起業したいけどアイデアがない。それでも実現可能な準備と心構え
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
業績好調でもリストラ? 変わりゆく企業の雇用戦略
――新井さん、先日三菱電機が53歳以上を対象とした希望退職の募集を発表しましたね。2026年3月期に最高益を予想する中での決断ということで、世間では「黒字リストラ」と呼ばれています。この動きをどうご覧になりますか?
新井:これはもう、時代の流れですね。実は上場企業の希望退職募集の6割が黒字企業なのです。2024年に早期・希望退職を募集した上場企業は57社に上り、そのうち実に6割が直近で黒字決算の企業であったというデータもあります。会社が元気なうちに、将来への布石として人員構成を見直しているのです。
――それにしても、なぜ53歳という年齢が狙い撃ちされるのでしょうか?
新井:これが絶妙すぎるのです。53歳以上の正社員や定年退職したあとの再雇用者を対象に希望退職を募集とありますが、53歳といえば団塊ジュニア世代。人数が多い世代で、国は70歳まで働かせろと言っている。企業からしたら、この先17年分の人件費は正直きついわけです。
AIが変える仕事の価値と会社員のリアル
――確かに、53歳というと働き盛りですが、子どもの教育費や住宅ローンなど、まだまだお金が必要な世代ですよね。
新井:そうです。まさに板挟み状態。でも企業側の論理も理解できる。AIが台頭してくる中で、「今の仕事、本当に人間がやる必要ある?」って経営陣が冷静に計算している。次の成長分野に人材を移すにしても、今いる全員は必要ない。だったら体力があるうちに…という判断なのです。
――三菱電機以外にも、こうした動きは広がっているのでしょうか?
新井:ええ。パナソニック、オムロン、資生堂、コニカミノルタ、ジャパンディスプレイ、日産…日本を代表する企業ばかりです。もはや「会社が守ってくれる」前提で生きるのは危険すぎます。
53歳の壁を乗り越える3つの準備
自分の市場価値を冷静に把握せよ
――では、会社員はどのような準備をしておけばよいのでしょうか?
新井:まず大切なのは、自分の市場価値を把握すること。会社の看板を外したとき、何が残るのか? 私がサポートしてきた起業家の中にも、大企業を早期退職して成功した人たちがたくさんいます。彼らが口を揃えて言うのは「会社にいたら気づかなかった自分の価値に気づけた」ということです。
――具体的にはどのように市場価値を測ればよいのでしょうか?
新井:まずは人脈を会社外に広げることから始めてください。社内の人脈だけではダメ。外の世界で自分がどう評価されるか、実際に感じてみることが重要です。そして副業や小さなプロジェクトを通じて、会社以外での収入源を作っておく。これが心の支えになります。
心とお金の両面で準備を
――経済的な準備も必要ですよね?
新井:もちろんです。心もお金も準備しておくことが大切。いきなり無職は厳しい、特に精神的に。でも慌てる必要はありません。準備すればよいのです。退職金の割増もそれなりの金額になるはず。そして、まだ50代前半。第2の人生のスタートラインに立てる年齢です。
――新井さんご自身も、会社員時代から起業の準備をされていたのですか?
新井:はい。「会社員のまま6ヵ月で起業する」という方法を提唱しているのも、そうした経験があるからです。いきなり会社を辞めるのではなく、在職中に小さく始めて、軌道に乗ったら独立する。これが最もリスクの少ない方法だと思います。
恐れるな、しがみつくな ~ 新しいスタートのチャンス~
――黒字リストラという現象をネガティブに捉えがちですが、見方を変えるとチャンスでもあるということでしょうか?
新井:まさにそうです。黒字リストラ。ゾンビ企業を必死で支えてきた政府も、黒字なら何もしてくれない。でも、それはある意味チャンス。会社に依存しない生き方を本気で考える絶好の機会です。
――53歳で新しいスタートというと、不安に感じる方も多いのではないでしょうか?
新井:53歳で新しいスタート。まだ17年も働けるじゃないですか! しかも今度は自分の意思で、自分の価値で勝負できる。団塊ジュニア世代。私もそうです。ずっと報われなかったけれど、もう腹を括りましょう。誰のせいにもできないのです。
――最後に、53歳の壁に直面する可能性のある会社員の方々へメッセージをお願いします。
新井:恐れるな、しがみつくな。これが私の結論です。変化を恐れていては何も始まりません。むしろ、この状況を自分らしい働き方を見つける機会として捉えてほしい。準備さえしていれば、53歳からでも新しい人生は十分に築けます。重要なのは、今日から行動を始めることです。
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア25年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。現在、会社員を中心に、主婦、フリーランス、経営者など、独立起業・新規事業開発・マーケティング・海外進出を必要とするビジネスパーソンに向けてのセミナーや、自身が運営する起業準備サロン(起業18フォーラム)の受講者は年間のべ1000人を超える。
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