遺言書作成のキーポイントとなる『付言事項』とは?
個人で所有する賃貸マンションや賃貸アパートから賃料収入を得ている方は多いと思いますが、このケースで賃貸不動産の所有者に相続が発生後、遺産分割協議が成立するまでに被相続
人(亡くなった人)が所有していた賃貸不動産からの賃料収入は相続人の間でどのように分け
れば良いでしょうか。
相続人が一人であれば問題なく賃貸不動産を相続できますが、相続人が複数になれば賃料収入
の取得分で争いが生じるケースもありますので注意が必要です。
被相続人が遺言を残していない場合には賃貸不動産も他の相続財産と同様に相続人全員が参加
する遺産分割協議の成立後にその承継者を決めることになりますので、賃貸不動産の承継者が
決まった後に発生する賃料収入は賃貸不動産を取得した相続人が賃貸借契約の賃貸人としての
地位も当然に承継することになります。
一方で被相続人が遺言を遺している場合には原則としてその遺言により賃貸不動産を取得す
る方が相続開始時から賃料収入を取得することになります。
遺言を残していない被相続人が死亡後、遺産分割協議が成立するまでに発生した賃料収入は誰
が取得するかという点については裁判所でも見解が分かれていたようですが、平成17年10月
に最高裁が以下の判断を示しています。
最高裁はまず遺産が相続開始から遺産分割までの間、共同相続人全員の共有に属するという
相続の基本から相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権は相続財産に該当せず、別個
の相続人全員の共有財産であり、各相続人が自らの相続分に応じて賃料収入の債権を確定的に
取得するとしたのです。
次に問題となるのはこのような形で各相続人がそれぞれ取得した賃料収入の債権がその後に
行われた遺産分割の内容に影響を与えるか否かということです。
民法909条では、遺産分割には相続開始の時に遡って効力が発生するという遡及効の定めが
ありますので、遺産分割の内容によっては相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権を
取得する人が変わる可能性もあります。
しかしながら、最高裁はこの点について相続人が相続分に応じて賃料債権を確定的に取得する
ことは後になされた遺産分割の遡及効を受けないとしたのです。
また、相続開始から遺産分割協議の成立まで賃貸不動産の固定資産税や修繕費、管理委託手数
料等が発生していることからも未分割期間の賃料収入とその間の費用を精算しなければならな
いことも注意が必要なので、賃料収入の分け方で揉めないポイントとして相続人全員が納得で
きるような遺産分割協議を進めていくことです。
最後にこの遺産分割に関する最高裁(平成17年10月11日 遺産分割審判に対する抗告審の
変更決定に対する許可抗告事件)の判例を掲載しますので、ご興味ある方は参照してください。
なお、判例では民法第903条1項に定めの特別受益に関する文言もありますので、次回のコラム
では相続や遺産分割で争点となる特別受益について考えてみたいと思います。