起業したいけどアイデアがない。それでも実現可能な準備と心構え
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
「業績好調なのにリストラ」という新常識
三菱ケミカル・純利益1450億円でも4,600人が対象に
――新井さん、2025年9月29日に三菱ケミカルが発表した希望退職募集のニュースには本当に驚きました。純利益1450億円の黒字企業なのに、約4,600人もの社員が対象になるなんて…。
新井:そうなんです。私も発表を見て、正直震撼しました。でもね、伊藤さん。実はこれ、もう「例外」じゃないんですよ。2024年に早期退職を実施した上場企業57社のうち、約60%が黒字企業だったというデータがあります。募集人数ベースで見ると、なんと約81%が黒字企業からの募集なのです。
――黒字なのにリストラって、一般的な感覚では理解しにくいですよね?
新井:ええ、多くの方がそう感じるでしょうね。でも企業側の論理は明確なのです。「危機になってから対応するのでは遅い。余裕があるうちに、次の時代に向けて組織を作り直す」。これが今の経営者の責任だと考えられているわけです。
「ネクストステージ支援プログラム」という名の退職勧奨
――三菱ケミカルの「ネクストステージ支援プログラム」という名称も、なんだか複雑な気持ちになります。
新井:そうですね。対象は満50歳以上で勤続3年以上の社員。管理職も一般社員も含まれます。ただし工場の製造現場は除く。全従業員約17,000人のうち、約4,600人が対象ということは、27%もの社員が対象になるということです。
――募集人数に上限がないというのも驚きです。
新井:そうなんです。つまり、何人応募しても全員受け入れる。退職金に加えて特別加算金を支払い、希望者には再就職支援もするということですが、裏を返せば「どうしても、どうしても、何が何でも辞めて欲しい」というメッセージです。一見手厚いサポートに見えますが、企業の本音が透けて見えますよね。
なぜ黒字企業がリストラするのか
年功序列制度の限界と人件費の重圧
――でも新井さん、なぜ業績が良いのに人を減らす必要があるのでしょうか?
新井:いくつか理由があります。まず、日本の年功序列制度では、50代社員の人件費が最も高くなります。しかも人数も多い。企業としては、この層を削減したいという思いがあるわけです。
――つまり、コスト削減が最大の目的なのですね。
新井:そうです。しかも定年が延長されて、70歳まで雇用するとなると、とんでもない人件費が掛かり続ける。だから「今のうちに辞めてくれ」ということなのです。株主から見ても、高い固定費を抱える企業は「非効率」と映りますからね。
求められるスキルの変化とデジタルシフト
――人件費だけが理由ではないですよね?
新井:おっしゃる通りです。企業が求める人材像が大きく変わっているのです。「社内調整が上手い」なんてことより、「データ分析ができる」「デジタルツールを使いこなせる」人材が必要になっています。
――具体的な企業の例を教えていただけますか?
新井:2024年の主な黒字リストラの事例を見てみましょう。
- 三菱電機:53歳以上が対象(過去最高益を更新中)
- 第一生命:1,000人募集(初の早期退職実施)
- 富士通:200億円の費用を計上して構造改革
- オムロン:約2,000人削減(グローバル再編)
- 資生堂:1,500人を対象に募集
- リコー:約2,000人削減してデジタル分野へシフト
- パナソニックホールディングス:グローバルで10,000人規模の削減(営業利益4,265億円の黒字)
――本当に大手企業ばかりですね…。
新井:「業績が悪いから仕方なく」ではなく、「業績が良いうちに、戦略的に」人を減らしている。これが今の現実なのです。
40代も安全ではない理由
対象年齢が下がる傾向に
――50代が標的というお話でしたが、40代はまだ大丈夫なのでしょうか?
