中小企業倒産32ヵ月連続増加の裏に隠された「3つの機会」とは?
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
起業初期の現実:売上ゼロが当たり前
――新井さん、今日は起業家のメンタルについてお聞きしたいのです。起業して1年目、売上がほとんど立たず、SNSで発信しても反応が数件だけ。そんな状態で毎晩天井を見つめている起業家の方も多いと思うのですが、こうした状況は珍しくないのでしょうか?
新井:いえ、むしろそれが普通ですよ。私が25年以上起業支援をしてきた中で、最初からうまくいった人なんて、ほとんど見たことがありません。多くの人が「自分だけがダメなんじゃないか」と思い込んでしまうのです。
――やはり、そうなのですね。
新井:ええ。実は起業の成功率って、せいぜい1〜2割です。下手をすれば1割未満とも言われています。つまり、起業は、ほとんど失敗するものなのです。
――1割未満ですか! それは厳しい数字ですね。
新井:そうです。でも、この事実を知ることが、実は起業家にとって最初の転機になります。
「諦める」ことが覚悟になる
夢ではなく、幻想を諦める
――転機、ですか?
新井:ええ。ある起業家の方がいらっしゃってね、売上がほぼゼロの状態で「自分には才能がないのではないか」と悩んでいました。でも、起業の成功率を知った瞬間、彼は「諦めた」と言ったのです。
――夢を諦めてしまったのですか?
新井:いえ、違います。夢を諦めたわけではなく、「最初からうまくいくはず」という幻想を諦めたのです。これが大事なポイントです。
――幻想を諦める、ですか。
新井:そうです。起業初期は売れないのが当たり前。批判されるのも当たり前。家族に心配されるのも、友人に距離を置かれるのも当たり前。こう腹落ちした瞬間、彼の肩の力が抜けたそうです。
期待を手放すと行動が軽くなる
――なるほど。それまでは、どんな状態だったのでしょうか?
新井:それまでは「うまくやらなきゃ」「評価されなきゃ」と、見えない期待に押しつぶされていたそうです。でも期待を手放すと、不思議なことに行動が軽くなった。失敗しても「確率通りだ」と思えて、落ち込んでも「想定内だ」と立ち直れるようになったのです。
――期待を手放すことで、逆に前に進めるようになったわけですね。
新井:その通りです。私がいつもお伝えしているのは、起業家にとっての諦めとは、逃げではなく、現実を直視するための覚悟だということです。
「開き直る」ことが強さになる
最悪を受け入れると声が震えなくなる
――覚悟を決めた後も、壁は来ますよね?
新井:ええ、次々と来ますよ(笑)。その起業家の方も、大きな商談を控えていたときがありました。失敗すれば数か月分の資金計画が崩れる。前日の夜は「どうしよう」で頭がいっぱいになったそうです。
――プレッシャーが相当大きかったでしょうね。
新井:そうです。でも彼は、そこでもう一度考え直した。「最悪でも、会社が潰れるだけだ」「命までは取られない」「潰れても、また働けばいい」と。つまり、開き直ったのです。
――開き直り、ですか。
新井:はい。成功しようとするのをやめて、「やる」ことだけを決めた。すると不思議な変化が起きたそうです。声が震えなくなり、言葉が素直に出てきた。取り繕わず、正直に話せたと。
――それで商談は成功したのですか?
新井:いえ、実は成立しなかったのです。でも担当者はこう言ったそうです。「今回は難しいですが、あなたの姿勢は好きです。また声をかけます」と。
――失敗したのに、次につながったわけですね。
新井:そうなのです。そして数か月後、その言葉は現実になりました。開き直るとは、無責任ではなく、覚悟を決めることなのです。
メンタルは才能ではなく選択で鍛えられる
折れそうな瞬間の選択が起業家を作る
――新井さんが起業家を見てこられた中で、成功する人の共通点はありますか?
新井:起業家の強さとは、成功し続けることではありません。折れそうな瞬間に「期待を諦め」「最悪を受け入れる」、その2つを選び続けることができるかどうかです。
――つまり、メンタルは才能ではないと?
新井:ええ。起業家のメンタルは、才能ではなく選択で鍛えられるのです。私が「会社員のまま6ヵ月で起業する」方法をお伝えしているのも、この選択を練習する期間を持ってほしいからなのです。
――なるほど。いきなり会社を辞めて起業すると、その練習ができないということですね。
新井:その通りです。会社員のままなら、失敗してもリスクは限定的です。その安全な環境で「諦める」と「開き直る」を練習できる。これが、会社員起業の最大のメリットです。
失敗してもいい、評価されなくてもいい
――最後に、これから起業を考えている会社員の方にメッセージをいただけますか?
新井:はい。失敗しても大丈夫。評価されなくてもいい。それでも一歩出す人だけが、次の景色を見ることができます。それが、起業です。
諦めるとは、夢を捨てることではなく、幻想を捨てること。開き直るとは、無責任ではなく、覚悟を決めること。この2つを理解して、まずは小さく始めてみてください。会社員のままでも、起業家マインドは育てられますから。
――今日は貴重なお話をありがとうございました。
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア25年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。現在、会社員を中心に、主婦、フリーランス、経営者など、独立起業・新規事業開発・マーケティング・海外進出を必要とするビジネスパーソンに向けてのセミナーや、自身が運営する起業準備サロン(起業18フォーラム)の受講者は年間のべ1000人を超える。
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