医療機器のインシデント報告に関して
2007年4月1日に施行された改正医療法(第5次医療法改正)では、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部」」が改正されました。
その概要の中に「医療安全の確保」があり、医療安全支援センターの制度化、医療安全確保の体制確保義務付け等[医療法]という項目が加味されております。
この医療安全の確保に関し詳しく見ていくと。
医療安全の確保(医療法)
基本的な考え方
1,医療法においいて医療安全の確保にかかる医療機関の管理者の義務を規定することにより医療安全の確保という施策の方向を明示する。
2,都道府県等が接地する医療安全支援センターについて医療法に位置付ける。
これは、患者取り違えなどの医療事故が起こったことを鑑みて改正した物です。改正前は
1,医療法施行規則において、病院、有床診療所の管理者に対して安全管理体制の整備が義務付けられている。
2,医療安全支援センターについて法律上の位置づけがなく、機能が明確でない。
とあり、こうした関係者による取組にもかかわらず、十分な医療安全体制が確立していない。「医療の質向上」という観点を一層重視した施策の充実が必要とされ、以下の様に改正されました。
1,医療安全の確保に関する法律上の規定を新設
2,医療機関の管理者に医療安全確保の義務付け
・医療機関における安全管理体制の充実・強化、院内感染制御体制の充実
・医療機関における医薬品・医療機器の安全管理体制の確保
3,患者からの相談に応じ助言等を行う医療安全支援センターの制度化
・都道府県等は医療安全支援センターを設置するよう努める。
・都道府県等は、医療安全支援センターの名称及び所在地を公示。 等
と大分細かく規定されました。そして、改正医療法第6条の10においては、病院、診療所又は助産所の管理者は(中略)
1,医療の安全を確保するための指針の策定
2,従業者に対する研修の実施
3,その他の当該病院、診療所又は助産所における医療の安全を確保するための措置を講じなければならない。
更に、医療安全を確保するために医療機関の管理者は医療に係る安全管理に、院内感染対策・防災・放射線・医療ガスなどに加えて医薬品・医療機器に関する項目が具体的に追加されました。
まとめると、医療機関の管理者に義務付けれることは
1,医療安全を確保するための指針の策定
・医療に係る安全管理のための指針
・院内感染対策のための指針
2,医療の安全を確保するための委員会の開催(有床の医療機関に対して)
・医療に係る安全管理のための委員会
・院内感染対策のための委員会
3,医療安全を確保するための従業者に対する研修の実施
・医療に係る安全管理のための職員研修(年2回程度)
・院内感染対策のための研修(年2回程度)
・医薬品の安全使用のための研修(必要に応じて)
・医療機器の安全使用のための研修(医療機器導入時など)
4,その他の医療安全を確保するための措置
・医薬品・医療機器の安全使用のための責任者の設置
・院内の事故報告制度等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策(医療事故・ヒヤリハット等、感染症の発生状況の報告等、医薬品の安全使用のために必要となる情報、医療機器の安全使用のために必要となる情報など)
・医薬品の業務手順書の作成及び手順書に基づく業務の実施
・医療機器の保守点検計画の策定及び保守点検の適切な実施
とかなり具体的な内容が義務付けられました。
医療機器に関して詳しく見ていくと以下の通りです
医療機器の保守点検・安全使用に関する体制について
病院の管理者は、法第6条の10及び新省令第1条の11第2項第3号に規定に基づき、医療機器に係る安全管理のための体制を確保しなければならないものであること。
なお、当該医療機器には病院等において医学管理を行なっている患者の自宅その他病院等以外の場所で使用される医療機器も含まれる。
(1)医療機器の安全使用のための責任者
病院等の管理者は、新省令第1条の11第2項第3号イに規定するする医療機器の安全使用のための責任者(以下「医療機器安全管理責任者」という)を配置すること。ただし、病院においては管理者との兼務は不可とすること。
医療機器安全管理責任者は、医療機器に関する十分な知識を有する常勤職員であり、医師、歯科医師、薬剤師、助産師(助産所の場合に限る)、看護師、歯科衛生士(主として歯科医業を行う診療所に限る)、診療放射線技師、臨床検査技師又は臨床工学技士のいずれかの資格を有していること。
医療機器安全管理責任者は、病院等の管理者の指示の下に、次に掲げる業務を行うものとすること。なお、病院および患者を入院させるための施設を有する診療所においては、安全管理員会との連携の下、実施体制を確保すること。
⇒中規模以上の病院では臨床工学技士が在籍しているので、医療機器安全管理責任者は臨床工学技士が担当していますが、中小規模以下の病院では臨床工学技士が不在の病院も多く、その場合は診療放射線技師、臨床検査技師が担当している事が多いようです。
①従業者に対する医療機器の安全使用のための研修の実施
