PROFESSIONAL
STORIES

Mybestpro Interview

約150年の歴史を持つ甲州手彫印章の伝統工芸士として、一生ものの印章をオーダーメード

伝統技法で一生ものの手彫り印章を仕立てるプロ

二宮啓太

二宮啓太 にのみやけいた
二宮啓太 にのみやけいた

#chapter1

複製しにくいとされる甲州手彫印章の技で、法人印などを制作

 法務局に登録する実印、金融取引に用いる銀行印、社内文書の確認で使う認印など、経営者にとって法人印は、社名を背負い、意思決定の証しとなるもの。1951年に山梨県で創業した「宏雅堂」の3代目で、甲州手彫印章の伝統工芸士・二宮啓太さんは、一本一本の線に魂を込め、信頼性や正当性を証明するにふさわしい、品格ある印章を彫り上げています。

 「昨今はソフトのフォントを用いた機械彫りが一般的です。当方では字入れから仕上げまで、全12工程のすべてを手作業で行うのが大きな強みです」

 経済産業大臣指定の伝統的工芸品であり、約150年の歴史を持つ甲州手彫印章は、印影を3名の伝統工芸士が確認し、初めて納品できるという決まりもあります。複雑で精巧なつくりのため複製は困難で、防犯性が高いことから、法人印として支持を集めています。

 「山梨県は古くから国内生産量の約6割を占める印章の産地です。周辺に問屋が多く、木製で最高級と称される薩摩つげや、漆黒で重厚感のある黒水牛など、えりすぐった天然素材のみを使用しています。マンモスの牙やカバの歯などの珍しい印材もそろえ、人とかぶらないものを望む方に人気があります。定番の象牙も切り出し方を変え、しま模様が見える縦目や年輪のような横目など、異なる風合いをご用意しています」

 ECサイトを主軸に展開し、用途に適したサイズや書体など、予算も含めメールやZoomで丁寧に打ち合わせ、納得のいく印章をオーダーメード。個人からも依頼を受け、子どもの成人や結婚、孫の誕生など人生の節目に贈る人が多いそうです。

#chapter2

伝統工芸士の父の背中を追い、貴重な技術を受け継ぐため職人の道へ

 大学在学中からプロゴルファーを目指し、卒業後はゴルフ場に勤めながらプレーに打ち込んでいた二宮さん。職人の世界とは無縁の生活を送っていましたが、年齢を重ねるごとに、伝統工芸士である父が紡いできた技巧の重みを意識するようになります。

 「繁忙期には手伝っていたので、起業や就職など人生の門出に寄り添う手仕事の意義は感じていました。高価なバッグや車にも流行があり、いつかは買い替える日が訪れます。物があふれ、移り変わりが激しい現代で、長きにわたり使い続けてもらえる物はそう多くありません。重要な場面で決意を表す、唯一無二の品を手掛ける責任の重さに気づき、『貴重な技を途絶えさせてはいけない』と、27歳のときに後を継ぎたいと申し出ました」

 2013年に家業に入り、背中で語る父親を師に、ひたすら手を動かし、食らいつくように実技を体得。2016年に厚生労働省認定の印章彫刻技能士の二級を、2022年には一級を取得し、2017年と2025年には印章技術を競う全国大会・大印展で金賞を受賞します。

 「父が闘病していたこともあり、1日も早く緻密に刻む技量を養って安心してもらいたいという思いが、自分を押し上げたのかもしれません。父から教わりたいことはたくさんありましたが、試行錯誤する過程で蓄えた知見が自分の糧になっています」

 未経験で飛び込んだ職人の道。3代目二宮岱石の雅号を継承し、甲州手彫印章界で最も若い伝統工芸士として日々研さんを積んでいます(2026年時点)。

二宮啓太 にのみやけいた

#chapter3

外国人向けの体験会や実演会など、多様な人に印章の魅力と価値を発信

 近年は電子データに置き換えるペーパーレスが浸透し、印鑑を使う機会は減少傾向に。時代の変化を実感する二宮さんですが、印章文化がなくなることはないと確信しています。

 「今なお押印が必要な場面は、契約締結や同意など、押し手の確固たる意思を示すときです。数々の手続きが簡略化される中で『一押し』の意味は以前にも増して大きくなり、印章に込める覚悟や思いも強くなったのではないでしょうか」

 ある経営者から30周年を記念した法人印の相談を受けた際、その人が選んだのはマッコウクジラの歯でした。象牙以上に強度があり、かつ希少な素材を用いることに、「個」を大切にしながら強い志で歩んでいくというビジョンが表れているように感じたと言います。

 「印章は一生ものですから、対話を重ね、一緒に形にしていくことを心掛けています。ゆくゆくは店舗を構え、お客さまと対面で提案することも検討しています」

 伝統を守りつつ、新たな挑戦も。山梨県印章店協同組合の指定職人と共に新ブランド「伝匠印」を立ち上げ、国内でも珍しい「手彫り水晶印」を制作。また、インバウンドの増加を受け、外国人向けの彫刻体験も開催。実演会などさまざまな角度からアプローチすることで、多様な人に印章の魅力や価値を届けたいと考えています。

 「デジタル化が進んでいるからこそ、自らの本意を確かめる『判を押す』という行為にこだわってほしい。私も腕を磨き、皆さまのご決断に値する印章をつくっていきたいですね」

(取材年月:2026年7月)

リンクをコピーしました

Profile

専門家プロフィール

二宮啓太

伝統技法で一生ものの手彫り印章を仕立てるプロ

二宮啓太プロ

印章彫刻士

宏雅堂

伝統工芸品「甲州手彫印章」の職人が、会社設立や事業の節目に欠かせない法人印をはじめ、実印や銀行印などを手彫りで制作。用途や予算に応じた提案を行い、納得のいくまで相談しながら仕立てます。

\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /

掲載専門家について

マイベストプロ山梨に掲載されている専門家は、新聞社・放送局の広告審査基準に基づいた一定の基準を満たした方たちです。 審査基準は、業界における専門的な知識・技術を有していること、プロフェッショナルとして活動していること、適切な資格や許認可を取得していること、消費者に安心してご利用いただけるよう一定の信頼性・実績を有していること、 プロとしての倫理観・社会的責任を理解し、適切な行動ができることとし、人となり、仕事への考え方、取り組み方などをお聞きした上で、基準を満たした方のみを掲載しています。 インタビュー記事は、株式会社ファーストブランド・マイベストプロ事務局、または山梨日日新聞社が取材しています。[→審査基準

MYBESTPRO