新規事業向けシステム開発の要件定義の極意 Part1【要件定義で行う作業の流れ】
これまで数回にわたって架空のシステム開発を例に、新規事業のシステム開発における発注者が行う要件定義の準備について解説してきましたが、今回はその最終回です。
新規事業向けシステム開発の要件定義の極意
Part1 【要件定義で行う作業の流れ】
Part2 【要件定義の重要性と、その具体的な準備方法】
Part3 【業務フローの作成】業務の洗い出しと業務プロセス
Part4 【業務フローの作成】業務フロー図の作成
Part5 【システム化の範囲を定める】〜【データ量を予測する】
Part6 【事業展開に応じたシステムの拡張を検討する】〜【関係者で見直す】 ←今回はココ
Part7 【まとめ】
- 新規事業のためにシステム開発を行う
- システム開発で絶対に失敗したくない
- 発注者が要件定義の前に何をすべきかを知りたい
そんな方は、ぜひ最後までご覧ください!
※このコラムの内容は動画で公開しています。Youtube版はこちらをご覧ください。
これまでの投稿では、ITベンダーとともに行う要件定義に入る前にこんな準備をしておくと良いということで、要件定義の準備について解説してきました。
今回は残りの「事業展開に応じたシステムの拡張を検討する」「手元データの活かし方を考える」「デザインイメージを決める」「関係者で見直す」について解説いたします。
事業展開に応じたシステムの拡張を検討する
「事業展開のことなど、システムを開発するITベンダーには関係ないじゃないか。機密事項だし、外部に対してオープンにはしたくない。」そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。
では、なぜ事業展開に応じたシステムの拡張を考えておかなければならないのかについて説明します。もし、この事業に対する予算が豊富であり、これから作るシステムは試行であって事業拡張時には最初から作り直す計画だ、という場合ならば考慮不要です。
しかし、最初の開発が成功したらそれを横展開していきたいというようなことを考えているならば、システムをどのように拡張していくかを検討しておかなければなりません。なぜなら、今後のシステム予算に大きく影響してくるからです。
例えば、「エクセルでマクロを組んでそれが便利なので、他の人もコピーして使う」。このような場合は当てはまりませんが、「最初は1つの店舗で使う。そこで使い勝手を高め効果が確認できたら、地域の店舗で使用する。そして最終的には全国の店舗で利用し、各店舗のデータをリアルタイムで集計し迅速な経営判断を行うようにしたい」というようなことであれば、1店舗だけで使う場合と、複数店舗で使う場合だと、システムの設計が変わってくるからです。
システムの設計が変わるということは、開発コストが変わるということです。そして変わるコストは当然増加します。減ることはありません。先の例で、「1店舗が100店舗になる」ということだけならば設計もシンプルですが、「合計100店舗だが地域別にデータを集計したい」「ある部分の業務は店舗ごとに異なる」ということがあるとするならば、設計の複雑度が増してきます。
システムの拡張の実装方法についてはITベンダーに任せるとしても、どのように事業展開をし、そこにはシステムがどのように関わってくるのかということは発注者側が考えておく必要があります。シンプルなシステムならまだしも、元の設計が複雑な場合など、全ての機能を作り替える、あるいは根本的に設計思想を変更しなければならない、という事態にも陥りかねません。
そうなると、もう一回作り直すほどの予算が必要となるというのは大げさな話ではありません。一方で、最初から全ての考慮をしておくと開発コストが膨らむのも事実です。落し所は要件定義の段階でITベンダーとじっくり相談しましょう。仮に確定しない計画であっても、ITベンダーに対しては「このような展開をしようと考えている」ということを話す準備はしておいてください。その際はNDAが締結済みであることはお忘れなく。
では、今回も以前と同様、架空の「フードコート座席順番待ちアプリ開発」を例に考えてみましょう。開発をする企業は、全国20カ所にショッピングセンターを展開しており、実証実験として横浜店に導入し、いずれ全国に広げていきたいと考えていました。
- 実証実験終了後、全国20カ所のショッピングセンターへの展開を考慮したい
