社労士イノキュウの現場からの本音の報告 2026年2月 「作業能率・勤務態度が不良な社員の退職について」

新日本保険新聞に「新米社労士イノキュウの現場からの本音の報告」(第24回)が掲載されました。
2026年3月掲載予定原稿 「本人の意思が確認できない場合の退職処理」
(ご質問)
本人の意思が確認できない場合の退職処理
従業員が入社して10日目に、休日に自損事故を起こし、意識不明の状態となりました。
就業規則の「私傷病等による休職」については「勤続年数3年未満は1ヶ月」、「休職期間満了しても休職事由が消滅しない場合は、休職期間満了日を持って自然退職とする」となっています。
ただ、ご家族の連絡先がわからない状況です。
このまま進展が無い場合、自然退職とする際、どのように対処すべきでしょうか。
また、本人の意思が確認できないまま、傷病手当の申請はできるのでしょうか。
加えて、寮に入っておられるので退職となれば退寮となりますが、どのように対応するのが良いか困っております。
(回答)
以下、実務対応・法的留意点を整理してご説明します。
1.本件の基本的な整理(前提確認)
本件は、
・入社後10日目
・休日中の私傷病(自損事故)
・本人は意識不明で意思確認不可
・家族連絡先不明
という極めて例外的・慎重対応を要する事案です。
結論から言えば、形式的に休職期間満了=自然退職として処理することは可能性としてはあるが、実務上は相当慎重な対応が不可欠です。
2.休職・自然退職の取扱いについて
(1)休職の開始は可能か
就業規則上「私傷病等による休職」が定められている場合、本人の申出がなくとも、事実として就労不能であれば休職扱いとすること自体は可能と解されます。
ただし、本件は勤続10日であり、
・試用期間中
・休職制度の想定外の短期在籍
という点から、形式的適用で済ませず、記録を厚く残す必要があります。
(2)休職期間満了による「自然退職」の可否
就業規則に
「休職期間満了時に休職事由が消滅しない場合は自然退職」
と定めがある場合、理論上は適用可能です。
しかし、
・本人の意思確認が不能
・家族とも連絡不能
・退職の意思表示が一切ない
という状況では、自動的・機械的に自然退職処理を行うことは紛争リスクを伴います。
そのため、以下の対応が不可欠です。
(3)自然退職に向けた実務上の必須対応
① 会社としての「確認努力」を尽くす
・本人宛に書面(休職開始通知、休職満了予定通知)を郵送
・住民票記載住所宛に内容証明等で送付
・緊急連絡先欄、採用書類、履歴書等の再確認
② 休職期間満了日を明確に管理
・「○年○月○日をもって休職期間満了」
・「回復・復職の意思確認ができない場合は規程に基づき自然退職となる」
ことを記載した通知を送付
③ 記録を残す
後日、本人または家族から争われた場合に備え、
「意思確認が不可能であった」「会社として連絡努力を尽くした」
ことを客観的に説明できる状態にしておく必要があります。
3.本人意思不明のまま「傷病手当金」の申請は可能か
(1)原則
傷病手当金は、
・被保険者本人の申請
が原則です。
(2)意思表示不能の場合
本人が意識不明等で意思表示できない場合でも、
・法定代理人
・事実上の代理人(家族等)
が存在すれば、医師の意見書を添えて申請が可能とされています。
しかし本件では
・家族連絡先不明
・代理人不在
のため、会社単独での申請は困難です。
← 実務対応としては
・健康保険組合または協会けんぽに事情を説明
・「本人意思確認不能・代理人不在」であることを事前相談
し、申請保留扱いとするのが現実的です。
4.寮の退去(退寮)対応について
(1)即時退寮は避けるべき
本人が意識不明の状態である以上、
・私物の処分
・一方的な退寮処理
は強いトラブルリスクがあります。
(2)望ましい対応
① 休職中は原則現状維持
・寮費の取扱いは規程に従う
・無断での搬出・廃棄は行わない
② 自然退職後の対応
・退職確定後も、一定期間は保管
・書面で「○日までに引取りがない場合の対応」を通知
・可能であれば第三者(弁護士等)関与も検討
5.まとめ(実務上の着地点)
本件は、
・休職 → 休職期間満了 → 自然退職
という流れ自体は規程上可能ですが、
①意思確認不能
②家族連絡不能
③生活基盤(寮)が会社管理下
という点から、
連絡・通知努力を尽くす
書面・記録を厚く残す
傷病手当金は保険者へ事前相談
寮・私物は慎重に保全
という対応が不可欠です。
以上です。よろしくお願いいたします。



