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薪ストーブの規制はいかにあるべきか?③ー 私が形式に基づく規制に反対する理由(その3)

大屋渡

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テーマ:薪ストーブから見える社会の現実

 前回、燃焼設備を排出量抑制のチャンピオンデータによって社会的に規制を押し進めた例としてダイオキシン類を挙げ、その結果、日本のあちこちに存在していた小規模事業者の焼却施設がどんどん「駆逐」されていったという話をしました。
薪ストーブの規制はいかにあるべきか?②

 前回も少し感想として述べましたが、そのような「駆逐」が社会にとって良かったのかどうか?私にはわかりかねます。しかし、薪ストーブについては、煙や臭いが問題だからと、ダイオキシン類の規制のような一律のチャンピオンデータのクリアーを求めるようなタイプの規制を行って日本からの駆逐を目指すのはナンセンスで、それは社会全体としてはマイナスであろうと私は考えております。

 なぜなら、社会全体としてエネルギーのより効率的な利用を目指すという工学的な視点からは、まさに「エネルギーの地産地消」と呼ぶべき薪ストーブのメリット、つまり、育ったバイオマスが、その場所に出来るだけ近い場所で低品位な熱エネルギーに至るまでロス少なく利用し尽くされるというのは、日本各地、あちこちに薪ストーブがあってこその話です。

 少し話が逸れますが、同じ森林資源のエネルギー活用でも、木質バイオマス発電は、工学的な視点で言うと施設が大規模に過ぎて、施設の有効な稼働に必要な大量の木材を常に調達しようとすると、遠方からの輸送コスト等が嵩み、また木材の燃焼に伴って発生するエネルギーのうち電気という最高品位のエネルギーに変えられるのはごく一部で、さらに発電所からの送電ロスも相まって結果的にもとのエネルギーのかなりの部分が利用できないまま失われてしまうので、私は賛成はしていません。

 あとは災害時に最強(煙突システムさえ影響がなければ)というメリットが薪ストーブにはありますが、それも日本各地、人が生活しているあちこちに設置されていてこその話です。

 何かしら利用可能な木質資源があって、人が生活をしている場所であるなら「それが、どこであっても」薪ストーブは工学的には有利です。逆に限られた場所でしか設置できなければ、エネルギー源としての薪ストーブの社会的なメリットは相当なくなります。

 少なくとも利用可能な森林資源があって、人口密度も充分低い地域で、現に周りに自分以外は誰も住んでいないような山奥ような場所での暮らしであれば、これは火災関係以外での規制は何も必要なく、安価で排ガス処理機能が何もない薪ストーブでも、もう、どんどん使えば良いと思うのです。

 しかし一方で、都会の住宅密集地で薪ストーブを使うならば煙や臭いは相当低く抑えられなければならないのは、常識的には誰にでもわかることです。

 そこで本コラムの最初の話になるのですが、薪ストーブを使う誰もが「エコ」ということで、ご近所さんのことも考えて煙や臭いに充分気を遣ってくれれば良いのですが、実際には、まるで山奥で一人で暮らしているかのように「エゴ」丸出しの状態で、都会の住宅密集値で薪ストーブを使う方がいらっしゃるというのが現実で、社会全体として薪ストーブのメリットを享受するには必要な規制を設けるしかないのかな……という話です。
薪ストーブでエコな暮らしは難しい

 そのように「山奥」と「都会の住宅地」のように、使用される地域ごとに、許容される煙や臭いの排出量が極端に異なる性質がある薪ストーブに対して、形式に基づく規制を行おうとすると、やはり地域ごとに適切な規制値として、できるだけ細かく定めていかなければなりません。

 そういう地域ごとに細かく規制値を定めた例として、比較的わかりやすいのが悪臭と騒音の規制です。都道府県知事が規制が必要な地域と、その地域ごとの規制値を指定します。逆に言えば、そういう指定のない山奥とかなどは臭いも音も出し放題ということでもあります。
悪臭防止法の概要
騒音規制法の概要

