「希望を持つ」ことの心理学的意味について
心の健康についての最新のニュースを、英語で発信されているインターネットの情報を駆使
してお届けする連載の第四弾です。
今回は、「追憶・回想の効用(自信や肯定的な物の考え方を促進する)」です。
この研究結果は、Personality and Social Psychology Bulletinに発表されたものの要約です。
○英国のサザンプトン大学の研究者たちは、過去を追憶したり回想したりする気持ちが、将来に
対する肯定的な態度を促進することを見つけました。
言い換えれば、追憶や回想は単に過去の反映ではなく、それは未来にも渡り、しかも肯定的な
視点につながるということです。
(注)ちなみに、この人生の思い出を振り返る「回想法(Reminiscence therapy)」は、日本でも
認知症の予防や進行抑制のための心理療法として、既に高齢者などに用いられています。
しかし、今回の研究の特徴は、回想が持つ未来への影響力に着目した点です。
○研究者たちは三つの実験をしました。
一つの実験は、参加者を二つのグループに分け、一つのグループには懐かしい出来事を思い
出し、それについて記述すること、もう一つのグループにはふだんの日常的な出来事を思い
出し、それについて記述することをしてもらいました。
その結果は、懐かしい出来事について書いた文章の中には、そうでない日常的な出来事に
ついて書いた文章に比べ、明らかに多くの肯定的な表現が含まれていました。
同じような結果が、追憶的な音楽を聴いての実験、また追憶的な歌詞を読んでの実験でも
認められました。
以上の実験結果から、研究者は、昔を懐かしむ気持ちは自信(自尊心)を高め、それが引い
ては肯定的な態度を生む、と結論づけました。
つまり、過去の記憶は、現在の自分を肯定・尊重するのを助け、また、将来に対する明るい
展望を持つことに貢献しているというのです。
更にこの結果から、過去を追憶するということが、心理的に困難な事態を乗り越えるのに
役立つ、と結論しています。
○私自身の考え
昔を懐かしむことが、単に「昔は良かった」にとどまらず、将来に対しても肯定的な展望を持つ
のを助けるというのは、非常に元気をくれることだと思います。
ただし問題は、昔の出来事が必ずしも良いことばかりではない場合です。もちろんそういう
場合は、良い思い出にだけ焦点を合わせて考えればいいでしょう。
しかし、人によっては良い思い出は何一つないという場合もあるかもしれません。
そういう場合はどうするかです。
私は、その時は過去の出来事の良い悪いよりも、そのような事態をとにかく生き延びてきた
ということ自体に焦点を合わせたらいいと思います。いわゆる、サーバイバー(survivor)の
視点です。
言い換えれば、自分自身をその置かれた環境の犠牲者(victim)と受身的に捉えるのでは
なく、逆に自分自身を困難な環境を乗り越えて生き延びてきた者(survivor)と肯定的・
積極的にとらえる視点です。
この「サーバイバー」の視点は、「人は困難を乗り越える力を本来潜在的に持っている」という
人間観に基づいているといえ、私自身はそのような考え方が好きです。
皆さんはどうお考えでしょうか。
なお、出典は次です。
http://psychcentral.com/news/2013/11/14/reminiscing-can-increase-self-esteem-optimism/62030.html
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この内容は、エフエムいみず(79.3MHz) の私の番組、「心に元気を!大人のメンタルヘルス」
(毎週水曜朝8時30分・木曜午後4時30分(再放送)でも今週話しています。
うつ心理相談センター
村田 晃(心理学博士[PhD] University of Denver USA)