植毛で失敗しないための5つのポイント
自毛植毛手術方法の一つであるFUT(Follicular Unit Transplantation)は、主に大量のドナーを必要とする植毛に使用される方法です。FUT手術では、ドナーエリア(後頭部や側頭部)からストリップ(帯状にした頭皮の組織)を切り取り、そこから毛包単位に株を切り分けてから植毛する手法で、FUSS(Follicular Unit Strip Surgery:ストリップ法)と呼ばれることもあります。個々のプロセスや詳細などは医療機関によって異なる場合がありますので、カウンセリング等の際にご確認ください。
FUTの代表的なメリット・デメリットは以下の通りです。
FUTのメリット
■大量の移植が可能
FUT手術ではストリップから多くの株を取得できるため、多量の株が必要な広範囲の薄毛など、広い範囲の治療に効果的です。
■生涯に採取出来るドナー株数が多い
ドナーを帯状に採取するため、手術後のドナー採取部は密度低下がありません。このため生涯に採取できるドナー株数がFUEの約2倍(約5,000~7,000株)ほどになります。移植毛は基本的に生涯生え続ける事が期待できますが、それ以外の既存毛は年齢とともに徐々に抜けてしまうことがあります。そのように徐々に薄毛が進行してしまい、しばらくしてから2回目以降の手術を希望される場合でも、対応がしやすいです。
■高い有効採取率
ストリップの株は、直接目で見ながら手作業によって傷つけることなく切り分けることができるため、毛根切断率を限りなく低く抑える事が出来ます。故に採取した毛根のほぼすべてを有効活用する事ができます。
■コスト、手術時間
自由診療の値段はクリニック毎に異なりますが、一般的にFUTは、FUEという手術方法に比べて費用が低く抑えられることがあります。また、同じ株数であれば、手術時間が短い傾向があります(これもクリニックによって異なります)。
■狭いバリカン幅
ドナー採取部にはバリカンを入れて髪を短く刈る必要がありますが、FUTの場合はバリカンを入れる範囲はほぼストリップの面積となりますので、術後に残るバリカン幅は狭いです(だいたい縫合部の上下5mmくらいのバリカン幅)。このことから、後頭部の髪の毛を少し伸ばしておいていただければ、手術後すぐにバリカン部を隠すことができます。
FUT手術のデメリット
■傷跡が残る
FUTの最大のデメリットとして、後頭部に横に走る線状の傷痕が残ることが挙げられます。
FUTでは、後頭部の頭皮を帯状に切り取って縫合するため、採取部分に細い線状の傷跡が残ります。ケロイド体質(傷が治癒する過程で白く盛り上がって治ってしまう体質)の方は、後頭部の傷も太く盛り上がって治るリスクがあります。
この傷は横方向の傷なので、後頭部の髪をある程度伸ばしていただければ外から見えることはありません。後頭部の髪の毛は上から下に、縦方向に生えてくるため、横に走る傷は隠しやすいのです。
また手術を複数回行う場合でも、3回目くらいまではそれまでと同じ部分から、傷ごとドナー採取してしまうことで、術後の傷を1本のまま行うことが出来ます。ただし傷ごと採取する場合は、傷の部分が株として活用できないため、2回目以降の手術で採れる株数が減ってしまう傾向があります。
なお、線状の傷をより目立たなくする方法としては、トリコフィティック法という縫合方法を用いる場合があります(紀尾井町クリニックでは、基本的に全てのFUTで採用)。また、傷痕への植毛や、SMP(Scalp Micro Pigmentation。いわゆるヘアタトゥーと呼ばれるものです)などで傷痕を目立たなくする方法もあります。
■採取予定の株数から実際の株数が上下する
FUTではドナー部を一塊のブロック状に採取して、そこから株分けするため、予定株数ピッタリで採れることはありません。例えば1500株を予定して、実際には1532株採れた、というようなことが起こります。なるべく誤差がないよう計算して採取しますが、実際に採れた株数は手術後にご説明する形となります。
