話を聴くことがどうして心のケアになるの?
権威ある組織に身を置きながら、その在り方に疑問を持ったとき――自由や独立を求めて一歩外に出ようとすると、安心感を失い、強い不安が押し寄せることがあります。
主体性が十分に育っていなければ、その不安に耐えられず、再び従属の立場に戻ってしまうこともあります。
ドイツの心理学者エーリッヒ・フロムは、この心理を『自由からの逃走』と呼びました。
彼は「なぜ人はナチズムのような強い権威主義に惹かれてしまうのか」という問いからこの概念を提示しましたが、その構造は現代の会社や家庭の人間関係にも当てはまります。
権威主義マインドは誰の中にもある
権威主義とは、支配と服従のマインドです。
他者を自分の手足のように使い、逆に自分も誰かの指示に従う――こうしたマインドは、自分が自分の手足を動かすのと構造的には同じです。
つまり、誰の心の中にも自然に存在しているマインドなのでしょう。
権威主義マインドが、課題達成や秩序維持、伝統文化の継承、子どもの健全育成など、良質な働きをしている面を捉えてみましょう。
会社組織の良質な権威主義は以下のような形で発揮されます。
◇プロジェクト進行 : 期限・役割を明確に示し、理由を説明。意見は自由に出せる。
◇危機対応 : トラブル時に即時指示を出し、事後に振り返りと改善共有。
◇新人育成 : 厳密な指導を行いながらも人格批判はせず、改善点と成功例をセットで伝える。
◇安全管理 : 厳格なルール遵守と、その理由の継続的説明。
◇意思決定 : 方針決定前に現場意見を聞き、決定後は理由と期待効果を共有。
しかし権威主義は、上下関係を強化する性質ゆえ、強い権威から離れることに大きな不安を伴い、時に暴力やいじめが「指導」や「規律維持」の名で正当化される雰囲気を生み出す危険をはらんでいます。
広陵高校野球部の暴行問題が象徴的ですが、これは学校だけでなく、会社や家庭でも起こり得ることです。
権威主義を健全に保つには
以下のようなことに注意することで権威主義が良質にはたらき、健全な組織がつくられるでしょう。
① 権威の明確化と透明性
: 従うべき権威を明文化し、「なぜそうするのか」を共有し続ける。
例:就業規則や服務規程の目的や背景を解説し、Q&Aが容易に得られる機会をつくる。
② 伝統やしきたりの正しい伝承
: 地位だけでなく、能力・人望・公正さを備えた上位者が模範行動を示す。
例:ベテラン社員が、新人指導の際に過去の事例や失敗談を自己開示したり、成果だけでなく模範的な行動も評価対象にする。
③ 双方向のコミュニケーション
: 一方的な命令ではなく、質問や意見、フィードバックが許される環境。
例:匿名で質問や意見ができたり、改善案が採用された場合は全社ニュースで紹介する。
④ 人権・尊厳の不可侵
: 人格否定や屈辱、暴力、排除を行わないという「レッドライン」の共有。
例:ハラスメント防止研修やストレスマネジメントを必須化。違反があれば即時調査し、処分と改善策を全社共有。相談窓口は社外委託で匿名性を確保。
⑤ 多様な価値の共有
: 勝利や業績だけでなく、成長・信頼・安全も同等に評価する文化。
例:営業目標達成者だけでなく、チーム内のサポート役や安全改善提案者も表彰対象にする。
権威を「信頼」に変えるために
権威が健やかに機能するためには、上記以外にも公正な評価と、挑戦と失敗を許容できる勇気が必要です。
そして、時々自分たちを振り返り、外からの声にも耳を傾けながら、規律と柔らかさのちょうどいいバランスを探しましょう。
そうした姿勢があれば、上下関係は人を守り育てる力となり、困ったときに相談できる関係や場づくりにもつながります。
私たちは、ストレスチェックの機会に、企業がこうした「健全な権威」の土台を整え、メンタルヘルス不調や離職を未然に防ぐための『職場環境PMチェック』を実施しています。
権威主義を恐れるのではなく、信頼の力へと変える――その第一歩を一緒に始めませんか。
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