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男性不妊の原因に向き合い、ミクロの技術で新たな可能性を開く

ミクロの技術で男性不妊治療の可能性を広げる医師

永尾光一

永尾光一 ながおこういち
永尾光一 ながおこういち

#chapter1

男性不妊の原因の一つ「精索静脈瘤」に向き合うクリニック

 「子どもを望んでいるものの、なかなか妊娠に至らない。そんなとき、女性が婦人科を受診する一方で、男性側の検査や受診が後回しになることがあります。しかし、不妊の原因は男女双方に見られるため、男性も自分の体の状態を知ることが大切です」

 そう話すのは、男性不妊や生殖機能に関する外科治療に取り組む「銀座リプロ外科」の院長で、東邦大学名誉教授でもある永尾光一さん。男性不妊の原因の一つとされる精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)の治療に取り組んでいます。

 「精索静脈瘤とは、精巣につながる血管や精管などが通る『精索』の周辺に静脈の拡張が生じる状態です。精巣周辺の血流や温度環境に影響を及ぼし、精子の状態や精巣機能に関係することがあります。見た目の違和感や痛みなどの自覚症状がないケースもあり、男性不妊症の人に多く認められることから、不妊治療を考える際には、泌尿器科で異常の有無を確認することも選択肢の一つになります」

 同クリニックで行う精索静脈瘤手術の一つが、顕微鏡を用いて細かな組織を確認しながら行う「ナガオメソッド」。精管や精巣動脈、リンパ管、神経などの重要な組織を確認しながら温存し、血液が逆流している静脈を処理することを目指します。

 診察では、超音波検査などを用いて状態を確認し、必要に応じて手術を含めた治療方法を検討。精索静脈瘤の手術は局所麻酔による日帰り手術が可能です。男性不妊というデリケートな悩みを抱える人が相談しやすいよう、完全予約制で個室での診察を行い、プライバシーにも配慮。仕事や生活への影響を抑えながら診療を行っています。

#chapter2

形成外科から泌尿器科へ。二つの専門性を生かして男性不妊に挑む

 永尾さんが精索静脈瘤の手術に取り組み、独自の「ナガオメソッド」を確立した背景には、形成外科と泌尿器科、それぞれの領域で培ってきた経験があります。昭和大学大学院医学研究科を修了後、8年間所属した形成外科では、血管や神経といった、肉眼では見分けにくい微細な組織を見極め、つなぐという技術を磨きました。その後、東邦大学で泌尿器科を専攻。形成外科で培った知識や技術を、泌尿器科における生殖医療の手術にも生かしてきました。

 「手術では、単に静脈瘤を処理するだけではなく、本来の機能を保つために、何を残し、何を処理するのかが重要です。形成外科と泌尿器科、両方の知識と技術を生かし、高倍率の顕微鏡などを用いることで、こうした手術に取り組めるのではないかと考えました」

 男性不妊の治療に進んだきっかけは、臨床の現場で、不妊に悩む多くのカップルと接してきたことでした。

 「悩んでいる方が一人で抱え込まず、必要な医療につながってほしい」。そんな思いから銀座リプロ外科を設立。男性不妊をはじめ、生殖機能や性機能に関する診療を行いながら、研究で得た知見の実践や医師への技術継承、情報発信にも取り組んでいます。

 また、医師としての知見を医療機器の開発にも生かしています。医療機器製造会社「三井メディカルジャパン」の顧問を務め、日々の診療で感じる課題や医療現場のニーズを、医療機器の開発につなげるなかで、生殖医療の可能性を考えていくことも活動の一つとしています。

#chapter3

男性不妊をもっと身近な医療に。治療と啓発の両面から未来を開く

 「不妊治療は、婦人科での検査や治療が先行しがちですが、男性側も精液検査だけでなく、必要に応じて泌尿器科で診察を受けることが大切です。精索静脈瘤は、泌尿器科で行われている超音波検査などで確認できます」

 男性不妊について、男性自身が取り組める選択肢を広く知ってもらうことも、永尾さんが力を注ぐテーマの一つ。クリニックの運営や事業を通じて長く交流してきた「三井メディカルジャパン」の三井桂子さんは、永尾さんの医師としての姿を身近で見てきました。

 「患者さんからうれしい報告が寄せられることもあります。先生は医療以外のことについて、あまり多くを語られませんが、私自身は、治療を受けたご家族とのつながりを大切に感じています」と三井さんは語ります。子どもたちを親しみを込めて「ナガオキッズ」と呼び、三井さんの発案で「永尾先生を囲む会」が開かれたこともあるそうです。

 一方、不妊治療には、夫婦の経済的・心理的な負担に加え、仕事との両立という課題も。経済産業省が2024年に公表した資料では、不妊治療に伴う離職や仕事のパフォーマンス低下などによる経済損失は、年間約3000億円とされています。

 「男性不妊を早期に診断し、適切な治療につなげること。それは夫婦の治療を支えるだけでなく、社会的な課題を考えるうえで、医療が果たせる役割の一つなのかもしれません」と永尾さん。顕微鏡で見るミクロの世界から、その先にある一人一人の未来までを見つめているようです。

(取材年月:2026年9月)

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Profile

専門家プロフィール

永尾光一

ミクロの技術で男性不妊治療の可能性を広げる医師

永尾光一プロ

医師

医療法人社団マイクロ会 銀座リプロ外科

形成外科と泌尿器科、二つの専門領域を生かし、独自の顕微鏡下手術の技術「ナガオメソッド」を確立。男性不妊治療の可能性を広げるとともに、啓発活動にも尽力し、不妊治療に伴う社会課題の軽減に取り組んでいます。

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