書道で育む子どもの非認知能力
好きな字を通して自分を表現する
前年度から通級(特別支援教室)を始めた小学校5年生の女の子がいました。もともと字を書くことが好きで葛飾北斎に夢中になっていたのですが、美術館に足を運んだり、イベント会場に赴いてグッズを購入したりするほどの熱心さで、北斎の絵のタイトルをレッスン時に書くことが、彼女にとって何よりの楽しみのひとつになっていました。
もともと毛筆そのものにも興味を持っていたお子さんだったため、字を書くことも北斎の絵に触れることも、本人が自分から求めて楽しんでいたことだったからこそ、そこを起点に関わっていけるのではないかと私は考えていました。
一方で学校生活では、授業中に立ち歩いたり、勘違いをきっかけに正義感から友達とトラブルになることもありました。こだわりの強さから、自分の理想に達しないとイライラが止まらなくなったり、集中力が続かないこともありました。
ご本人なりに頑張ろうとする気持ちが強い分、思うようにいかないときのもどかしさも大きかったのだと感じています。
私の教室に通ってくださる生徒さんの中には、学校での過ごし方に難しさを抱えながらも、自分の好きなことにはまっすぐに向き合える力を持っているお子さんが少なくありません。そのお子さんも、まさにそうした一人でした。
好きなものへの熱心さと、日々の生活の中でのもどかしさが、同じ一人のお子さんの中に同居している。そのことを最初に理解しておくことが、指導の出発点になると私は考えています。
顔なじみだからこその安心感
そのお子さんとご家族は、私と以前からの知り合いでした。その安心感から、私と話すときはイライラすることもなく、落ち着いて会話ができました。他の書道教室ではなく私を選んでいただいた理由も「昔から知っている相手だから接しやすい」という点だったのではないかと感じています。
レッスンは月に3回のペースで通っていただきました。私の教室ではレッスンの最初に必ず墨をすります。墨をする音に耳を傾けながら手を動かし、少しずつ増してくる香りや粘り、染まっていく墨の色を五感で感じることで、書く姿勢を整える時間にしています。この導入は、その子にとっても気持ちを落ち着ける役割を果たしていたように思います。
私自身、都内の小中学校で特別支援教室専門員も務めている経験を生かして、学校での様子もうかがいながら、自然な会話の中でその日の気持ちを受け止めるよう心がけています。
学校の学習には興味や馴染みが薄い様子だったので、最低限知っておいてほしい基礎知識については、クイズ形式で楽しみながら伝えるようにしました。
また、学校での出来事を教えてくれる日もあれば、あまり話したがらない日もありますので、その日の様子に合わせて距離感を調整することも大切にしています。15時から18時までの開室時間の中で無理のないタイミングで通っていただけることも、ペースを保ちやすかったのではないかと思います。
好きな言葉を一緒に探し、傷つけない伝え方を大切に
私の教室では、学年ごとの課題は設けていません。その日に書きたい字を自分で選び、どこまで書いたら納得できるかも自分で決めます。そのお子さんに対してもこの方針は同じです。
指導の中で特に工夫したのは、落ち込んだり傷つかないよう配慮しながらも、伝えるべきことはきちんと伝えるという姿勢です。これを意識しながら、まずは本人が書きたいと思う好きな言葉を一緒に探すところから始めました。
北斎の絵のタイトルを書きたいとの申し出があったので次々書くことからはじめ、書き順がわからないときは一緒に確認しながら進めました。習っていない難しい漢字もありますし、1年生で習う漢字を忘れてしまっている場合もありますが、どちらも同じように確認することで寄り添いました。
線の太さや形について「こうするともっと良くなるかもしれない」と伝えはしますが、正解を押しつけるのではなく、本人が書きたいと思う気持ちを起点にすることを常に意識しています。その字のゴールを決めるのも自分自身。自分自身で納得と感じられたときには、あらかじめ自分で作っておいた本人だけのハンコを押して仕上げにしています。
この一連の流れの中で、そのお子さんも少しずつ、自分で区切りをつける感覚をつかんでいったように感じています。学校の授業では正解が決まっていることが多く、それがプレッシャーになりやすいお子さんでした。だからこそ書道教室では、正解のない自由さの中で、安心して字と向き合ってもらえるように心がけていました。
北斎の絵のタイトルを書くうちに見えてきた変化
北斎の絵のタイトルを書くようになってから、そのお子さんは以前よりも集中して取り組み、字も上達していきました。好きな言葉を書くことで前向きに取り組み、アドバイスもしっかりと聞き入れられるようになりました。
こちらから書く内容を一方的に与えるのではなく、本人に好きな言葉を選んでもらうことで、もっとこうしてみよう、もっとこうしてみたいと、自分から積極的に伝えてくれる場面も増えてきました。
また、書くたびに自分なりの発見や工夫が生まれ、それを言葉にして共有してくれるようになったことも大きな変化のひとつです。保護者の方からも「字がうまくなった」「前よりも落ち着いてきた」という声をいただいています。
私自身は、字が上達したこと以上に、自分の気持ちを言葉にして伝えられる場面が増えたことをとてもうれしく感じています。好きなものを入り口にすることで、本人の中にもともとあった集中する力や工夫をする力が、自然な形で引き出されていったのだと思います。
同じ悩みを持つ方へお伝えしたいこと
特性の強さは一人ひとり異なります。実は私自身の子どもにも発達に特性があり、幼少期は不安を抱えていた時期がありました。その経験があるからこそ、多様なお子さんを迎え入れ、特性を強みとして伸ばすお手伝いができればという思いでこの教室を続けています。
このお子さんについても、特性の強さに合わせたアプローチを考え実践するよう心がけました。教室になかなか通えないお子さんについては、ご自宅などへ訪問して指導することも可能ですし、放課後等デイサービスでのレクリエーションにも対応していきます。
都内の小中学校での特別支援教室専門員としての活動や保護者向けの講演会を通じても、同じような悩みを持つご家庭に向き合ってきましたが、教室に集まる生徒さんにはそれぞれ異なる個性があります。書くことを通じて、お子さんが自分らしく力を発揮できる時間をこれからも一緒につくっていきたいです。
まとめ
書きたい字を自分で選び好きなことを通じて向き合う時間は、お子さんの集中力や自信を育むきっかけになるとこれまでの指導を通じて感じています。
・こだわりの強さや特性に合わせた書道指導を探している方
・お子さんが自分のペースで書に向き合える教室を探している方
・教室に通うのが難しく、訪問や出張でのレッスンを検討している方
アトリエわんぱくは、教室という決まった場所にこだわらず、そのお子さんが安心して字と向き合える環境を一緒に見つけていきます。どうぞお気軽にご相談ください。
アトリエわんぱく
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