シニア起業の最適タイミングとは? 60~70代135人の起業実態調査から見えた「定年前vs定年後」の真実
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
「完璧主義」が起業を遠ざける
――新井さん、今日は会社員のまま起業準備をする方法について、詳しくお話を伺いたいと思います。起業支援を25年間続けてこられて、多くの会社員の方と接してこられたと思うのですが、みなさんどんなところでつまずいているのでしょうか?
新井:講演会で何百人もの会社員と話すたびに思うんですよ。「あー、またこのパターンか」って。会社員のまま起業したいと思っている人は多いんです。でも実際に動き出せる人は、たったの1%なんですよね。
――1%ですか! それは厳しい数字ですね。
新井:残りの99%は同じところで止まってるんです。何から始めたらいいか分からない。情報がありすぎて、マインドセットがどうとか、コンセプトがどうとか、資金調達がどうとか……人によって言うこと違うし。で、結局モヤモヤしたまま時間だけが過ぎていく。
――確かに、情報が多すぎて逆に動けなくなってしまう感じ、ありますよね。
新井:会社員が起業を目指す時、必ずぶつかる3つの壁があるんです。お金の不安、アイデアがない、相談できる人がいない。この3つが行動を止める最大の原因なんですよね。
起業と会社員、どっちを選ぶかじゃない
――よく「起業するなら会社を辞めないと」という話を聞きますが、新井さんのお考えは違うんですよね?
新井:全然違います。よく「起業と会社員、どっちがいいですか?」って質問されるんですけど、どっちかを選ぶ必要なんてないんです。会社員をしながら起業準備する。これが1番リスクが低くて、確実な方法です。
――なるほど。実際にサポートされてきた方々も、そういうスタイルなんですか?
新井:そうです。僕がサポートしてきた60000人以上のビジネスパーソンも、ほとんどが会社員のままスタートしてます。会社員という安定した収入源を持ちながら、小さく始めて大きく育てる。これが正解なんですよ。
「もっと準備してから」という罠
――動けない99%の方には、何か共通する思考パターンがあるんでしょうか?
新井:ありますね。完璧主義の罠です。「もっと勉強してから」「もっと準備してから」「もっとスキルを身につけてから」……こうやって永遠に準備だけしてる人、いるんですよ。僕らが「起業難民」って呼んでる人たちです。
――起業難民……
新井:公的な無料セミナー受けまくって、受け放題だから色々受けて……でさらに分かんなくなるっていう悪循環。それじゃどうにもならないです。
――では、成功する1%の方は何が違うんでしょうか?
新井:とにかく準備しちゃうんですよ。20%ぐらいまでできたらもう検証に入る。売れたら慌てて80%作る。当然まずは売れないはずなんで、なんで売れないのかを考えて、色々試す。売れたら作る。これでいいんじゃないかと思うんですよね。
――20%の完成度で動き出すんですね。
新井:そう。人生最大の損失って、何もしない時間なんです。情報収集ばっかりしてても、何も変わらない。行動しなければモヤモヤしたまま。行動すれば何か見えてきますよ。
「やりたいこと」を探すのは間違い?
――起業というと「自分のやりたいことを仕事にする」というイメージがありますが……
新井:ここ、めちゃくちゃ大事なポイントです。会社員の人で「やりたいこと」を探してしまう人、自分の好きなことや得意なことに固執しちゃう人。ビジネスってやりたいことをする場じゃないんですよ。
――え、そうなんですか?
新井:やりたいことする場は「趣味」って言います。じゃあ成功してる起業家は何してるのか? 世の中が求めてることをやるんです。困ってる人を助けるっていう視点で動いてる。
――なるほど……確かに言われてみれば。
新井:この前ね、ある場所で講演して何百人って会社員を相手に話したんですけど、ほとんどの人が「あ、そうだったんですね」みたいな反応で。いやいや、そうでしょって。みんな勘違いしてるんですよ。起業は自己実現だと思ってる。
恋愛に例えると分かりやすい
新井:恋愛に例えると分かりやすいんです。好きな女性ができたとして(僕男なんで)、その人に対して「俺はこうしたいんだ、こういう旦那になりたいんだ、子供はこうしたいんだ! 結婚してください!」って言います?
――言わないですね(笑)
新井:言わないよね。まずは相手の要望を聞くでしょ。どんな人が好きで、どんな結婚生活をしたいと思っていて……価値観を確認して、歩み寄って、合意を見つけていく。ビジネスも全く同じです。やりたいことと相手が求めてることが合致するところ。そこでビジネスをするんです。
全部自分でやろうとしない
――会社員として働きながら起業準備をする場合、時間の制約もありますよね。
新井:そうなんです。会社員として働きながら起業準備する時、「全部自分でやらなきゃ」って思ってる人、多いんですよ。でも、無理なんです、それ。
――無理……ですか?
新井:セミナー受けまくって全知全能の神になろうとしてる人とかいるんだけど。できないことは外注します。システムの力を借りて仕組み化します。自分ができること以外を全部外注するようなつもりで設計していくのが起業。会社員の限られた時間でやるなら、なおさらです。
――具体的には、どんなことを外注したり仕組み化したりするんですか?
新井:苦手なこととか時間かかることは積極的に組む、買う、頼む。例えば、有料AIフル活用、経理はクラウドツール、集客はSNS。これだけでだいぶ違いますよ。
会社にバレずに起業準備する方法
――会社員の方が1番気にされるのが「会社にバレたらどうしよう」という不安だと思うのですが。
新井:そうですね。これ、会社員が起業を目指す時の1番の不安ですよね。結論から言うと、ちゃんとやれば基本的にバレません。
――本当ですか?
