7つのムダ① つくりすぎのムダ

釜剛史

釜剛史

テーマ:ホワイトカラーのためのTPS講座

社会や現場の「あるある」課題

「先に多めに作っておいたほうが安心」
「時間があるうちに、できるだけ前倒しで進めておこう」
「まとめてやったほうが効率がいい」

こうした考え方は、製造現場に限らず、オフィスでも日常的に見られます。
一見すると、どれも合理的で、仕事熱心な姿勢にも見えるかもしれません。

しかし、トヨタ生産方式(TPS)の視点では、こうした“善意の先回り”こそが、最も警戒すべきムダのひとつです。
それが 「つくりすぎのムダ」です。

TPSでは、7つのムダの中でも、つくりすぎのムダを“最大のムダ”と捉えます。
なぜなら、つくりすぎはそれ自体がムダであるだけでなく、他のさまざまなムダを次々に生み出してしまう“親玉”だからです。

今回は、TPSの基本に立ち返りながら、「つくりすぎのムダ」がなぜ危険なのか、そしてホワイトカラーの現場でどう見えるのかを考えていきます。



なぜ「つくりすぎ」が最大のムダなのか

TPSにおける「つくりすぎ」とは、
必要な量より多くつくること、あるいは
必要なタイミングより早くつくること
を指します。

ここで重要なのは、「量」だけでなく「タイミング」も含まれるという点です。
たとえば製造現場で、今すぐ必要なのは100個なのに、段取り替えが面倒だからと200個作る。
あるいは、午後に必要なものを午前中のうちに全部作ってしまう。
どちらもTPSでは「つくりすぎ」です。

そして、このつくりすぎは、次のような連鎖を生みます。

  • 在庫が増える
  • 置き場所が必要になる
  • 探す時間が増える
  • 異常が隠れる
  • 古い情報や古いモノが残る
  • 手直しややり直しが増える
  • 優先順位が見えにくくなる


つまり、つくりすぎは単独のムダではなく、
在庫のムダ、運搬のムダ、探すムダ、手直しのムダ、判断ミス などを誘発する“発生源”なのです。

ホワイトカラーにもある「つくりすぎ」

「でも、それは工場の話でしょう?」
そう感じる方も少なくありません。

しかし、ホワイトカラーの仕事にも、つくりすぎは非常に多く存在します。

たとえば――

  • 使うかどうかわからない資料を、念のため50ページ作る
  • 会議で使うか不明な分析を、事前に何パターンも作り込む
  • 上司から依頼される前に、必要以上に詳細な報告書を作る
  • 顧客の要望が固まっていないのに、提案書を完成形まで作り込む
  • まだ確定していないプロジェクトのために、細部まで設計してしまう


どれも「頑張っている」ように見えます。
しかし、実際にはその多くが、使われない・直される・やり直しになる可能性を抱えています。

つまりホワイトカラーのつくりすぎとは、
“未確定な相手のニーズに対して、先回りしすぎること”
とも言えます。

これは、仕事の量が多い組織ほど起こりやすい現象です。
忙しいからこそ、「今のうちにやっておこう」「まとめてやっておこう」という発想になりやすい。
しかしその結果、後工程や意思決定の変化に振り回され、やり直しの山が生まれます。

「前倒し」はいつも善ではない

ビジネスの現場では、「前倒し」はしばしば美徳として語られます。
もちろん、段取りよく進めること自体は大切です。

ただしTPSの観点では、
“前倒し”と“つくりすぎ”は紙一重です。

大切なのは、
「早くやること」ではなく、
「必要な情報が揃った時点で、必要な分だけ、滞りなく流すこと」 です。

特に知的労働では、後から前提条件が変わることが少なくありません。

  • 顧客の意向が変わる
  • 上司の判断が変わる
  • 他部署の状況が変わる
  • 市場や優先順位が変わる


こうした環境では、早く作り込みすぎるほど、後で“負債”になります。

TPSが教えてくれるのは、
「早くたくさんやる」ことより、「流れに合わせてムダなく進める」ことの価値 です。

ケース:資料づくりに追われる企画部門

ある企業の企画部門では、会議のたびに大量の資料が作られていました。

担当者は、「会議で何を聞かれても答えられるように」と考え、
毎回、想定問答集・詳細分析・参考データ・補足スライドまで含めた大部の資料を準備していました。

本人としては、丁寧に仕事をしているつもりでした。
しかし実際の会議で使われるのは、冒頭の数ページだけ。
しかも、会議で方向性が変わるたびに、残りの資料は作り直しになっていました。

結果として起きていたのは――

  • 準備工数が膨らむ
  • 他の重要業務が圧迫される
  • 会議後の修正が増える
  • 「忙しいのに成果が見えない」状態になる


そこでこの部門では、資料作成の考え方を見直しました。

  • 会議前は「意思決定に必要な最小限」に絞る
  • 補足資料は、必要になってから作る
  • まずは1枚で論点を整理する
  • 会議で方向性が固まってから詳細化する


この変更だけで、会議準備の時間は大幅に減り、
むしろ議論の質は上がりました。

なぜなら、資料の“量”ではなく、
意思決定の流れに合った“タイミング” が整ったからです。

これはまさに、ホワイトカラーにおける「つくりすぎのムダ」を減らした例です。

まとめ

「つくりすぎのムダ」は、TPSが最も重く見るムダです。
それは単に“余分に作る”ことではなく、他の多くのムダを呼び込む“起点”になるからです。

ホワイトカラーの仕事でも、つくりすぎは珍しくありません。

  • 使うか分からない資料を作り込む
  • まだ決まっていない前提で詳細まで進める
  • 念のために、必要以上に準備する


こうした行為は、一見すると丁寧で優秀に見えます。
しかしTPSの視点で見ると、それは「善意のムダ」かもしれません。

大切なのは、

  • 多く作ることではなく、必要な分だけに絞ること
  • 早く作ることではなく、必要なタイミングに合わせること
  • 頑張ることではなく、流れに沿って仕事を進めること


ホワイトカラーにとってのTPSは、
「もっと頑張れ」という話ではありません。
むしろ、“頑張りすぎが生むムダ”に気づく視点を与えてくれます。



ホワイトカラー向けのTPS講座(8/50)

次回予告
「7つのムダ② 手待ちのムダ」


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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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