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大屋渡(おおやわたる) / 薪ストーブの設置及び販売

株式会社愛研大屋環境事務所

コラム

薪ストーブの規制はいかにあるべきか?⑤ー このような条例を制定すれば薪ストーブの規制は可能

2021年8月15日 公開 / 2021年8月16日更新

テーマ:薪ストーブから見える社会の現実

コラムカテゴリ:くらし

 とても長くなっているシリーズですが、今回で最終回です。環境規制の現場にずっと身を置いてきて、環境法や関連条例についても「こなれている」(と自分では思う笑)人間として、薪ストーブの合理的な規制が可能になる市町村条例は、このようなものである、ということを述べさせて頂きます。

 詳しい方はご存知とは思いますが、廃棄物の野焼きなどは、すでに法律によって規制されています。条例は、その「廃棄物の焼却禁止」のロジックを周到しながら「上乗せ」の形で定めることとし、その内容として押さえるべきポイントは、基本的には、次のたった二つです。

  1. そもそも何を規制対象にするか?という定義で「廃棄物の焼却」という条件をなくし、「木材(等)の燃焼」を必ず含めた「燃焼行為全般」とすること
  2. 燃焼行為は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」と整合を取り原則禁止とし、禁止の例外を「軽微な燃焼」としたうえで、「軽微」の判断基準を「近隣からの苦情がない程度」とすること


 すなわち、薪ストーブが現行法体系で規制できない理由は次のとおりなのですが

  1. 薪ストーブで燃やしているものは「薪」という有価物(燃料)であり、廃棄物ではない(廃棄物であれば現行法体系でも規制可能)
  2. 日常生活を営む上で通常行われる焼却については、軽微でさえあれば、燃やしているものがたとえ廃棄物であっても規制できない


 その二つを「規制の抜け道」と位置付けて、確実に塞いでしまうわけです。

 この二つだけを満たす条例案を作って(罰則などはご自由に)、市町村議会で審議して賛成多数で通して自治体として制定してしまえば良いのですが、これは別に私のアイデアではなく、このような条例を現に定めている自治体が、すでにあるのです。

さいたま市 野外焼却はやめましょう!

 ご覧いただくとわかるのですが、説明としては、普通の自治体でもよくある「野外での廃棄物焼却の禁止」が中心ですが、冒頭説明にもありますように、このさいたま市条例の最大の特徴は

さいたま市生活環境の保全に関する条例(以下「条例」という。)では、廃棄物だけではなく、ばい煙や悪臭の発生により、人の健康や生活環境の支障となるような物を野外で燃焼させることを制限しています。


 このように「それは廃棄物なのか?有価物なのか?」という、規制対象となるのかならないのかという不毛な論争につながる定義問題を「バッサリ」排除してあるところです。上記の条件1です。

 そして、この条例が規制の運用として何より上手いと思ったのは、燃焼行為の原則禁止の例外として「たき火その他日常生活を営む上で通常行われる燃焼行為であって軽微なもの(※3)」としていること自体は「よくある」のですが、軽微かどうか?の判断基準として

※3 「軽微な燃焼行為」とは、周辺の生活環境に支障がないものをいい、ばい煙や悪臭に対して近隣から苦情が寄せられるような野外焼却は軽微な燃焼行為とは認められません。


というように、燃やす人の「結果責任」である「苦情を寄せられる」ことを、具体的な規制基準として明確に紐づけてあるところなのです!!

