起業したいけどアイデアがない。それでも実現可能な準備と心構え
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
――新井さん、最近YouTubeなどで「情熱さえあれば起業できる」という発信をよく見かけますが、これについてどう思われますか?
新井:それ、一番危険なやつです! 起業で失敗する人を量産する最悪の助言だと思っています。確かに情熱は大切ですが、それだけで成功できるほどビジネスは甘くありません。
――具体的には、どういった点が問題なのでしょうか?
新井:よく言われるのが「自分で実践してうまくいったことを教えるだけでいい」「完璧な専門家じゃなくていい」「お客様の悩みを解決できればいい」といった話です。一見正しそうに聞こえますよね。
――確かに、そう言われると納得してしまいそうです。
新井:でも、これは趣味の話じゃないんです。ビジネスとして成立させるには、もっと考えなければいけないことがたくさんあります。お客様の悩みを解決するのは大前提ですが、それだけでは不十分なんです。
「自分の経験」と「お客様が求めているもの」のギャップ
情熱だけではお客様は来ない
――「自分の経験を伝える」という考え方の、どこに問題があるのでしょうか?
新井:「自分の経験」と「お客様が求めているもの」には、とんでもないギャップがあるということを、多くの人が理解していないんです。情熱だけじゃ、お客さんは来ません。そして「解決できるかどうか」は、お客様が来た後の話ですから、サービスを受ける前の人々には分からないんですよ。
――なるほど。自分の経験を伝えたい気持ちがあっても、それがビジネスになるかどうかは別問題なんですね。
新井:その通りです。自分の経験を伝えたい気持ちだけでは、ビジネスにならない。ここを理解しないまま起業してしまうと、後で苦労することになります。
「進めない理由を探すな」という助言の危険性
進めない理由の中にビジネスの本質が隠れている
――「進めない理由を探すより、なぜやりたいかを思い出せ」というアドバイスもよく聞きますが、これについてはいかがですか?
新井:これも大間違いだと思っています。What、Howより、Whyが大事だという話もよく聞きますが、私が思うには、進めない理由は探すべきなんです。その進めない理由の中に、ビジネスの本質的な課題が隠れているからです。
――具体的には、どんな課題があるのでしょうか?
新井:例えば、こういったことです。
- 本当にお客さんはいるのか?
- その悩み、お金を払ってでも解決したいレベルなのか?
- 競合と比べて、あなたを選ぶ理由はあるのか?
- 継続的に売上を立てる仕組みはあるのか?
――これらは全て「進めない理由」として表れてくるものですね。
新井:そうなんです。それを「考えるな、やりたい気持ちを思い出せ」って言われたら... 思考停止させてどうするんだと思いますよ。
起業に本当に必要な5つの要素
情熱は「最低条件」であって「十分条件」ではない
――では、起業に本当に必要なものは何でしょうか?
新井:情熱やWhyは、もちろん大事です。でも、それは「最低条件」であって「十分条件」じゃないんです。起業に本当に必要なのは、次の5つです。
- 市場調査:あなたの商品を求めている人は本当にいるのか、どれくらいいるのか
- ビジネスモデル:どうやって継続的に収益を上げるのか
- マーケティング戦略:どうやってお客様に見つけてもらうのか
- セールススキル:どうやって商品価値を伝えて、買ってもらうのか
- 数字の管理:売上、経費、利益の把握
――「情熱さえあれば大丈夫」のひと言で片付けられる問題ではないんですね。
新井:全くその通りです。これらの要素をきちんと押さえないと、どんなに情熱があっても失敗してしまいます。
「準備しすぎ」も「準備不足」も両方危険
必要なのは「適切な準備」
――起業準備という点では、どのようなバランスが大切なのでしょうか?
新井:起業しようとする人には、大きく2つのタイプがいます。「準備しすぎて動けない人」と「準備不足で突っ走る人」。実は、両方とも失敗するんです。
――どちらも危険なんですね。
新井:前者は機会損失を起こします。後者は即死です。必要なのは「適切な準備」なんです。
――「適切な準備」とは、具体的にはどういったものでしょうか?
新井:感情論ではなく、戦略的に考えること。情熱じゃなくて、データとロジックで判断すること。気持ちじゃなくて、仕組みで動かすこと。これが、私がいつもお伝えしている現実的な方法です。
情熱はエネルギー、でもエンジンがなければ動かない
正しいことをきちんと伝える人が少ない
――最後に、これから起業を考えている会社員の方々にメッセージをお願いします。
新井:情熱は、起業家やビジネスを動かすエネルギーです。でも、ガソリンだけあっても、エンジンがなきゃ車は動きません。ハンドル(戦略)も、ブレーキ(リスク管理)も、メンテナンス(資金計画)も必要なんです。
――どれか1つでも欠けていたら、うまくいかないということですね。
新井:どれか1つでもゼロなら、結果はゼロです。厳しい言い方かもしれませんが、これが現実です。正直、正しいことをきちんと伝える人は、本当に少ないんですよ。ポジショントークから情報商材につなげるような人も多いですから、きちんと見極めてほしいですね。
――今日は貴重なお話をありがとうございました。
新井:こちらこそ、ありがとうございました。会社員のまま起業準備をしたい方は、ぜひ私たちのセミナーにも足を運んでいただければと思います。
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア25年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。現在、会社員を中心に、主婦、フリーランス、経営者など、独立起業・新規事業開発・マーケティング・海外進出を必要とするビジネスパーソンに向けてのセミナーや、自身が運営する起業準備サロン(起業18フォーラム)の受講者は年間のべ1000人を超える。
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