【MPS consulting】"向いている仕事"の正体とは何か ─ 他人の期待と自分の心の声
起業家インタビュー(聞き手:新井一@起業18フォーラム)
今回、アサーティブ21代表のTom RXさんにお話を伺う機会をいただきました。Tom RXさんは、航空業界のライン整備という部門で、人命に関わる業務のご経験をもとに、アサーティブコミュニケーションの指導をされています。コミュニケーションエラーが重大な事故につながる業界において、「言いたいことが言える」「不安を口にだせる」「ちょっとしたことが聞ける」スキルや企業文化がいかに重要か、じっくりとお聞きしました。
現場で培った「伝える技術」が生む安全文化
新井:Tom RXさん、本日はお忙しい中ありがとうございます。まず、アサーティブコミュニケーションに取り組まれるようになったきっかけを教えていただけますか?
Tom RX:こちらこそ、ありがとうございます。私が特にアサーティブコミュニケーションの重要性を痛感したのは、航空機整備の現場経験からでした。これらの分野では、コミュニケーションの少しのミスが大きな事故をもたらす可能性があるんです。実際、航空機事故の約7割がコミュニケーションエラー等のヒューマンエラーに起因するとされています。私自身、人に分からないことを聞くのが苦手だったことを、アサーティブコミュニケーションで克服しました。
新井:それは深刻ですね。具体的にはどのような問題が起きているのでしょうか?
Tom RX:例えば、メディアに取り上げられるほどの大きな事故では、2024年の羽田空港での衝突事故が記憶に新しいです。原因は単純な聞き間違いではなく、「相手が言ったこと」と「言われた人が理解したこと」との間に違いが生じていることです。聞き返せばいいのでは?と思いますが、現場はそんなに簡単なものではありません。
「権威勾配」という見えない壁
新井:なるほど。そういった現場の裏には、どのようなコミュニケーションの課題があるのでしょうか?
Tom RX:大きな課題の1つが「権威勾配」と呼ばれる問題です。上司と部下の関係では、部下が思ったことを言いにくいということです。
新井:階級や立場が上の人に対して、意見を言いにくいということですね。
Tom RX:そうです。でも、「わかりません」や「Noが言える」ということは、単に拒否することではありません。自分の限界や意見を明確に伝え、不確実な状況や誤った指示に対しての違和感を伝える能力なんです。これが、事故防止に直結する極めて重要なスキルになります。また優秀な技術者が備えるべき力です。
心理的安全性との相乗効果
新井:アサーティブコミュニケーションを導入する際、組織側ではどのような環境づくりが必要でしょうか?
Tom RX:心理的安全性の確保が絶対に必要ですね。つまり、現場を取り仕切る管理職やリーダーが自ら「Noを言うこと」「分からない」と言ったうえで、アクションを取ることです。その姿が職場全体の心理的安全性の空気を作ります。Googleの研究でも、チームの効果性に最も影響を与える要素が「心理的安全性」であることが示されています。間違いや失敗を許容するリーダーの姿勢がなければ、社員は無能だと思われることを恐れてミスを隠蔽し、より大きなトラブルにつながる可能性があります。実際に、社員がミスを隠すこともありました。
新井:心理的安全性とアサーティブコミュニケーションは、どのような関係にあるのですか?
Tom RX:「心理的安全性」を他の言葉で言い換えると、「自由に権利を行使できる環境」と考えています。アサーティブコミュニケーションは、基本的人権の考え方を土台としています。ここでいう基本的人権とは、人は個人として尊重されるという憲法の考えのもと、その発言も尊重されるという考え方です。つまり、アサーティブコミュニケーションは心理的安全性を生み出す具体的方法です。今、多くの企業が多様性を尊重しながら心理的安全性をつくりだすことに難しさを感じています。多民族国家アメリカで作り出されたアサーティブコミュニケーションでそれらの課題を解決することが私の使命だと感じています。
実践的アプローチの核心
90日で変わる「あるシステム」
新井:アサーティブ21では、どのようなアプローチで指導されているのですか?
Tom RX:一言でいうと、「実践」です。私の講座では、難しい心理学の理論や方法を教えて、はい終わり!ではありません。簡単な日常生活のシチュエーションから上司と部下の言いづらいシチュエーションまで、21個の葛藤のシチュエーションでトレーニングをしていただきます。この21シチュエーションが、社名の21の意味です。これらの21シチュエーションにおいて、アサーティブコミュニケーションを実践できると、実社会でも力を発揮できるようになります。
アサーティブ21では、この21シチュエーションを乗り越える力を90日で体得することを目指しています。一つのミスも許されない現場で働くプロフェッショナルは、時間的制約があり、即効性を求められています。学習サイクルは「実践→学び→再実践→成長実感→実生活での変化」を重視しており、座学だけでなく、実際のコミュニケーション場面での適用と個人の癖を修正するフィードバックを大切にしています。
新井:「実践」スタートすることに不安を感じるのですが、大丈夫でしょうか?
Tom RX:これまで他の講座で変われなかった人は、講座で学んだ気持ちになり、「実生活で実践してみようとするとハードルが高くできなかった」と感じています。私の講座の中で、葛藤を感じる実践からスタートすることで必ず言いたいことが言えるようになります。それは、個々の受講者の具体的な課題や性格、職務内容に合わせて、講師の私がフィードバックできるからです。
新井:個別最適化ということですね。
Tom RX:はい。企業役員の方、医師や看護師、教育関係者の方々がいらっしゃいます。それぞれの「個人の可能性をひきだす」ために、受講生の実生活に応じたプログラムを作成し、真剣にトレーニングに取り組むことを大切にしています。
不可欠な「アサーティブマインドセット」
新井:具体的な手法についても教えていただけますか?
