お仏壇にお参りするということ
こんにちは。旭物産の成田です。
今日から2回に分け、お仏像の修復に欠かせない工程の1つである「塗り」を行う
職人さんのお話をしたいと思います。
お仏像の仕様について
まず初めに説明しますと、お仏像の仕様にはいくつかの種類があります。
仕様が違うと、外観や工程が違ってきます。
例えば木地(きじ)仕様というものがあります。
木地とは、分かりやすく言うと木材の表面に見える模様、つまり年輪など木目のことで、
木地仕様はこの木目がはっきり見えている状態です。
仏師さんが彫った、木地が見えるままの状態で安置されているお仏像があります。
それが木地仕様のお仏像です。
木地仕様のほかに金仏(きんぶつ)のお仏像があります。
さらにもう1つ、彩色仕上(さいしきしあげ)と言って、ご本尊様の両隣に安置される、色とりどりに彩色されたお仏像があります。
今回は木地仕様や彩色仕上ではなく、金仏のお話です。
金箔押し
金仏は皆さんもよくご覧になっているのではないでしょうか。大体のお寺の本堂のご本尊様は金色に輝いていますが、あの光り輝くお仏像が金仏です。
ご本尊様も台座も後光もすべて金箔押しした仕様になっていることが多いです。
ですが、何百年も経過して日々のお参りのろうそくや線香の油煙で燻されたり、金箔が剥がれたり、劣化したりしているご本尊様もあります。
そういうご本尊様は黒ずんで見えます。
ちなみに、台座や後光は金色なのにご本尊様だけ黒いこともあります。
それは過去に台座と後光を修復したとき、
恐らくご本尊様は現状のままにしておこうということになり、ご本尊様に金箔を新たに押す(貼る)という修復をしなかったからでしょう。
よく見ると、全体的に黒ずんでいてもところどころ金色が見え隠れしています。
下地塗り
ところで金箔は、木材から彫られたお仏像に直接押すわけではありません。
それだと、金箔を押しても後で剥がれてしまいます。
ということで、金箔を押す前に下地塗りという工程が必要になります。
お仏像の上に薄く、均等に膜をコーティングする感じです。
下地塗りには漆(うるし)や、カシューという塗料を使用します。
カシュ―というのは、あのカシューナッツがなる木のことで、
そこから取れる塗料のこともカシュ―と呼んでいます。
漆やカシュ―を塗ると木材の表面がツルツルになり、金箔を押しやすくなります。
また、お仏像にコーティングするということは、木地仕様のままのお仏像より、耐久性を強くする意味もあるのでしょう。
「よりいっそう輝くものへ」
このような、お仏像作りの中で「塗る」工程を担うのが、今日ご紹介する塗師屋(ぬしや)さん。表面上は見えない大切な役割を担ってくれている職人さんです。
そんな塗師屋の社長さんにインタビューし、会社のビジョンや塗師屋さんになったきっかけなど、いろいろ聞いてみました。
ちなみに塗師(ぬし)というと、もともとは主に漆を塗る職人のことで、
江戸時代以前から漆芸家の名称としても用いられています。今でも「塗師屋」は「漆器を製造・販売する人」の意味でも使われています。
それでは、わたしが日ごろお世話になっている塗師屋さんをご紹介します。
有限会社竹正(たけしょう)の社長、竹森康二さんです。
現在56歳(インタビュー時:2022年3月)。脂が乗り切った職人さんです。キャリアはなんと34年にもなるそうです。
成田:塗師屋さんになったきっかけを教えてください。
竹森社長:たまたま入った仏壇製造所で、塗りの部門の方が退職されたので塗りの仕事に就きました。
今まで続いているのはご縁があったからと、この仕事が好きだからです。
成田:どんな仕事をしていますか?
竹森社長:木工製品の塗装です。
中でも、主に寺院仏具への漆塗りとカシュー塗りを行っています。
成田:仕事は何人でされていますか? また、お師匠さんのことを教えてください。
竹森社長:会社には私を入れて8人ほどの職人がいます。
私にとって師匠と言うと、修業時代に仏壇製造所の工場長だった森田正二さんという方で、
23年前に亡くなられました。
素晴らしい職人さんで、いろいろなことを教わり、多くの励ましもいただきました。
弊社の屋号「竹正」の「正」は、私が創業するときに師匠の名前から一字いただいて付けました。
成田:仕事をする上で心がけていらっしゃることは何ですか?
竹森社長:弊社のグランドビジョンは「かけがえのない想いを、よりいっそう輝くものへ」です。
この言葉に嘘のないよう、お客様に「竹正に頼んで良かった」と思っていただける仕事に取り組んでいくだけです。
成田:わたしの会社では竹正さんにお仏像の塗りをお願いしていますが、お仏像以外には何を塗っていらっしゃいますか?
竹森社長:基本的には、依頼されたものはできる限り塗らせていただいております。
寺院仏具全般以外にも寺院の内装(柱、框※など)、古家具座卓、テーブル、わっぱ(木製弁当箱)、
からくり人形、さまざまなオブジェ、テーブルウェア、看板、陶器、建築建材、車のハンドルなどなどです。
※框(かまち):障子、ふすまなどの建具の周囲の枠のこと
成田:お仏像以外にもたくさんのアイテムを塗っていらっしゃるんですね。ちょっとびっくりしました。
今日はここまでです。
竹森社長は業界に入られた経緯を「たまたま」とおっしゃっていますが、私には「なるべくしてなった」感じがしてなりません。
それくらい腕の良い職人さんなのです。
それでは、竹森社長のインタビューの続きは、次回をお楽しみに。