話を伺うと、障害年金の遡及請求分も含めて受給できるのではないかと考えられました。遡及請求とは、文字通り「過去にさかのぼって障害年金を請求する」ことです。障害年金を請求できる時点で、なんらかの理由で請求をしなかった場合の請求方法です。
障害年金の遡及請求は、本来の請求に比べ難しいとされています。
初診日は高血圧を呈していた時点ではなく、腎疾患の所見が指摘された日時が初診日とすることが有利と判断しました。また、病歴・就労状況等申立書の記載については障害認定日(初診日から1年6カ月経過した日)時点の文言に注意し、認定日の頃の日常生活の困難さを具体的に記載しました。
その結果、障害厚生年金2級+遡及請求分を受給することができました。内訳は障害認定日からの遡及請求2年分、認定3級で約400万円。現症は、腎不全により障害厚生年金2級の認定で年額226万円でした。
障害認定日には人工透析はまだ実施されておらず、また、障害認定日時点では高収入であったため遡及請求の可否は最後まで分かりませんでしたが、良い結果が出て「さすが専門家は違う」と喜んでいただきました。
事例4:1型糖尿病で不支給から障害厚生年金3級受給
50代の男性の方の事例です。障害年金は一般の方も自分で申請することができます。この方も1型糖尿病で、ご自身で請求されました。しかし、結果は不支給。
障害年金の審査はすべて書類で行われます。そのため、書類の準備には慎重を期さなければなりません。書類に不備があると申請後、返却されることもあります。
この方の場合、申請に際しては会社を休んで5~6回は年金事務所に通い、また、診断書の訂正などで病院にも何度か足を運ばれていました。そこまでして申請し、不支給の通知です。ご自身ではどうすればいいか分からず、当事務所へ相談に見えました。
当事務所で、この方が提出された診断書や申立書などを精査し、不支給を覆す切り口があるか検討しました。そして、万全を期して審査請求を行いました。審査請求とは、障害年金請求の結果に納得がいかない場合、厚生労働省地方厚生局の社会保険審査官に不服申立てを行う制度です。
5月23日付けで申請、7月11日付けで障害厚生年金3級受給決定をかちとることができました。
通常、審査請求に対する決定には時間がかかり、最低3カ月はかかります。例のないスピード判決でした。障害特例を利用し、受給年金額も100万円アップすることができ喜んでいただきました。
障害年金の申請書類提出に際しては、審査官が疑問に思うところを事前に想定して準備しておくことがスピード受給のポイントです。当事務所からの申請後、審査官から不備などの連絡はありませんでした。
審査請求は、処分のあったことを知った日の翌日から起算して3カ月以内に行う必要があります。
その間に決定を覆す資料を収集し、また、審査官を納得させる書類を作成することは容易ではありません。専門家のサポートが必要になるでしょう。また、障害年金は「働いていると受給できない」と思い込んでいらっしゃる方が少なくありませんが、障害年金は働きながら受給することも可能です。
事例5:糖尿・脳梗塞で障害厚生年金3級受給
脳梗塞を患い、めまいと、少し歩くだけで足が痺れて歩けなくなり、そのため会社を退職なさった方からのご相談でした。こうした状況で「障害年金を受給できるだろうか」ということです。
松山で相談会を開きヒアリングを行ったところ、脳梗塞の他に糖尿病も患っていることがわかりました。脳梗塞によるめまい等は、平衡機能の障害によって障害年金を申請することができます。足のしびれは糖尿病からくる間歇跛行(かんけつはこう)ではないかと考え、糖尿病についても申請をお勧めしました。
「脳梗塞による平衡感覚の障害(平衡機能に著しい障害を有する場合は2級、中等度の平衡機能の障害のために、労働能力が明らかに半減している場合は3級などの基準があります)」、「糖尿病による間歇跛行」のどちらかで認定されればと考え、並行して手続きを進めました。
初診日の証明については、初診の医療機関が沖縄であり、遠隔であるため若干心配しましたがスムーズに手続きが進み申請することができました。その結果、2つの傷病について認定され、障害厚生3級を受給することができました。
まとめ
糖尿病は「現代の国民病」とも言われ、その病名はよく知られていますが、糖尿病で障害年金を申請できることはあまり知られていません。しかし、「初診日が確定していること」「一定の保険料納付要件を満たしていること」「障害認定基準に該当していること」、これら3つの要件を満たしていれば障害年金を申請することができます。
ただ、糖尿病の認定は、血糖のコントロール状態そのものの認定もありますが、多くは糖尿病の合併症に対する認定になります。糖尿病の合併症には、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症などがありますが、例えば糖尿病性網膜症は「眼の障害」の認定基準で判定することになります。
こうした点で糖尿病の障害年金の申請は複雑であり、また、長い治療期間を要する糖尿病の場合、初診日の確定が困難な場合も少なくありません。糖尿病による障害年金の申請にあたっては社会保険労務士に相談されることをおすすめします。