「最近、生成AIで帳簿づくりが楽になるという話を聞いたのですが、本当でしょうか」。月次訪問の場面で、こうしたご質問をいただく機会が増えてきました。
会計ベンダー各社からChatGPTなどとAPI連携した入力機能が登場し、経理の世界にも生成AIの波がはっきりと届き始めています。
私は山形県米沢市で漆山淳哉税理士事務所を営んでおり、置賜地方を中心に中小企業の税務・財務をお手伝いしています。事務所では月次訪問による巡回監査を基本としながら、領収書の電子保存やAIによる自動仕訳など経理のDX推進にも力を入れてきました。
だからこそ、生成AIの活用が便利になる側面だけではなく、使い方を誤ると怖い側面もあわせ持っていることを、現場で日々実感しています。
このコラムでは、生成AIを使った帳簿づくりについて、私が実務に取り入れる中で見えてきたことをお伝えします。経理に不慣れな方が「自分でもできるかもしれない」と感じていただける一方で、全部任せきりにしてはいけない理由も知っていただける内容にしたいと考えています。
会計ベンダーで進む、生成AI連携と帳簿づくりの変化
ここ数年、会計ソフトの世界では生成AIとのAPI連携が一気に進んでいます。ChatGPTなどの大規模言語モデルと連携することで、領収書や請求書の内容を読み取り、勘定科目の候補を自動で提示してくれる機能が次々と登場しています。
当事務所で導入支援しているTKCのFXクラウドシリーズでも、証憑保存機能や銀行取引の連携機能が整備されており、簿記の知識があまりない方でも自計化に取り組めるよう設計されています。
私自身、各種研修への積極的な参加や生成AIの活用にも力を入れており、学び続けることが大切と考えていますが、その実感としても、AI活用の進み具合はここ1〜2年で大きく変わってきました。
こうした変化のなかで「自計化」という言葉も改めて注目されています。自計化とは、外部に記帳を任せるのではなく、企業自らが取引入力や財務諸表の作成を行うことです。足元の財務状況をリアルタイムで把握することで、迅速な経営判断につながり、コスト削減にも役立つという考え方が、その根本にあります。
以前は、自計化を進めようとすると簿記の知識が一定以上必要で、経理担当者を配置できる規模の企業でなければ現実的ではない、という印象を持たれていた方も多かったように思います。
それが、生成AIとのAPI連携や銀行口座データの自動取り込みなどが整ってきたことで、専任の経理担当者を置きにくい小規模事業者でも自計化に挑戦できる環境に変わってきました。
経理に不慣れな方ほど生成AI活用の恩恵が大きい理由
実は、生成AIの活用で最も恩恵を受けやすいのは、経理に慣れていない方ではないかと私は考えています。簿記の細かなルールを覚えていなくても、領収書の内容から「これはおそらく消耗品費でしょう」「これは交際費の可能性がある」といった候補をAIが示してくれるからです。
もちろん、最終的に勘定科目を確定させるには判断が必要ですが、ゼロから科目を探す状態と、いくつかの候補から選ぶ状態とでは、入力にかかる時間も心理的な負担もまったく違います。
創業して間もない経営者の方、これから自計化に取り組みたい個人事業主の方にとって、生成AIは経理の入り口を確かに広げてくれる存在になりつつあります。
当事務所では、簿記に詳しくない方でも取引入力や証憑整理ができるよう、丁寧に伴走することを心掛けています。
生成AIの登場はその支援を後押しするものであり、これまでなら自計化はちょっと難しいと諦めていた方にも、現実的な選択肢として提案しやすくなったと感じています。
生成AI任せの帳簿づくりに潜む「実態とのズレ」というリスク
一方で、私が現場で強く意識しているのは、生成AIに帳簿づくりを丸投げしてしまうことの怖さです。AIはあくまで過去のデータや一般的なパターンから候補を提示しているにすぎず、その会社の実情までは知りません。
例えば、同じ飲食店での支払いでも、それが取引先との打ち合わせなのか、社内の慰労会なのか、社長個人の支出なのかによって、勘定科目も税務上の扱いも変わってきます。
AIが自動で付けた科目をそのまま受け入れてしまうと、本来の取引の実態とは違う形で帳簿が出来上がってしまい、決算書や税務申告にも影響が出かねません。 帳簿は単なる入力作業の集積ではなく、経営の意思決定や金融機関への説明、税務調査への対応の土台になるものです。
試算表を作成して終わりではなく、現状を継続的に把握することが私どもの支援の特徴であり、その出発点となる帳簿が実態とずれていては、その後のどんなアドバイスも砂上の楼閣になってしまいます。
もう一つ気を付けたいのが、AIの提案を正解と思い込んでしまうことです。生成AIはもっともらしい答えを返すのが得意ですが、それが必ずしも会計基準や税法に照らして正しいとは限りません。担当者の方が「AIがそう言っているから」と確認をやめてしまうと、誤りに気付くタイミングを失い、決算月や申告期限間際になって慌ててしまうケースにつながりかねません。
これから求められるのは「AIと人間の役割分担」という考え方
生成AIの活用は、これからも当然のように進んでいくと思います。会計ソフトとの連携はさらに深まり、できることも年々増えていくはずです。
それでも、正確な帳簿を作るためには、最終的なチェックは人間がやらなければならない場面が必ず残ると私は考えています。 具体的には、AIが提示した勘定科目や処理がその会社の実情に合っているかを確かめる作業、決算書全体として違和感がないかを俯瞰する作業、そして経営判断や税務リスクの観点から見て妥当かどうかを確認する作業です。
こうした最後のひと押しは、業種特性や経営者の意図、地域の事情を踏まえた専門家ならではの視点が欠かせない部分だと感じています。
当事務所では、毎月クライアント企業を訪問して巡回監査を行っています。そのなかで、AIが付けた処理の見直しを行ったり、経営者の方とこの計上の仕方で本当に良いかを一緒に確認したりする時間を大切にしています。
AIをただ怖がるのでも、無批判に信頼するのでもなく、人とAIが役割分担しながら帳簿を仕上げていく形が、これからの中小企業の現実的な姿になっていくのではないでしょうか。
当事務所のホームページでは、業務内容やデジタル化支援、相続のご相談についても詳しくご紹介しています。詳しくはこちらをご覧ください。 (https://urushiyama-junya.tkcnf.com/)
・生成AIや会計ソフトの活用で自計化を進めたい
・AIに任せた帳簿が本当に正しいのか不安に感じている
・月次訪問でタイムリーな経営アドバイスを受けたい
このようなことでお困りの場合は、山形県米沢市の漆山淳哉税理士事務所まで、まずはお気軽にご相談ください。
生成AIと人間の役割分担で変わる、中小企業の帳簿づくり
テーマ:自計化
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