■頭皮のゆとりがないと採取しにくい
FUTでは、頭皮のゆとりを利用してドナー採取します。ですので、頭皮がつっぱっていたりと、ゆとりがないとたくさんのドナーは採れません。ですので頭皮の硬い方は採取できるドナー株数が限られてしまう傾向があります。手術前には頭皮マッサージで頭皮を伸ばしていただくと、よりたくさんのドナー採取ができることがあります。
FUT手術の流れ
一般的なFUTの手順は以下の通りです。
【1】ドナーエリアの準備
後頭部のドナー部の毛髪を1mm程度の長さにバリカンで刈り、髪の密度を測定します。この密度によって、ストリップの幅と長さを最終決定します。刈る範囲は必要な株数やそれまでの施術回数等によって異なりますが、刈った部分はほとんどドナーとして採取してしまいます。消毒を行い、局部麻酔を施します。
【2】ストリップ切除
ドナーエリアからメスを使ってストリップを切り取ります。採取する採取するストリップの幅や長さは予定している株数により異なります。
【3】ドナーエリアの縫合
ストリップ切除後、ドナーエリアを閉じるために糸を使って縫合を行います。傷痕をなるべく目立たせないように工夫されたトリコフィティック縫合法を用いるクリニックもあります。
【4】株分け
切り取ったストリップから、顕微鏡下に毛包単位(ユニット)を切り出して株(グラフト)を生成していきます。各ユニットには、1〜4本の髪の毛が含まれています。通常は看護師数名で実施され、虚血時間を短縮する為のスピードと、無駄なく有効なユニットを切り分ける為の技術力を兼ね備えた熟練の経験が必要となります。FUTにおいて重要なプロセスです。
【5】植毛場所の準備
植毛する部分を消毒、局所麻酔し、小さな切開孔(ラインスリット)を作ります。ラインスリットの位置や角度、深度は、自然な髪の成長を再現するために慎重に行われます。
【6】株の移植
切り分けた株を医師の指示に従い植毛場所のラインスリットへ移植していきます。どの場所にどのような株をどうやって入れ込んでいくのか、担当者の経験や技量が問われます。一般的には主に看護師が担当する事が多いプロセスです。
【7】最終チェックと術後説明
手術後、ドナー採取部と移植部を優しく洗浄して傷口をきれいに保ち、最終チェックをおこないます。移植部及び移植毛の状態を医師がチェックし、ドナー採取部に包帯を巻いて手術は終了です。最後に医師と看護師から最終的に採れた株数の説明、副作用や痛みを緩和する薬の飲み方の説明、移植したドナー株にダメージを与えないための生活面での注意点、洗髪方法などをご案内して終了となります。日帰り手術で入院の必要はありません。
以上がFUT(Follicular Unit Transplantation)手術のメリット・デメリットや手順となります。
■まとめ
FUTは、広範な薄毛の改善など、大量の移植株を必要とする場合に適しています。しかし、細い線状の傷跡が残ることや手術後の回復期間がFUEに比べて若干長いことを考慮する必要がございます。
また、自毛植毛はチーム医療であり、効果的なFUTを実現する為には、経験のある医師だけではなく、実績のある看護師も複数名必要となるため、FUEに比べると採用している医療機関が限られています。
よく「FUTとFUEのどちらが良い方法なのか?」というご質問を頂く事がございますが、それぞれにメリットもあればデメリットもあります。最終的には、患者様ごとの薄毛の状況や希望する結果に合わせて、どの植毛手術方法が最適であるかを判断するため、一概にどちらの術式が優れているとは言えません。
医師とのカウンセリングを通じて、それぞれの植毛方法のメリット・デメリット・注意点などを説明してもらい、希望や予算、現在の髪の状態を考慮しながら、自身の状況に最も適した植毛手術の方法を決定することが重要です。