 一見、薪ストーブでも、この悪臭や騒音の規制と同じようなスキームを採用すれば良いように思われるかもしれませんが「どの地域を、どの程度のレベルの規制の対象とするか」を都道府県知事が定めるというやり方は、実のところはかなり大変です。

 というか「自分の住んでいるところはどんな規制なんだろう」とか実際にやってみるとすぐにわかりますが、かなりややこしいです。ある区市町村を都道府県知事が対象にすると定めたとしても、それで一律で規制するのが適切かということでもありませんので……たとえば



法第4条第2項各号の規定により定める規制基準を運用する区域は、1に掲げる規制地域(註;渋谷区)全域とし、次に掲げるところにより区分する。

ア 第1種区域 都市計画法(昭和43年法律第100号)第8条第1項第1号の規定により定められた第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域及び準住居地域並びに同号の規定による用途地域として定められていない地域であって第2種区域及び第3種区域に該当する区域を除く区域

イ 第2種区域 都市計画法第8条第1項第1号の規定により定められた近隣商業地域、商業地域及び準工業地域並びにこれらの地域に接する地先及び水面

ウ 第3種区域 都市計画法第8条第1項第1号の規定により定められた工業地域及び工業専用地域並びにこれらの地域に接する地先及び水面

渋谷区の悪臭規制基準

 同じ市区町村内でも状況は異なるので、このように同じ行政区内をさらに細かく地域を区分して、その区分ごとに、また状況に応じて、細かく規制値を定めていくのですが……実際問題、それでも個々の現場の状況に応じて「これは妥当だ」と思えない場合も普通にあります(道路の最高速度規制とか、似ている部分があると思います)。

 さらに街の状況は、時間と共にどんどん変化していくものですが、かといって、こういう体系付けられた地域区分や規制値を変えるというのは相当に困難な、大変な作業になります。

 要するに、規制として場所ごとの実態に合わせて細かく対応し、さらに昨今著しくなってきた「時間による状況の変化」にも柔軟に対応していくなんて、実際には無理な話となります。それが形式に基づく規制の根本的な問題です。

 形式に基づく規制は、全国的にみても公平公正というメリットは確かにあって、「規制的手法」である限り、行政指導が全国一律的に公平に行われることは法治国家として本質的に重要なのですが……

行政機関が事業者に対して行為の内容を決め、その遵守を強制するもの。排出基準の遵守の義務づけ、一定の事業活動に対する許可制や届出制、義務内容や許可要件の履行に対する監督、義務違反に対する介入措置が含まれる。利点としては、必要な行為を具体的に指示することにより明確性があること、短期間で望ましい状態が実現されるという確実性があること、が挙げられる。

環境基本法 用語一覧「規制的手法」

 このように規制的手法による排出規制は、基本は事業活動を対象としたものです。また悪臭は業種指定ありません(すべての事業場が対象)が、騒音では「政令で定める施設」(例えばプレス機など)を設置している事業場だけが規制の対象となるなど、取り締まるべき影響の実態に合わせてテーマごとに規制の「スキーム」のレベルから、色々変えていかなければなりません。

 ちなみに煙、「ばいじん」ですが、これは大気汚染防止法で、騒音防止法と同じく対象とする施設を限定したうえで、施設の種類ごとに、ダイオキシン類と同じように全国一律の基準が定められ、さらに地域の事情に応じて「特別排出基準」や「上乗せ排出基準」が定められる………

 すみません、これって「コラム」ですよね??お勉強しているわけではなかったですよね、申し訳ありません(笑)

 こんなふうにして何が言いたいかと言いますと、形式に基づく規制っていうのは、実際にはこういう「ものすごい制度構築の労力」が必要になるのです。そもそも、どのような「スキーム」で規制するかに始まって、制度設計して、それから地域性を考慮検討していちいち地域ごとの規制値を定める、運用が始まったら申請を受け付けて基準通りに執行されているかどうかチェックする……

