空き家対策特別措置法改正の背景と改正ポイントについて
前回のコラムで40年ぶりとなる相続法の改正と自筆証書遺言の方式が緩和されたことをお伝えしましたが、今回は週刊誌やマスコミ等で話題となっているまもなく7月1日より施行される改正相続法についてご紹介します。
7月1日に施行するのは、特別受益持ち戻し免除の意思表示の推定規定、被相続人の預貯金の仮払い制度の創設、遺留分減殺請求権の制度に関する見直し、相続人以外の者の貢献を考慮するための方策等があります。
・特別受益持ち戻し免除の意思表示の推定規定
民法では被相続人(亡くなった人)から相続人に対して遺贈または贈与された場合、その贈与を受けた財産も遺産に組み戻した上で相続分を計算し、遺贈または贈与を受けた分を差し引いて遺産分割する際の取得分を定めますが、これが特別受益の持ち戻しです。
そのため被相続人が生前に配偶者に居住用の家屋や土地を贈与した場合でもその居住用の不動産は遺産を先渡しされたものとして取り扱われるので、遺産分割で配偶者が取得する財産は減額されることになり、被相続人が 「自分の死後に配偶者が生活に困らないように!!」と生前贈与しても配偶者が受け取る財産の総額は、結果的に生前贈与しない場合と何ら変わらないのです。
そこで、配偶者保護のための方策として婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈または贈与がされた場合は「遺産分割において持ち戻しの計算をしなくてよい」という被相続人の意思表示があったものと推定し、遺産分割の計算でも「遺産の先渡しがされたとして取り扱う必要がない」としたので、配偶者が遺産分割でより多くの財産を取得することが可能となりました。
今回の法改正により特別受益の持ち戻しをしなくてもよいとする配偶者の優遇措置が取られたことは今後の急速な高齢化社会に伴う相続法制のあり方を見直す上で生活への影響も大きいと期待されます。
・被相続人の預貯金の仮払い制度の創設
相続された預貯金債権について生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済等の資金捻出ができるよう遺産分割前に払戻しが受けられる制度が創設されます。
この制度の背景は以前のコラムで取り上げた平成28年の最高裁大法廷決定により共同相続された預金債権は遺産分割の対象となるとして「相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない」との判断を示したので、各共同相続人はこれまでのように法定相続分に応じた額を単独で行使できないと解されることになったのですが、この不都合を回避するために預貯金の仮払い制度が創設されたのです。
預貯金の払戻しは各共同相続人が法定相続分の3分の1まで金融機関の窓口で受けることができますが、同一の金融機関の上限金額は法務省令で150万円と定められています。
また、金融機関毎で払戻しの方法が異なるために時間がかかることが想定されますので、注意が必要です。
・遺留分減殺請求権に関する見直し
遺留分制度は相続人に対して被相続人の財産の一定割合について相続権を保障することですが、被相続人が一定割合を超えて生前贈与や遺贈をした場合に相続人は侵害された分を取り戻す事ができるこの権利が遺留分減殺請求権です。
今回の法改正では遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権へ名称が変更することと遺留分侵害額請求権の行使により生ずる権利を金銭債権化したのです。
この遺留分侵害額請求権は遺留分減殺請求権について物権的効力を廃止し金銭化することによって遺留分減殺後の共有物分割をめぐる争いが無くなりますので相続紛争の早期解決の効果が期待されます。
・被相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
相続人以外の被相続人の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合は、相続人に対して金銭請求をすることができる制度を創設しました。
現行法では相続人以外の者は、被相続人の介護に尽力しても相続財産から一切の分配を受けることができないために被相続人の介護を全くしなかった相続人が相続財産から分配を受けることと比較して公平感を欠くものでした。
そこで、被相続人と同居していた長男の妻のように無償で被相続人に対して療養看護その他の労務の提供によって被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には相続人に対して金銭の支払を請求できることになります。
以上が7月1日施行の改正相続法の概要となりますが、民法の改正は馴染みがなく難しいため解釈できないことも多々あると思います。
また、他の改正でも2020年4月1日施行で配偶者居住権の創設、2020年7月10日施行の自筆遺言証書の法務局への保管制度(既に自筆証書遺言の方式緩和は施行済)がありますので、こちらは順を追ってお伝えする予定です。
相続が発生すると様々な手続や申告の期限があり時間の猶予は全くありませんし、相続後の対策もあまり期待できないものですが、生前の効果的な対策は数多くあるのです。
近年の最高裁判所の司法統計年報のデータから読み取ると家庭裁判所での遺産分割金額別の訴訟割合は5,000万円以下が実に75%も占めていますので、遺産額が少ないほど相続で揉める傾向があるのです。
生前にしっかりと相続対策をすれば家族の争いを回避できますので、今回の相続法の改正を契機として円満で揉めない相続が実現できるような相続対策を考えてみましょう。