新井:実際、僕がサポートしてきた会社員でバレた人は、25年で4人。自分でしゃべっちゃった人だけです。
――4人だけ! それは安心ですね。具体的にはどんなことに気をつければいいんでしょうか?
新井:まず住民税を自分で納付すること。確定申告の際に「普通徴収」を選択して、会社の給与天引きにしない。それから、最初はSNSで顔出ししない。匿名やペンネームで始めて、ある程度軌道に乗ってから本名公開すればいいんです。
――なるほど。他には?
新井:当たり前ですけど、会社のリソースを使わない。会社のメールアドレス、パソコン、時間は一切使わない。あとは就業規則を必ず確認すること。社会保険は会社のまま継続して、法人化する時期は慎重に。税金対策より本業への影響を優先してください。
今日からできる最初の1歩
――では、これから起業準備を始めたい会社員の方は、具体的に何から始めればいいでしょうか?
新井:壮大で曖昧な目標立ててませんか? 「将来は起業して社長になりたい」みたいな。じゃあ明日何するんですか? って話。簡単にできることで、お客様に価値提供する。これに焦点を当てて考えていく。
ステップ1:困ってる人を見つける
新井:1番最初にやって欲しいこと、これです。困ってる人、世の中の人は何を自分に求めるか考えて欲しい。会社はあなたという労働力を求めてる。週に5日来てくださいって。じゃあ自分は個人として世の中のために、人のためにできることはないか?
――「自分には特別なスキルがない」と思ってしまう人も多いと思うんですが。
新井:そういう人、多いですね。でもね、世の中って毎日毎日進化してるじゃないですか。それは誰かがその困り事に気づいて改善したり新しいもの生み出したりしてるから。だからみんなだってその気になって見ていけば必ず見つかる。
――例えば、どんな困り事がありますか?
新井:会社で上司との関係に悩んでる人、40代で子供が生まれて将来が不安な人、転職したいけど踏み出せない人……分かんなかったらAIに聞けばいい。ChatGPTでSNSを解析していけば困り事なんて山ほどあるんで。
ステップ2:AからBの変化を言語化する
――困ってる人が見つかったら、次は何をすればいいんでしょうか?
新井:困ってる状態Aが困ってない状態Bに。ビフォーアフター。これを明確に言葉にして「こんな人がこうなります。この変化を起こす。これが私の商品です」。極めて簡単でしょ。
――具体例を教えていただけますか?
新井:例えば「会社で上司と仲良くなくて悩んでる人が、上司と良好な関係を築けるようになります」「副業したいけど何から始めていいか分からない人が、3ヶ月後に月5万円稼げるようになります」「転職すべきか悩んでる30代会社員が、自分のキャリアの方向性を明確にできます」。これがあなたの商品です。
ステップ3:30分後に行動する
新井:僕らって期限のないことってできないんですよ、実際。だからまずは期限を決めてしまう。この記事読んだあと30分でできることから始める。
――30分でできること、ですか?
新井:そう。例えば、明日から「困り人を見つける」っていうフィルターを脳にかける。そのための質問を紙に書いておく。SNSで困ってる人の投稿を5つ見つける。こんなの30分でできるじゃないですか。
――確かに、それならできそうです。
新井:2週間この困り人探しを習慣化すると、そういう目で世の中見るようになるんで、どんどん需要が分かるようになってきます。
会社員のまま起業するメリット
――改めて、会社員のまま起業準備することのメリットを教えていただけますか?
新井:まずリスクが圧倒的に低い。給与という安定収入があるから、失敗しても生活に困らない。家族を不安にさせない。
――それは大きいですね。
新井:それから、社会保険・融資で有利。会社の社会保険を継続できるし、住宅ローンや事業融資が通りやすい。社会的信用を維持できるんです。
――他には?
新井:税金対策ができる。経費を計上できるから、節税しながら事業を育てられる。法人化のタイミングも自分で選べます。あとは、本業のスキルを活かせる。会社で培った経験が武器になるし、人脈をビジネスに活用できる。業界知識がアドバンテージになるんです。
動く1%になるために
――最後に、これから起業準備を始めようとしている会社員の方に、メッセージをお願いします。
新井:実行すれば現実になる。モヤモヤしてれば、ずっとモヤモヤしてる。それだけなんで。
――シンプルですけど、本質ですね。
新井:会社員のまま起業準備する3つのステップは、AからBの言語化(具体的に何ができるようになるのか)、30分後に行動(次の一歩を決める)、正しい情報を得る(会社員向けの起業準備法を学ぶ)。これだけです。
――会社員が起業するのは、難しくないんですね。
新井:そう。完璧を目指さない。20%できたら動く。やりたいことじゃなく、求められてることをやる。全部自分でやろうとせず、仕組み化する。もう起業ってシンプルで、やるかやらないかだけです。動く1%にぜひなってください。これでだいぶ楽になりますよ。
――新井さん、今日は貴重なお話をありがとうございました。
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア25年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。現在、会社員を中心に、主婦、フリーランス、経営者など、独立起業・新規事業開発・マーケティング・海外進出を必要とするビジネスパーソンに向けてのセミナーや、自身が運営する起業準備サロン(起業18フォーラム)の受講者は年間のべ1000人を超える。
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