土地の相続を放棄するメリットとデメリットについて
6月27日付の新聞報道の通り、国税庁は6月30日にマンションで新たに導入する相続税の算定ルールを発表しました。
国税庁はマンション購入により節税効果が得られる「タワマン節税」を封じるために相続税の算定ルールの見直しを図り、この節税スキームを封じることで税負担の公平性の担保することが狙いです。
マンションの相続税評価のルールは1964年の国税庁通達が根拠となっていて、相続税における財産の評価は、本来「時価」に基づくものとされていますが、土地や建物の時価評価の算定は難しいので、便宜上、土地は「路線価」、建物は「固定資産税評価額」を評価基準と
してきました。
また、1964年当時は想定していなかったタワーマンションについては、人気があり時価が高い高層階ほど相続税評価額との差が大きいために課税の不公平が生じていたことが問題視されていたことも事実です。
近年ではマンションの市場価格と相続税評価額の差を利用してタワーマンション購入により資産を圧縮して節税するスキームが活発化しています。
この「タワマン節税」に警鐘を鳴らしたのが、昨年2022年4月19日の最高裁判決でこの裁判は東京都杉並区と神奈川県川崎市にある2棟のマンションの相続の評価額を巡る争いでしたが、時系列にまとめると以下の通りです。
(2022年4月の相続不動産の注目すべき最高裁判決のコラムより
抜粋)
・2009年に90歳代の父親が銀行から10億800万円の借入れをして2棟のマンションを約13億8,700万円で購入した。
・2012年にマンション2棟を相続人の子供らが相続し、相続人は路線価を基にマンション2棟の価格を約3億3,000万円で評価し、相続税は銀行融資の借入金等を差し引いて相続税額を「0円」で申告した。
・2016年に国税局は独自にマンションを不動産鑑定し、評価額を約12億7,300万円に見直し、約3億3,370万円の相続税を追徴課税した。
・相続人はこの処分を不服として争っていたが、国税局は一審及び二審で路線価を基準に評価すると税負担の公平を著しく害することが明白で追徴課税は妥当と判断していた。
・2022年4月19日の最高裁第三小法廷で本件上告を棄却するとして相続人の敗訴が決定した。
このような一連の流れから最高裁の判決が出ましたが、最高裁の判決が引き金となり税負担の公平化を図るべく昨年12月に公表された令和5年度の税制改正大綱で「タワマン節税」を封じる方向性が明記されました。
これを受けて国税庁は本年1 月にマンションの相続税評価の算定ルールを議論する有識者会議を設立し、過去3回の有識者会議の議論を経て6月30日に市場価格に基づいてマンションの相続税評価額を引き上げる新たな算定ルールを決定したのですが、このマンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議の議事要旨は報道発表資料として公表されていますのでチェックしてみてください。
マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議
有識者会議の資料からマンションの評価額が市場価格と乖離する要因として、マンションの総階数や所在階、築年数等が加味されていないことやタワーマンションのように立地条件が良好で地価の高い場所であるにもかかわらず多くの住戸で持ち合うために敷地の持分が狭小になる度合いが大きいことを上げています。
そこで見直し案として「築年数」、「総階数」、「所在階」、「敷地持分」の4つの指数から市場価格との乖離率(注1)を予測して評価額が市場価格の60%に達しない場合には60%になるまで価額を補正するもので、来年2024年1月から新ルールの適用を目指しています。
この数値の60%は、一戸建ての乖離率にマンションを近づけようとするもので、マンションの市場価格との乖離率を一戸建て並みにすることで税負担の公平性を図るようです。
この見直し案は築浅や高層階での評価額がこれまでより引きあがるので、相続対策としての節税効果は薄れていくのは間違いありません。
尚、その一方で好況なマンション業界にも影響が出る可能性もあります。
現況では新築や中古のマンションは高騰が続いていて活況を呈していますが、好調なマンション市況に影響を及ぼすことが懸念されるためです。
新たなルール改正によりマンション節税効果が薄れるとマンションを売却して他の資産に資金を振り替える動きが広がり、中古マンション価格が下落することにも繋がるので、今後の動向にも注視していきます。
注1 : 乖離率=市場価格÷相続税評価額
最後に今回のテーマの内容とは全く異なりますが、今年もお盆休みで帰省して実家に家族が集う季節となりましたので、実家での家族会議をお勧めします。
お盆休みは、高齢の親の健康面や老後の収支予測、相続税対策の要否、親が抱く今後の生活環境等をしっかり家族で話し合う絶好の機会となりますので、是非、家族会議をしてみてはいかがでしょうか。