Tom RX:人に嫌な思いをさせない会話の型を徹底的に学んでいただきます。会話の内容については「DESC法、PREP法」などの、ビジネスマンなら一度は目にしたことがある手法で整理をすることができます。しかし、多くの人が悩んでいるのは、整理した内容を「緊張する場面で、正確にいつもどおり言うことができない」ということです。
この悩みを解決するために、21シチュエーションごとに準備した「アサーティブマインドセット」をお伝えします。会話に入る前、会話の途中、会話の終わりに、学んだアサーティブ(心の保ち方)を実践すると、いつも通りに話せるようになります。そしてこのアサーティブマインドは、多くの人から、「今日帰ってみて、夫に試したら効果があった」「いつもよりも軽い気持ちで言いたいことが言えた」「緊張をしなくなった」などのうれしい声を頂いています。
新井:なるほど、会話に対する自分の思い込みを変えていくということですね。
Tom RX:そうです。多くの人は人生経験から今の自分のコミュニケーションスタイルを構築しています。それは悪いことではありませんが、他の選択肢(アサーティブコミュニケーション)もあるということを知ることが大事だと思います。いつも、アサーティブコミュニケーションを実践するというよりかは、場面に合わせて選択できる余裕を持つことが人生の豊かさにつながると思います。そしてその余裕が、現場のミスを減らすことにつながります。
非言語コミュニケーションの重要性
新井:言葉以外の部分も重要でしょうか?
Tom RX:ことば以上に重要です。表情、声のトーン、ジェスチャーといった非言語コミュニケーションも大きく影響します。アサーティブ21では、声のトーンから指導し、その後目線の方向についてお伝えします。最終的には、自分で自分の非言語部分に気付く力が付き、自己修正する力が身につくプログラムとなっています。
新井:文化的な配慮も必要でしょうか?
Tom RX:はい。日本のような「調和」を重視する文化圏では、率直な意見表明が避けられることもあります。相手の文化や価値観を尊重しながら適切な表現を選ぶ必要がありますが、自分の価値観を相手に伝えるときのアサーティブマインドセットが重要です。但し、例外もあります。緊急時や相手が極端に感情的になっている場合などは、状況に応じた対応が必要です。そのようなシチュエーションも21個の中に組み込んでいます。
組織変革への道筋
リーダーシップの役割
新井:組織全体にアサーティブコミュニケーションを浸透させるには、どのような取り組みが必要でしょうか?
Tom RX:単発の研修でも十分に効果がありますが、職場のリーダーが継続し、習慣にすることが大事です。具体的には、「相手を尊重している」という短いメッセージを、あいさつ、メール、電話、会議、1on1ミーティングで少しずつ表現していくということです。継続的に伝えていると、自然と「アサーティブ」な職場(心理的に安全な職場)ができあがります。
新井:リーダーの役割は大きそうですね。
Tom RX:はい、極めて重要で、リーダーで決まります。リーダー自身が率先して行動で示し、仲間がリーダーの行動に反応することで、職場の人たちは自然とアサーティブを身につけることになります。アサーティブが組織全体の「当たり前」の行動様式となります。
継続的な成長と「人の能力の無限さ」
新井:最後に、アサーティブコミュニケーションの将来性について、どのようにお考えですか?
Tom RX:AIが発展しても、人間の根源的な欲求の部分である「承認欲求」は変わらないと思います。人はだれしも、家族や友人、仲間に愛されたい、認められたいと感じています。アサーティブコミュニケーションは目の前の人に、尊重を言葉で示し、そのうえで、事実や意見を伝えます。繰り返しにはなりますが、会話の内容ではなく、その前後をとても大切にしています。人が人と交流を続ける限り、アサーティブコミュニケーションがより必要になってきます。継続的な実践で必ず自然にできるようになります。私は受講生の日々の変化から、「人の能力の無限さ」を実感しています。
まとめ:コミュニケーションが未来を変える
新井:Tom RXさん、貴重なお話をありがとうございました。最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。
Tom RX:アサーティブコミュニケーションは[太字]「自分と相手を同時に大切にする」ことが一番の価値です。しかし私は、まず自分を大切にするコミュニケーションの考え方をお伝えします。自分を大切にできない人は、相手を大切にすることはできないと思うからです。この考え方をもとにアサーティブコミュニケーションが実践できれば、[太字]個人の成長と組織の発展が可能になります。そして何よりも尊い人命を守ることにつながります。その人命には社員とお客様の両方が含まれます。社員の孤立や業務のミスマッチ、些細なミスによる事故を防ぐことに、アサーティブコミュニケーションは絶大な力を発揮します。
私は、人の可能性を信じています。真剣に取り組む方には、愛情と熱意をもって指導させていただきます。お客様扱いを求める方には向きませんが(笑)、本当にコミュニケーションを変えて、対人関係を変えて、人生を豊かに、優しくて強くなりたい方には、必ず変化をお約束します。
新井:素晴らしいメッセージですね。私自身も、コミュニケーションの力で多くの方の人生が変わる可能性を感じました。今日は本当にありがとうございました。
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