その6. うつをどう考えるか (四回目)
心の健康についての最新のニュースを、英語で発信されているインターネットの情報を駆使
してお届けする連載の第六弾です。
今回は「孤独について」です。もっと具体的に言えば、「一人でいることの光と影について」
です。この研究結果は、アメリカ心理学会の会報誌の最近号(2014年1月号)に紹介された
ものの要約です。
米国でのある研究によると、ここ35年で人々の個人的・社会的な関係(ネットワーク)は縮小
しているとのことです。その理由は初婚年齢の上昇、離婚率の高さや平均寿命の上昇により、
親密な関係を持てる伴侶がいない人が増えていることです。
友達がいないことは単に遊び仲間や話し相手がいないだけでなく、その人の健康に大きな
悪影響を及ぼすと言われています。例えばある研究によると、強い社会的関係を持つ人は、
弱い社会的関係を持つ人よりもその調査の間の生存率が50%高かったとのことです。弱い
社会的関係を持つ危険性はタバコを一日15本吸うのと匹敵し、また肥満の2倍の危険性だ
とのことです。
○二種類の孤独
孤独といっても、実は二種類に分けて考えられています。
一つは心理的な孤独であり、もう一つは物理的な孤独(周囲に誰もいないこと)です。
その両方が健康への危険要因になると言われていますが、一般的には「心理的な孤独」の方が
「物理的な孤独」よりもより危険との研究結果が中心です。そして、この「心理的な孤独」と
いうのは、その人が結婚しているかどうかや家族や友達の数、喫煙や運動習慣などの健康行動
の有無とは関係がないことが認められています。
したがって「心理的な孤独」という観点からいくと、人に囲まれていても強い孤独を感じる
ことはあり得るわけです。
このように孤独であることの健康へのリスクを踏まえれば、それでは新しい土地に引越したり
伴侶と死別したりして一人だと感じている人が、新たに友達を作るにはどうしたらよいでしょ
うか。研究者は次のような助言をしています。
○新しい友達の作り方
1.継続的に人と接する。
初めは知らない人でも接触する機会が増えれば徐々に親しくなるというのは、心理学の実験
でも認められている。
2.自分を余り隠さない。
お互いに自分の内密なことを話し合うことが友情を育むことが、心理学の実験で見られて
いる。
3.Facebookなどのソーシャルメディアはほどほどにする。
XやFacebook、Eメールなどのバーチャルな関係は、既に実際の良い人間関係を持っている人
にとってはその良好な関係を更に促進する効果があるが、そうでない人がバーチャルな関係
だけで人との関係を持とうとするのは恐らく良くない。
研究者は同時に次のようなアドバイスもしています。
1.「孤独感」は自分自身が作り出しているととらえる。
「孤独感」というのは主観的な経験であり、またそれは意識すればするほどますます強く
なり、自己否定的な気持ちを強める。それを変えるには、誰かと自分の肯定的な部分を分かち
合うなどして、自身の否定的な物の考え方に挑戦することが必要。
2.無理に友達を作ろうとしない。
社会的な関係に余り関心がなく、しかもそれで気持ちの面で安定している人は、友達を作ら
なければいけないと思う必要はない。というのは、多くの友達を持つ人はそうでない人よりも
不安が強いという傾向があるから。
○結論
最後に、それではごく少数の親しい友達だけで満足するのか、あるいはそれほど親しくない
けど多くの友達を求めるのとどちらが良いのでしょうか。
ある研究者は、どちらが良いではなく、大事なのは「自分よりも大きな存在の一部であると
感じること」と言っています。
○私の考え
私も友達が多いかどうかは、その人の精神的な健康に余り重要ではないと考えています。
例えば、全く友達がいなくても自分が神と直接繋がっていると感じる人は、少しも孤独感を
感じず、逆に強い満足感を持っているでしょう。
もちろん人は社会的な存在であり、一人では生きられないのは事実です。
しかしながら、一人でいることで満足している人にまでも、友達を持ち集団に加わるように
強いるのは行き過ぎと考えます。
ところが今の風潮は、いわゆる外向的であることが内向的であることよりも良いといった価値
観が支配し、その結果社交的であることが善で、一人を好むことが悪、といった捉え方が主流
を占めているように思えます。
けれども、外的な刺激よりも自分の内面に目の向くいわゆる内向的な人は実際たくさんいる
はずです。そしてそのような内向的な人は、内省的という点でそうでない外向的な人を補完
し、お互い社会を構成する上で役立っていると思います。
つまり、内向的・外向的のどちらの人にも有用な存在意義があると考えます。
皆さんはどうお考えでしょうか。
うつ心理相談センター
村田 晃 心理学博士 [PhD] University of Denver, USA
臨床心理士、富山県スクールカウンセラー