②医療機器の保守点検に関する計画の策定及び保守点検の適切な実施
③医療機器の安全使用のために必要となる情報の収集その他の医療機器の安全使用を目的とした改善のための方策の実施
(2)従事者に対する医療機器の安全使用のための研修
医療機器安全管理責任者は、新省令第1条の11第2項第3号ロの規定に基づき、以下に掲げる従業者に対する医療機器の安全使用のための研修を行うこと。
①新しい医療機器の導入時の研修
病院等において使用した経験のない新しい医療機器を導入する際には、当該医療機器を使用する予定の者に対する研修を行い、その実施内容について記録すること。
②特定機能病院における定期研修
特定機能病院においては、特に安全使用に際して技術の習得が必要と考えられる医療機器に関しての研修を定期的に行い、その実施内容について記録すること。
研修の内容については、次に掲げる事項とすること。なお、他の医療安全に係る研修と併せて実施しても差し支えないこととすること。また、上記①、②以外の研修については必要に応じて開催すること。
研修の内容については、次に掲げる事項とすること。なお、他の医療安全係る研修と併せて実施しても差支えないこととすること。
以外の研修については必要の応じて開催すること。
ア 医療機器の有効性・安全性に関する事項
イ 医療機器の使用方法に関する事項
ウ 医療機器の保守点検に関する事項
エ 医療機器の不具合が発生した場合の対応(施設内での報告、行政機関への報告等)に関する事項
オ 医療機器の使用に関して特に法令上遵守すべき事項
(3)医療機器の保守点検に関する計画の策定及び保守点検
医療機器安全管理責任者は新省令第1条の11第2項第3号ハに定めるところにより、医療機器の特性等にかんがみ、保守点検が必要と考えられる医療機器については保守点検計画の策定等を行うこと。
①保守点検計画の策定
ア 保守点検に関する計画の策定に当たっては、薬事法の規定に基づき添付文書に記載されている保守点検に関する事項を参照すること。また、必要に応じて当該医療機器の製造販売業者に対して情報提供を求めること。
イ 保守点検計画には、機種別に保守点検の時期等を記載すること。
②保守点検の適切な実施
ア 保守点検の実施状況、使用状況、修理状況、購入年等を把握し、記録すること。
イ 保守点検の実施状況を評価し、医療安全の観点から、必要に応じて安全面に十分配慮した医療機器の採用に関する助言を行うとともに、保守点検計画の見直しを行うこと。
ウ 医療機器の保守点検を外部に委託する際も保守点検の実施状況等の記録を保持すること。
(4)医療機器の安全使用のために必要となる情報の収集その他の医療機器の安全使用を目的とした改善のための方策新省令第1条の11第2項第3号ニに規定する医療機器の安全使用のために必要となる情報の収集その他の医療機器の安全確保を目的とした改善のための方策の実施については、次の要件を満たすものとする。
①添付文書の管理
医療機器安全管理責任者は医療機器の添付文書、取扱説明書等の医療機器の安全使用・保守点検等に関する情報を整理し、その管理を行なうこと。
②医療機器に係る安全性情報等の収集
医療機器安全管理責任者は、医療機器の不具合情報や安全性情報のために必要な情報を製造販売業者等から一元的に収集するとともに、得られた情報を当該医療機器に携わる者に対して適切に提供すること。
③病院などの管理者への報告
医療機器安全管理責任者は、管理している医療機器の不具合や健康被害等に関する内外の情報収集に努めるとともに、当該病院などの管理者への報告等を行うこと。また、情報収集などに当たっては、薬事法において、①製造販売業者等が行う医療機器の適正な使用のために必要な情報の収集に対して病院等が協力するよう努める必要があること等(薬事法台77条の3第2項及び第3講)、②病院若しくは診療所も開設者又は医師、歯科医師、薬剤師その他の医療関係者は、医療機器について、当該品目の副作用等の発生を知った場合において、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要であると認めるときは、厚生労働大臣に対して副作用等を報告することが義務付けられていること(薬事法第77条の4の第2項)に留意する必要があること。
つまり、医療機器安全管理責任者を中心に医療機器の安全管理を細かく実践することが義務付けられています。
業務内容から臨床工学技士の仕事として捉えることが望ましいのですが、実際は臨床工学技士不在である場合は、点検などの実務に関してはメーカーに頼らざるを得ませんが、現場への巡回点検は、ME機器の知識がない、巡回する時間が取れないなどの理由で実践できていない場合が多いです。
大きなポイントはこの部分でME機器自体が安全性と性能が維持されているかということと、現場で安全に適正使用されているかということと、使用環境が適切であるかという事に気にはなっていても実際に配慮されているかという事に関しては疑問が残る節が否めません。
よりインシデントの種を早期に積むためにはME機器自体の安全性と性能の維持・適正使用・適正使用環境に目を向けていく必要がある事がこの医療法改正で求められているのです。