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今年、歯みがきが続かなかった飼い主さんへ — 獣医行動学からのやさしいアドバイス —

山村敏

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今年、歯みがきが続かなかった飼い主さんへ
— 獣医行動学からのやさしいアドバイス —


年末になると、
「今年こそはちゃんと歯みがきをしようと思っていたのに……」
そんな気持ちになる飼い主さんは少なくありません。

ですが最初にお伝えしたいのは、
歯みがきが続かなかったのは、飼い主さんの努力不足ではない
ということです。

犬や猫の歯みがきは、
人の歯みがきとはまったく別の“行動学的ハードル”があります。
獣医学・獣医行動学の視点から、その理由と考え方を整理してみましょう。

歯みがきが続かないのは「よくあること」


世界中の獣医師が参照する行動学の知見では、
口元への刺激は犬猫にとって非常に警戒心が生じやすい行為
であることが分かっています。

口の周りは、

  • 捕食・防御に関わる重要な部位
  • 不快な記憶が残りやすい
  • 一度の嫌な経験が強く学習されやすい


という特徴があります。

そのため、
「数回はできていたのに、急に嫌がるようになった」
「途中までは順調だったが、ある日から拒否されるようになった」
というケースは、決して珍しくありません。

獣医行動学が重視する「正の強化」という考え方


歯みがきトレーニングの基本として、
AAHA(米国動物病院協会)や行動学の分野で重視されているのが
「正の強化(Positive Reinforcement)」です。

正の強化とは、
望ましい行動の直後に、その子にとって“うれしいこと”を与えることで、
「この行動は安心できる」「悪くない」と学習してもらう方法です。

たとえば、

  • 口を触らせてくれたら、すぐに褒める
  • 歯に少し触れたら、おやつや遊びにつなげる
  • 短時間でもできたら、そこで終わる


というように、
成功体験を積み重ねることが何よりも重要とされています。

「やりがちなNG行動」は誰でも起こり得る


歯みがきが続かなかった背景には、
飼い主さんが無意識のうちにしてしまう行動が影響していることもあります。

  • 嫌がっているのに「今日は絶対やろう」と続けてしまった
  • 歯石が気になり、急に奥歯まで磨こうとした
  • 逃げるのを押さえつけてしまった


これらは決して「間違った愛情」ではありません。
むしろ、一生懸命だからこそ起こりやすい行動です。

ただし獣医行動学では、
恐怖や不快感を伴う経験は「拒否行動」を強めてしまうことが分かっています。

顔まわりの脱感作(フェイシャル・ディセンシタイゼーション)


歯みがきを再開する際、世界的に推奨されている方法が
「フェイシャル・ディセンシタイゼーション(顔まわりの脱感作)」です。

これは、

  • 刺激を極力小さくする
  • 嫌がる一歩手前で止める
  • 「大丈夫だった」という経験だけを残す


という段階的な慣らし方です。

いきなり「歯を磨く」ことを目標にするのではなく、
口の近くに手が来ても平気
歯ブラシが見えても怖くない
という状態を作ることが、結果的に近道になります。

今年うまくいかなかったことは、来年につなげられる


歯みがきが続かなかった経験は、
決して「失敗」ではありません。

その子が
「どこで嫌になったのか」
「何が負担だったのか」
を知るための、大切なヒントでもあります。

年末は、
無理にやり直そうとしなくて大丈夫です。

来年に向けて、

  • また一から始めていい
  • もっと短時間でいい
  • 毎日でなくてもいい


そう考えていただければ十分です。

来年につながるお話は、次回のコラムで


次回は、
「歯みがきがうまくいかなくても大丈夫。来年につなげるための考え方」
をテーマに、

  • 続けやすい頻度の考え方
  • 最低限ケアの設定方法
  • 年明けからの小さな一歩


を、獣医学エビデンスをもとにお伝えします。

今年できなかったことがあっても大丈夫。
歯みがきは、いつからでもやり直せます。

年末のご挨拶


今年も一年、愛犬・愛猫の健康を想いながら、ここまで読んでくださりありがとうございました。
健康の入り口は口です。
だからこそ、できた日も、できなかった日も、すべてが次につながる大切な経験です。

年末年始は少し肩の力を抜いて、
「できたこと」だけを数えながら、新しい一年を迎えましょう。
来年も、無理のないデンタルケアを一緒に積み重ねていけたら嬉しいです。

どうぞ、良いお年をお迎えください。

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山村敏
専門家

山村敏(経営全般、製品開発・設計)

株式会社マインドアップ

人および犬・猫のオーラルケアの製品開発で、30年以上の実績があります。「気づき」をテーマに、口の構造などに合わせた設計など、多様なニーズに応える製品づくりを追求。アジアを中心に海外展開も進めています。

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