 私は偶然、この、さいたま市条例を見たのですが、見た時に、思わず感動しました(笑)……いや、私が不勉強なのかもしれませんが、なんて画期的な条例だろう!と。これ作った人って、頭いいな!と。

 しかも、さいたま市で、実際にどのように運用されているかまでは私は知らないのですが(パンフレット見ると「薪ストーブ」も規制対象になっています)、さいたま市の説明ページでは「野外焼却の規制」という触れ込みになっていますが、実際の条例の条文構成では、対象を野外焼却に限定する旨なんて、一言も書いていないのです。

 まあ、私に言わせれば、条例の条文構成としては、「燃焼行為にともなう近隣への迷惑を防止する」という目的に対して、およそ完璧に近いです。すなわち法律がカバーしていない廃棄物以外にも確実に網をかけるために

規則第36条 条例第49条の規則で定める物は、次に掲げる物及びこれらを含む物とする。
 (1) 廃棄物
 (2) 樹脂
 (3) 木材(伐採木及び剪(せん)定枝を含む。)
 (4) 油脂類(鉱物油及び有機溶剤を含む。第38条第3号において同じ。)
 (5) 布
 (6) 紙
 (7) 草


 普通の一般人が燃やしそうなものを、物質指定によって全部網羅したうえで

規則第38条 条例第49条第2号の規則で定める燃焼行為は、次に掲げるとおりとする。
 (1) 災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な燃焼行為
 (2) 風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な燃焼行為
 (3) 農業(園芸サービス業を除く。)又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる燃焼行為(樹脂、油脂類又は布を含む燃焼 行為を除く。)
 (4) たき火その他日常生活を営む上で通常行われる燃焼行為であって軽微なもの
 (5) キャンプファイヤー、バーベキューその他屋外レジャーにおいて通常行われる燃焼行為であって軽微なもの
 (6) 前各号に掲げるもののほか、市長が必要と認める燃焼行為


 という具合に、廃掃法施行令との整合性をしっかり取ってあります。

 よって、もし必要でしたら、このさいたま市条例をコピペすれば、全国どこでも、薪ストーブによる煙の被害を合理的に規制することは、条文構成上は充分可能であると考えます。

 なお、一言だけ言えば、条文構成そのものでなくて、実際の行政指導解釈の部分ですが、「軽微」の定義としての

※3 「軽微な燃焼行為」とは、周辺の生活環境に支障がないものをいい、ばい煙や悪臭に対して近隣から苦情が寄せられるような野外焼却は軽微な燃焼行為とは認められません。


の「苦情が寄せられるような」の但し書きとして、たとえば

(ただし、地域の実情に照らして受忍限度内であると認められる程度の燃焼行為に対する場合を除く)


という一文を明記付与しておくと、なお完璧ではないかと思います。なにしろ「苦情が寄せられる」を絶対条件としてしまうと、逆に「気にくわない隣家が、たまたま薪ストーブを使っていたから」という理由で隣家への単なる嫌がらせ目的でこの条例が悪用される可能性も否定できませんから……

 以上、とても長くなりましたが、最後は「さいたま市条例万歳」(笑)という、なんとも安直な結論で、このシリーズを締めくくりたいと思います。でも、真面目な話、環境の困りごとを規制するのに条例はすごい強力なツールですから、地域のために、議員さんにはしっかり仕事をして頂きましょう。

 ただ、そもそもとして、地球温暖化防止やエネルギーのより高効率の利用という全体のみならず、ご近所さんの安息な暮らしも守られるように、薪ストーブを使われる方は、くれぐれも、本シリーズの冒頭コラムに述べました以下の3つの要点

  • いわゆる「巡行運転」を達成した状態において、煙(臭い及び粒子状物質)が隣家との距離に応じて充分少なくなるような排ガス処理機構を有した、一般的にはより高価な薪ストーブを購入時の本体機種として選択する
  • 薪ストーブに火が入っている時間全体の中で、「巡行運転」になっていない(立ち上げ状態にある)時間の割合が、相対的に出来るだけ短くなるような運用(極端な話、シーズン中はずっと焚きっぱなし)とする
  • 薪ストーブをどのように燃やすかという具体的使用全体を通して、炎に出来るだけ無理をさせない薪及び燃やし方を選択する。具体的には充分に乾いた薪、熱量の高い薪、太すぎない薪、補給間隔を欲張らないこと


に留意のうえ、「エコ」な「薪ストーブのある暮らし」を実現なさってくださいませ!

この記事を書いたプロ

大屋渡

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大屋渡(株式会社愛研大屋環境事務所)

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