新井:残念ながら、答えは「NO」です。資生堂は45歳以上、オムロンは40歳以上を対象にしました。つまり、40代も安全ではないということです。
――それは衝撃的ですね…。
新井:AIやDXの進展で、昨日まで価値があったスキルが今日には役に立たなくなる。変化のスピードが速すぎて、従来の「社内教育で育てる」システムが追いつかないのです。しかも年功序列では、優秀な30代エンジニアに50代管理職並みの給与を払えない。こういった構造的な問題があるわけです。
会社員が今すぐ始めるべき3つのこと
①自分の市場価値を知る
――では、会社員は何から始めればいいのでしょうか?
新井:まず、こう自問してみてください。「もし今、会社を辞めたら、他の会社が同じ給与で雇ってくれるだろうか?」と。
――即答できない人も多そうですね。
新井:即答できないなら、危険信号です。あなたのスキルが「その会社でしか通用しない」ものになっている可能性があります。社内の根回し、社内用語の理解、そんなものは外では1円の価値もありません。
――具体的にはどうすればいいでしょうか?
新井:今すぐ転職サイトに登録して、自分の経歴でどんな求人があるか見てみることです。市場で求められているスキルを知る。これが第一歩です。
②会社以外の収入源を持つ
――2つ目は何でしょうか?
新井:会社員の収入だけに依存しない仕組みを持つことです。月に5万円、10万円でも収入があれば、心の余裕が全く違います。
――具体的にはどんな方法がありますか?
新井:自分で商品やサービスを作る。お客さんを見つける。お金をもらう。この経験は、会社員として働いているだけでは絶対に得られません。SNS運用代行、コンサルティング、ハンドメイド作品の販売、便利屋サービス、AI関連の教育など、初期費用ゼロで始められる副業はたくさんあります。
――失敗が怖いという人も多いと思いますが…。
新井:失敗を恐れる必要はありません。小さく始めて、自分に合う方法を見つけることが大切です。起業18フォーラムでは、この「小さく始める」ことを大切にしています。
③学び続ける姿勢を持つ
――3つ目について教えてください。
新井:リストラの標的になるのは、「新しいスキルを身につけられない人」です。だからこそ、学び続ける人は、どこでも必要とされます。
――具体的には、どんなスキルを学ぶべきでしょうか?
新井:デジタルツール、データ分析、AI活用、マーケティング、セールスなど、今の時代に求められるスキルはたくさんあります。まず始めて、やりながら学ぶ。これが基本姿勢です。
「選択を迫られる前に、自分から選択する」
定期的な自己点検の重要性
――新井さん、最後に読者の方へメッセージをお願いします。
新井:「会社の業績が良いか」「真面目に働いているかどうか」、そんなことは、もはや関係ありません。企業は、生き残るために最適化を続けます。その中で、あなたができることは何でしょうか?
――定期的に自分に問いかける必要がありますね。
新井:そうです。こういう質問を、定期的に自分に投げかけてほしいのです。
- 今の自分のスキルの市場価値はいくらか?
- どうすれば価値を上げられるか?
- 収入源を複数持っているか?
- 会社がなくなっても生きていけるか?
今こそ動き出すとき
――三菱ケミカルの事例から、私たちは何を学ぶべきでしょうか?
新井:三菱ケミカルの4,600人は、ある日突然、選択を迫られました。でも、選択を迫られる前に、自分から選択することが大切です。
――「会社員の賞味期限」という言葉が現実味を帯びてきましたね。
新井:絶望する必要はありません。「会社に依存しない生き方」を、今から少しずつ作る。これしかないのです。今こそ動き出すときです。
――今日は貴重なお話をありがとうございました!
新井:こちらこそ、ありがとうございました。1人でも多くの会社員の方が、自分の人生を自分でコントロールできる力を手に入れることを願っています。
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア25年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。現在、会社員を中心に、主婦、フリーランス、経営者など、独立起業・新規事業開発・マーケティング・海外進出を必要とするビジネスパーソンに向けてのセミナーや、自身が運営する起業準備サロン(起業18フォーラム)の受講者は年間のべ1000人を超える。
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