ICTで変わる「読む力」〜スクロールとハイライトの先にあるもの〜

大江香織

大江香織

テーマ:デジタル・シティズンシップ

「画面でばかり読んでいて、本当に内容が頭に入っているの?」
そんな不安を感じたことがある保護者の方も多いのではないでしょうか。
GIGA端末が導入され、子どもたちは紙の教科書だけでなく、タブレットで文章を読む機会が増えました。確かに、紙とデジタルでは「読み方」が違うのです。

たとえば、紙の本なら「どこに何が書いてあったか」を空間で記憶している子もいますが、デジタルでは画面をスクロールすることが多いため、全体像をつかみにくい。文章を一度に見渡すのも難しいため、残りがどれくらいあるかというのも認識しづらく、「読みにくい」「わかりにくい」と感じる子もいます。

では、デジタルで読むことに意味はないのでしょうか? 実はそんなことはありません。

ICTを活用することで、「読むこと」そのものが「受け身」から「能動」に変わる子どもたちもいるのです。
たとえば、子どもたちは今、タブレット上で大事なところにハイライトをつけたり、自分の言葉で要約を書き込んだり、辞書や画像検索を駆使しながら文章を読み進めたりしています。
これらはすべて、「ただ読む」だけではなく、「理解しようとする行動」です。
もちろん紙の教科書の時にも「赤い線を引きましょう」というような指導がありましたし、参考書に付箋を貼って要約を書き込んだりすることもありました。
ですが、「本に書き込みをするのはいけないこと」というなんとなくの罪悪感が積極的にそれをすることにストップをかけていたという背景もあります。
デジタルでは「本に書き込みをする」のハードルが下がっています。「間違って書いてもきれいに消せる」「何度でも書き込める」というのは大きなメリットですね。

また、ある小学校では、読み取りが苦手だった子が、目で文字を読むだけでなく、読み上げ機能を使って耳でも確認しながら文章の内容を捉えられるようになったという事例もあります。
これも、ICTだからこそ可能な「読みの多様性」です。

もちろん、全員にとってデジタルが読みやすいとは限りません。大切なのは、子どもにとって「どの読み方が一番理解しやすいか」を見極め、選べる環境を整えることです。
紙とタブレット、文字と音声――選択肢があることが、学びの可能性を広げるのです。
どちらかにしろ、という極端な議論をする時期はもう過ぎ去りました。デジタルは、可能性を広げる一つの手段です。

これからの時代、「読む力」は画面上の文章だけでなく、チャット、SNS、データ、複数の資料を行き来する力も含まれていきます。
ICTを通して、子どもたちは「読み取る力」だけでなく、「読み分ける力」を育てているのです。

本をめくる指先の感覚とは違うけれど、そこには確かに「理解しようとする目」があります。
それこそが、ICTで変わる「読む力」の本質なのかもしれません。

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大江香織
専門家

大江香織(教育情報化コーディネータ)

株式会社ハイパーブレイン

教育用AIチャットボットや、教育委員会と学校の情報共有をスムーズにするダッシュボードなどのICTツール開発。教師本来の業務である授業の充実や子どもとの触れ合いに専念できるようサポートします。

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