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子犬・子猫のうちに始める口腔ケアのコツ — 将来の歯周病リスクを下げるために今できること —

山村敏

山村敏

子犬・子猫のうちに始める口腔ケアのコツ
— 将来の歯周病リスクを下げるために今できること —


「歯みがきは大人になってからでいい」と思われがちですが、
「獣医学の世界では“口腔ケアは子犬・子猫期から始めることが理想」とされています。

実際、世界的な獣医ガイドライン(WSAVA・AAHA)では、
若齢期からの予防ケアが将来の歯周病リスクを大きく左右すると明記されています。

本記事では、獣医学エビデンスをもとに、
子犬・子猫のうちに始めたい口腔ケアの考え方と実践ポイントを解説します。

なぜ「子犬・子猫期」から口腔ケアが重要なのか


1-1. 歯周病は“成長してから突然起こる病気”ではない

歯周病は、ある日突然発症する病気ではありません。
歯の表面に付着した歯垢(プラーク)が蓄積し、
歯肉炎 → 歯周炎へと時間をかけて進行していきます。

WSAVA(世界小動物獣医師会)は、
「歯周病の予防は、歯垢が定着する前の習慣形成が最も重要」としています。

つまり、
歯が生えそろう前後の“慣れやすい時期”が最大のチャンスなのです。

1-2. 小型犬・猫は特に歯周病リスクが高い

獣医学研究では、以下の傾向が報告されています。

  • 小型犬は歯が密集し、歯垢が残りやすい
  • 猫は歯肉炎が慢性化しやすい
  • 3歳以上で80%以上が何らかの歯周病を持つ(犬猫共通)


だからこそ、発症してから対処するのではなく、予防が重要とされています。

2. 子犬・子猫の口腔ケアは「歯みがき」から始めなくてよい


2-1. 最初の目的は「磨くこと」ではなく「慣れること」

AAHA(アメリカ動物病院協会)では、
若齢期の口腔ケアについて次のように示しています。

「最初のゴールは、口を触られることへの抵抗感をなくすこと」

つまり、
いきなり歯ブラシで磨く必要はありません。

2-2. ステップ式で進めるのが獣医学的に推奨

獣医行動学で推奨されるのが、
脱感作(ディセンシタイゼーション)と正の強化を組み合わせた方法です。

  • 顔まわりを優しく触る
  • 唇をめくる
  • 歯に指やガーゼで軽く触れる
  • 歯ブラシを見せる・匂いを嗅がせる
  • 短時間だけブラッシング


この順序を守ることで、
「怖くない」「嫌なことではない」という学習が進みます。

3. 子犬・子猫期に意識したい口腔ケアのコツ


3-1. 1回30秒〜1分で十分


獣医学的には、
長時間の歯みがきは必要ありません。

・短時間
・頻度を優先
・嫌がる前に終える

これが“続く口腔ケア”の基本です。

3-2. 歯みがき後は「必ず良いこと」をセットに


行動学では、正の強化が非常に重要です。

  • 歯みがき後に遊ぶ
  • 撫でる
  • 少量のごほうび


「歯みがき=良いことが起こる」
この経験が将来の受け入れやすさを大きく左右します。

行動学で重視される「正の強化」とは何か


獣医行動学で歯みがきトレーニングの基本とされているのが、
「正の強化(Positive Reinforcement)」という考え方です。

正の強化とは、
望ましい行動の直後に“その子にとってうれしいこと”を与えることで、
「その行動は良いことだ」と学習してもらう方法です。

たとえば、

  • 口を触らせてくれた → すぐに褒める
  • 歯に少し触れた → ごほうびをあげる
  • 短時間でも歯みがきができた → 遊びや散歩につなげる


このように、
行動 → 良い結果
という流れを繰り返すことで、動物は自然とその行動を受け入れやすくなります。

「叱らない」「無理にやらない」が成功の近道


AAHAやWSAVAを含む世界的な獣医ガイドラインでは、
恐怖や不快感を伴う方法(押さえつける、叱るなど)は逆効果とされています。

嫌な経験が強く残ると、

  • 歯ブラシを見るだけで逃げる
  • 口を触られること自体を嫌がる
  • 飼い主との信頼関係が崩れる


といった行動につながることが、獣医学的にも報告されています。

そのため、
「できたことを評価し、できなかった日は無理をしない」
これが正の強化を活かした歯みがき習慣づくりの基本です。

正の強化は「しつけ」ではなく「安心の学習」


正の強化は、何かを我慢させるための方法ではありません。
「歯みがきは怖くない」「安心できる時間だ」
と感じてもらうためのコミュニケーション手段です。

この考え方を子犬・子猫期から取り入れることで、
将来にわたって歯みがきを受け入れやすくなり、
結果的に歯周病リスクの低減にもつながります。


3-3. 嫌がる日は“やらない勇気”も必要


特に猫では、無理強いが逆効果になることが多く報告されています。
・機嫌が悪い日は中止
・成功体験を積み重ねる
・失敗したら一段階戻る

これも獣医行動学で推奨される考え方です。

4. 子犬・子猫期の口腔ケアが将来にもたらすメリット


  • 歯周病リスクの低減
  • 麻酔下歯科処置の頻度を減らせる可能性
  • 口腔トラブルによる全身疾患リスクの低減
  • 飼い主と動物の信頼関係が深まる


WSAVAは、
口腔ケアは単なる歯の問題ではなく、全身の健康管理の一部と位置づけています。

まとめ:口腔ケアは「早く始めるほど、やさしく続けられる」


子犬・子猫期は、
・新しいことを受け入れやすく
・学習が定着しやすい
一生に一度のゴールデンタイムです。

歯みがきを完璧にする必要はありません。
「触る」「慣れる」ことから始めることが、
将来の歯周病予防につながります。

大切な家族が、年齢を重ねても健やかに過ごせるよう、
今日できる小さな一歩から始めてみてください。

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山村敏
専門家

山村敏(経営全般、製品開発・設計)

株式会社マインドアップ

人および犬・猫のオーラルケアの製品開発で、30年以上の実績があります。「気づき」をテーマに、口の構造などに合わせた設計など、多様なニーズに応える製品づくりを追求。アジアを中心に海外展開も進めています。

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