 そんなの行政の実務上、絶対に無理と申しますか、日本国として、薪ストーブの他にも取り組まなければならない行政上の課題は、現在、そしてこれから、いくらでもあると私は思います。

 ここで本質的な話をしますと「環境影響」って、すごく難しいのです。煙なら煙の成分種類ひとつとっても、成分ごとに発生する状況やメカニズムも違うし、それが体内に取り込まれる状況、健康影響をもたらすメカニズムも被害の深刻さも異なります。もちろんそもそも人間活動との兼ね合いという問題があります。

 ですので環境、「エコ」にまつわる環境規制というのは、それを形式に基づく規制で機能させようとすれば、個別の状況に応じて合理的になるようにすればするほど、規制の部分部分も、そして全体像としても複雑怪奇なものになっていきます。

 お仕事の一般論ですが、こういう場合はこう、ああいう場合はこう……みたいに状況に応じて、細かく細かくロジックを組み立てていくのは、それはそれでやり甲斐もあるし、運用でも一生懸命正確緻密に履行されていけば、それはそれで美しいものになっていくかもしれません。

 皆さんは土壌の汚染に起因する地下水汚染や健康被害を防止するために、「土壌汚染対策法」という法律があって、土壌汚染を生じないように、建築土木工事や土地開発をする際に、様々な規制がかかっているのをご存知でしょうか?その一つの法律の解説実務書って、A4版の大きな書類で、何ページあるかご存知ですか?

ガイドライン・マニュアル等 | 土壌関係

 本文だけで実に773ページ、付属書にはページ番号降られていないのでわかりませんが、全部で1000ページくらい超えているんじゃないでしょうか?明らかに、むちゃくちゃ分厚いです!!ものすごく緻密で細かいロジックで、色んな場面、状況に対応しようと、現在も改訂が重ねられております。

 ちなみに私は、ダイオキシン類騒動が社会から忘れられていくと同時に、環境分野ではこの土壌汚染問題が急速に持ち上がったので、薪ストーブの仕事をする前は、こちらの分野のプロでもありました。この分厚いガイドラインを読み込んで仕事する人間には国家資格が求められるのですが、その保有者でもあります。第一回国家試験で運良く受かっただけですけど(笑)
環境資格集 土壌汚染調査技術管理者

 腕前が良ければ重宝されますので、それで食べられる資格ではありますが、出来れば、あの世界には戻りたくありません……だってホント細かな規制クリアーゲームみたいな側面があって、でも実際には誰も健康被害を生じていないでしょう??みたいな※強制規制で達成すべき疾病リスクレベルとしては、低く設定し過ぎと、公的講習会の質問などで抗議もしてきました※

 以上、そういう環境、「エコ」分野で、形式すなわち「規制値」に基づく規制の仕事に、何十年も「どっぷり」浸かって生きてきた人間に言わせれば、薪ストーブは、よくある「規制値」で規制すれば良いとか単純な発想は、絶対に止めた方が良いです。

 ここまで縷々述べてきたように、労力ばかりかかるためにいつまでも実現見通しが立たないのと、実際の運用でも「毎年測定」とかムチャクチャコストのかかるフォローアップでもしない限り、結局は実態との乖離を生じて有効な規制になりません。

 そもそも薪ストーブには「生活に伴って使用される」ということで、環境分野で普通に適用されてきた「規制的手法」に要求される「事業活動の制約となりながら健康被害を防止しなければならないために、不公平とならないように全国一律的な公平さが必要」という原理原則が当てはまるのか?という根本的な疑問があるのです。

 ここまでが前置きとして(超長い!!)、次回から、では、薪ストーブの煙の被害は、具体的にどのように考えて規制するのが良いのか?を、私なりに提案していきます。

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大屋渡
専門家

大屋渡(薪ストーブの設置及び販売)

株式会社愛研大屋環境事務所

雨漏りや地震台風等に強いことはもちろん、災害時も安心熱源、将来にわたって何かしらの形で薪ストーブを活用し続けられる製品選び・設置方法の提案など、薪ストーブを導入することによる永続的な価値を提供します。

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