7つのムダ② 手待ちのムダ

釜剛史

釜剛史

テーマ:ホワイトカラーのためのTPS講座

社会や現場の「あるある」課題


「自分の仕事は終わっているのに、相手の返事待ちで止まっている」
「承認が降りないので、次に進めない」
「会議の結論待ちで、動けない」
「依頼した資料が来ないので、こちらも着手できない」

こうした“止まっている時間”に、心当たりのある方は多いのではないでしょうか。

仕事をしていると、手を動かしている時間だけでなく、
“待っている時間” が意外なほど多く発生します。
しかもその待ち時間は、しばしば「仕方がないもの」として見過ごされがちです。

しかし、トヨタ生産方式(TPS)の視点では、この「待ち」はれっきとしたムダです。
それが 「手待ちのムダ」 です。

製造現場では、部品が来ない、前工程が遅れる、設備が止まる――といった形で現れます。
一方、ホワイトカラーの現場では、もっと見えにくい形で潜んでいます。

  • 承認待ち
  • 返答待ち
  • 判断待ち
  • 会議待ち
  • 情報待ち


今回は、この“見えにくい停滞”に光を当てながら、
ホワイトカラーにとっての「手待ちのムダ」を考えていきます。



手待ちのムダとは何か

TPSにおける「手待ちのムダ」とは、
本来流れるはずの仕事が、何らかの理由で止まっている状態を指します。

ここで大切なのは、「人がサボっている」という話ではないことです。
むしろ多くの場合、本人はやる気があり、動きたいのに動けない。
それでも、仕事の流れ全体から見れば、そこに“停滞”が生まれています。

たとえば製造現場では、

  • 前工程の遅れで作業者が待つ
  • 段取り替えのためにラインが止まる
  • 材料不足で設備が空転する

といった形で比較的わかりやすく見えます。

しかし、ホワイトカラーでは、止まっていても見た目には忙しそうに見えます。

  • メールを見ている
  • 別件を片づけている
  • 会議に出ている
  • “確認中です”と言っている

こうした状態は、本人も周囲も「仕事をしている」と認識しやすいため、

本来の案件が止まっていることに気づきにくいのです。

ホワイトカラーの手待ちは、なぜ見えにくいのか

ホワイトカラーの手待ちが厄介なのは、
“待ち”が作業そのものに埋め込まれていることです。

たとえば、こんな場面です。

  • 部長の承認待ちで、企画書が止まる
  • 顧客の回答待ちで、提案書が止まる
  • 他部署のデータ待ちで、分析が止まる
  • 会議での意思決定待ちで、次の段取りが止まる
  • 担当者が不在で、問い合わせ対応が止まる


どれも「誰かのせい」と単純に片づけられる話ではありません。
むしろ、組織の中で自然に起こりがちなことです。

しかしTPSの視点で見ると、ここで問うべきは
「なぜ、その仕事は止まらない設計になっていないのか」 です。

つまり、問題は個人ではなく、
仕事の流れそのものの設計にあります。

手待ちのムダが生む、見えない損失

手待ちのムダは、「その時間が無駄」というだけではありません。
実際には、もっと大きな損失を生みます。

1. リードタイムが伸びる
実作業は2時間でも、
承認待ち・確認待ち・返答待ちが積み重なれば、完了まで2週間かかる。
これはホワイトカラーで非常によく起こる現象です。

つまり、仕事が遅いのではなく、
“止まっている時間が長い” のです。

2. 優先順位が崩れる
待っている間に別件を始める。
すると、返事が来た頃には別件に手を取られてすぐ再開できない。
その結果、案件が“再び待つ”ことになります。

これにより、仕事はますます細切れになり、
集中も失われ、全体の流れが悪くなります。

3. ストレスと不信感が増える
「まだ来ない」
「また止まった」
「誰が持っているのかわからない」

こうした状態が続くと、現場にはじわじわと不満が溜まります。
人間関係の問題に見えても、実はその背景に
流れの悪い仕事の設計があることは少なくありません。

対策は「急がせる」ことではない

手待ちのムダに対して、よくある誤解があります。
それは、
「相手を急がせれば解決する」という発想です。

もちろん、個別には催促が必要な場面もあります。
しかしTPS的には、本質はそこではありません。

本当に考えるべきは、次のような問いです。

  • そもそも承認段階が多すぎないか
  • 誰が判断するのかが曖昧ではないか
  • 情報の受け渡し条件が揃っていないのではないか
  • “待ち”が発生する前提で、仕事を設計していないか
  • 一度に多く抱えすぎて、処理が滞っていないか


つまり、対策は「人を急かす」ことではなく、
待ちが発生しにくい流れに変えることです。

これは、TPSがホワイトカラーに効く大きな理由のひとつです。

ケース:承認待ちで止まる営業提案

ある会社の営業部門では、提案書の提出がいつもギリギリになっていました。

担当者は懸命に準備しているのですが、
提案書は提出前に、課長・部長・関連部門の確認を経る必要がありました。
そのたびに数時間から数日止まり、修正が入るとまた差し戻し。
結果として、顧客への提出はいつも期限間際になっていました。

現場では当初、
「営業担当の段取りが悪い」
「もっと早く作ればいい」
という見方がされていました。

しかし、流れを可視化してみると、実態は違いました。

  • 実際の作成時間:半日〜1日
  • 承認・確認待ち:3〜5日
  • 差し戻しによる再待機:1〜2日


つまり、問題は“作る速さ”ではなく、
“待っている時間の長さ” だったのです。

そこで、この部門では次のような見直しを行いました。

  • 軽微な案件は課長承認までで提出可能にする
  • 提案書のひな形を統一し、確認観点を明確化する
  • 事前相談の場を設け、後戻りを減らす
  • 承認依頼時に「いつまでに何を見てほしいか」を明示する


その結果、提案のリードタイムは大きく短縮され、
担当者の残業も減りました。

重要なのは、誰かが急いだのではなく、
待ちが生まれやすい構造を変えたことです。

まとめ

「手待ちのムダ」は、
ホワイトカラーの仕事において、非常に多く、しかも見えにくいムダです。

  • 承認待ち
  • 返答待ち
  • 判断待ち
  • 情報待ち
  • 会議待ち


これらは「仕方ない」とされがちですが、
TPSはそこに問いを投げかけます。

“なぜ、その仕事は止まる設計になっているのか?”

手待ちのムダを減らすために大切なのは、

  • 人を責めないこと
  • 相手を急かすだけで終わらないこと
  • 仕事の流れ全体を見ること
  • 承認・受け渡し・判断の仕組みを見直すこと


ホワイトカラーにおける生産性向上は、
「もっと速く働く」ことではありません。
むしろ、“止まらない仕事の流れ”を設計することにあります。



ホワイトカラー向けのTPS講座(9/50)

次回予告
「7つのムダ③ 運搬のムダ」


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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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