思わぬところに落とし穴
電気メスメンテナンスの実態に関してお伝えしたいと思います。
臨床工学技士在籍の病院でも200床以下クラスの病院では、手術室は臨床工学技士の管轄外になっている病院が案外多いことを、自社のマーケット調査で分かっています。透析と病棟で手一杯になるようで、手術室のモニター、麻酔器、電気メスなどは現場の看護師さんで見ているようです。
この中で電気メスの日常点検はどうしているかというと、特に何をやっているわけではなく、ディスポのハンドスイッチをリユースして劣化により焼け具合が落ちてきたら新品に交換するというのが常套手段になっていることが多いかと思います。
実際電気メスは、専用のテスターを使って出力や高周波漏れ電流を測定する定量的な試験を実施するため、テスターがないときちんとした点検はできません。
では、現場レベルで行う日常点検はどうするかというと、ハンドスイッチやバイポーラ攝子が定量的ではないけど出力しているかどうかを調べることはできます。
ある病院の男性看護師さんは対極板に濡れたガーゼを置きガーゼにメス先を当てて出力の有無をチェックしていました。
または、ガーゼの代わりに石鹸を使うやり方があります。
石鹸は脂肪分を含みより人体に近い組成であるためリアルに焼き加減をチェックできます。
是非試してみてください。
電気メスをテスター(測定器)を使って定量的な点検をするときは、切開や凝固の出力を測定したり、対極板が剝がれて行った時に発生するアラームが発生するときの電気抵抗地を測定する他に「高周波漏れ電流」という項目を測定します。
そもそも電気メスは、300kHz〜5MHzの高周波発振器です。
人体は1kHzから感電の感受性が弱くなっていきますが、高周波になればジュール熱による組織の破壊(切開・凝固)を起こしこれを利用しています。
モノポーラの場合メス先から発した高周波電流は対極板から回収されて電気メス本体に戻りますが、この対極板の貼付がまずいと皮膚に熱傷を起こします。
また、高周波の漏れ電流値が基準値より大きい場合、一定の絶縁が保たれていないため、人体に流れる電流強度が強くなり人体に大きな影響を及ぼす危険があります。
また、上記の電流が流れる経路以外に電流が流れてしまうことがあります。これを高周波分流といい、通常の経路以外に何らかの電流経路が出来ている場合に発生します。
これの原因となる経路が有れば遮断すれば良いですが、高周波漏れ電流が基準値以上だと、高周波分流の経路に患者さんの四肢が触れていたりすると熱傷の原因になったりします。
意外と見落とされがちな電気メスの予防保守は事故防止の観点から大変重要です。