企業の未来を支える、伝統と技術の法人印
会社を設立するとき、あるいは事業の節目を迎えるとき、法人印をどこでつくるかまで気を配る方は多くありません。けれども、法務局に登録する実印、金融取引に用いる銀行印、社内文書の確認で使う認印は、いずれも社名を背負い、意思決定の証しとなるものです。私は、そこに手をかける価値があると考えています。
私が営む宏雅堂は、1951年に山梨県で創業しました。私は3代目にあたり、甲州手彫印章の伝統工芸士として印章を彫っています。昨今はソフトのフォントを用いた機械彫りが一般的ですが、当方では字入れから仕上げまで、全12工程のすべてを手作業で行います。ここが最も大きな違いです。
甲州手彫印章は経済産業大臣指定の伝統的工芸品であり、約150年の歴史を持ちます。そして印影を3名の伝統工芸士が確認し、初めて納品できるという決まりがあります。彫った本人の目だけで完結しない仕組みが、品質を一定の水準に保っているのです。手作業による印影は複雑で精巧なつくりのため複製が困難で、防犯性が高い。法人印としてお選びいただく理由の多くは、この点にあります。
また、素材にも同じだけの手をかけます。山梨県は古くから国内生産量の約6割を占める印章の産地です。周辺に問屋が多く、木製で最高級と称される薩摩つげや、漆黒で重厚感のある黒水牛など、えりすぐった天然素材のみを使用しています。マンモスの牙やカバの歯といった珍しい印材もそろえ、人とかぶらないものを望む方にお選びいただいています。定番の象牙も切り出し方を変え、しま模様が見える縦目、年輪のような横目と、異なる風合いをご用意しています。
どの素材を選ぶかで、印影の表情も押し心地も変わります。ですから私は、いきなり価格帯からご案内することはしません。何に使う印章なのか、どのくらいの期間使い続けたいのか、贈り物なのかご自身のためなのかを伺ったうえで、ご予算に収まる中から最も適した組み合わせをお示しします。
一本の印章に、これだけの工程と確認と素材選びが重なります。機械であれば短時間で仕上がるものに、なぜここまで時間をかけるのか。それは、押された印影がその方の意思の証しとして、この先ずっと残り続けるからです。