という、システムの拡張要件が浮かび上がります。また、最初の導入店舗では外国人向けの対応は不要という判断をしました。(→新規事業向けシステム開発の要件定義の極意 Part5)
導入するショッピングセンターでデータ分析をしたところ、外国人で子連れのお客様は数パーセントに過ぎなかったためです。しかし、全国他のショッピングセンターも後から分析をしてみたところ、地域によっては外国人かつ子連れの方が20%近い所もあり、無視してはいけない数字と判断。これによって
- 全国展開のプロセスにおいて外国人対応を行う
という、要件が発生します。また、別件でオペレータの業務負担を軽減したいという課題があることから、
- AIチャットの導入
- 現在社内で行っているコールセンターの外部委託も検討
以上のことも将来の要件になってきます。
将来の事業構想が直接システム設計に関係するか否かの判断はITベンダーに委ねればよく、システムの拡張に100%影響しないということでない限り、ITベンダーへ情報提供するといいでしょう。
手元データの活かし方を考える
開発しようとしているシステムが、既存システムの入れ替えのような場合、過去データをどうするかという検討が必要となります。しかし、新規事業の場合だとケースバイケースです。
もし既に何かしらの会員データがあり、その会員に向けたサービスを提供する仕組みだとする場合、会員データを新しいシステムへ投入しようという考えが出てきます。データ量が少ない場合ならば、手入力するという選択肢もありますが、数千、数万、それ以上となった場合、手入力という選択肢は消え、データを新システムへ投入するための専用プログラムの開発が必要となります。
名前、住所、性別のような属性データを移す程度ならば簡単なのですが、会員の購買実績・イベントの参加履歴なども含めてデータ移行する、そのようなことになってくると、プログラムも複雑になってきます。
手元にあるデータは有効利用できる可能性もあるので大切に扱いたいですが、データを移すというコストも無視できないことになるかもしれませんので、要件定義時にはしっかりと伝えてください。
参考までに紹介しますと、20年近く使っていた基幹システムのデータを新規システムへデータ移行する際には、データの調査・設計・開発だけで1千万円近いコストになったケースもあります。それがリアルです。
「フードコート座席順番待ちアプリ開発」ではどうでしょう。この会社では別のアプリも運用しており、登録された会員もいるのですが「会員データは共有や移行はしない」という結論としました。
デザインイメージを決める
アプリ利用者のペルソナが決まっているなら、デザイナーとしてはデザインイメージも沸いてきます。ですので、ITベンダー側に優秀なデザイナーがいれば、こちらから言うまでもないかもしれません。
しかし、コーポレートカラーを含め、どのようなイメージにしたいかということは、多くの場合聞かれますので、予め気に入っているアプリ・WEBサイトなどをいくつかピックアップしておきましょう。管理機能は外には出ないものですが、もしこちらも何か参考になるようなものがあるならば用意しておいてください。
ちなみに、意外と難しいデザインの要望というのが「アップルみたいにシンプルなデザイン」というもの。確かにアップルのWEBサイトなど、シンプルでかっこいいです。しかしシンプルだからこそ、そこに掲載されている写真・フォント・文字サイズ等々が計算し尽くされてできている作品ですので、「シンプル=簡単。誰にでもできる」とは思わないでおいてください。それがリアルです。
関係者で見直す
さて、一通り要件定義の準備ができたなら、関係者で見直しを行いましょう。そして、新しい課題、必要に応じ再検討すべき事項に対しての対応を済ませ、要件定義の準備が完了です。
まとめ
これまで数回にわたり、要件定義の準備について解説してまいりました。
要件定義自体は、システムを開発するITベンダーと共に行います。その際に、準備なく開始するのと、準備を済ませてから開始するのでは、かかるコスト・要件定義の精度が違ってきます。
完璧ではなくとも、抑えるべきところを抑える準備を行い要件定義、ひいては新規事業の成功につなげてください。
これまで6回にわたり新規事業向けシステム開発の要件定義の極意について解説してきました。次回は全6回の振り返りを行ないますので、ぜひご覧ください。