海外出張(法人WiFi)の通信費が高コストになる構造を専門家が解説。"eSIM"との組み合わせで年間80%削減できる理由
こんにちは。BeaconLink合同会社代表の阿部宏貴です。マイベストプロ東京では、「海外渡航先のネット環境向上に貢献する通信の専門家」として活動しています。
私たちは、海外旅行者向けeSIMの販売と並行して、海外モバイル通信の実測データを集めるプラットフォーム「SOKUDO(ソクド)」を運営しています。今回は販売者としてではなく、データを扱う立場から、海外通信の速度について分析できたことをつらつら書いていきます。まだまだ測定件数は約500件ほどと少ないため、あらためてデータが貯まったらプレスリリースでレポート報告もしたいと思います。
そもそも、なぜ「速度の実測データ」を集めているのか
もともと私は、携帯電話の販売店で8年ほど店長やマネジャーを務めていました。その後eSIMに関するポータルサイトを運営し、現在の事業に至っています。
現場でも発信の現場でも、ずっと海外モバイルの通信速度については疑念がありました。
海外通信は、料金比較の情報は山ほどあるのに、「実際にどれくらいの速度が出るのか」をリアルタイムに示すデータがほぼ存在しない。
「台湾のeSIMはどれがいいですか?」「アメリカではローミングと現地SIM、どちらが快適ですか?」お客様から日常的に寄せられる質問に、私たち販売側も、正直なところ過去の世界的な速度測定サイト(ooklaやnPerfなど)の統計レポートや口コミの断片で答えるしかなかったのです。
そこで2026年3月、ユーザーの方々が実際に海外で測定したスマートフォンの通信速度データを集約・公開するプラットフォーム「SOKUDO」を立ち上げてみました。本稿では、そこに集まった497件の実測データから見えてきた事実を、専門家の立場から共有してみようかなと。
調査の概要
- 対象データ:SOKUDOに投稿された実測値 497件
- 測定期間:2026年3月〜2026年4月
- 測定項目:下り速度(Mbps)/上り速度(Mbps)/Ping(応答遅延, ms)
- 対象回線:スマートフォンのセルラー回線のみ(Wi-Fi・VPNを除外)
- 品質管理:Wi-Fi誤判定検知、連投制限、セルラー確信度スコアによる選別
eSIM・現地SIM・ローミング実測値データからわかる3つの事実
結果として、渡航先の通信事情について、これまで経験則に語られてきた話をリアルタイムのデータで裏付ける発見と、また新しい意外な発見の両方が出てきました。順に紹介します。
※項目によって測定数にばらつきがあるのはご了承を。今回の記事では平均値を参考としています。
事実①:海外ローミングのPingは、現地SIMの2.3倍遅い
まず最も明確に出たのが、接続方式による差です。これはある程度予測していましたね。
| 接続方式 | 件数 | 平均下り速度 | 平均Ping |
|---|---|---|---|
| 現地SIM | 376件 | 57.3 Mbps | 82 ms |
| eSIM | 87件 | 45.6 Mbps | 70 ms |
| プリペイドSIM | 24件 | 30.8 Mbps | 64 ms |
| 海外ローミング | 10件 | 29.3 Mbps | 188 ms |
下り速度で見ると、ローミングは現地SIMの約半分。応答速度(Ping)では2.3倍遅いという結果でした。
上記表のeSIMは現地直結のローカル回線を含みます。ローミング式のeSIMは海外ローミングの項目の方が感覚として近いかもしれません。
Pingというのは「データが往復するのにかかる時間」です。ウェブ閲覧や動画視聴ではあまり気になりませんが、ビデオ通話、オンライン会議、リアルタイム翻訳、地図アプリのリロードといった「応答の速さ」が体感に直結する場面で大きな差となって現れます。要は、もっさりするかどうかですね。
「通信キャリアの海外ローミングは高い」はよく知られていますが、価格面だけでなく速度面でも不利である、という事実が数字で見えたのは意義のある発見だと感じています。
(なお、ローミングは現時点で十件とサンプル数が少ないため、今後データが増えれば数値は変動する可能性があります。これは速報値としてご理解ください)
以下はローミングレポートに絞った数値ですが、ブレイクアウト(インターネットの出口)が他国にあると、Ping大きく、速度も比例して遅くなっていますね。これは海外でのローミングにおける宿命です。
| 順位 | サービス | 国・回線種別 | 平均下り速度 | 平均Ping |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Singtel | シンガポール(現地SIM) | 245 Mbps | 41 ms |
| 2 | Rogers | カナダ(現地SIM) | 144 Mbps | 64 ms |
| 3 | SK Telecom | 韓国(現地SIM) | 128 Mbps | 79 ms |
| — | (中略) | — | — | — |
| 下位 | 日系キャリアR(海外ローミング) | — | 20 Mbps | 221 ms |
| 下位 | 中東系キャリア(現地SIM) | — | 11 Mbps | 104 ms |
事実②:同じ国でも、接続方式が違うと通信速度は2.5倍も違う
意外だったのはここです。
アメリカ(30件)のデータを接続方式別に分解すると、こうなります。
| 接続方式 | 平均下り速度 |
| eSIM | 151.8 Mbps |
| 現地SIM | 100.6 Mbps |
| ローミング | 62.0 Mbps |
同じ国の中で、eSIMとローミングの間に2.5倍の速度差が出ています。
つまり「アメリカは速いか遅いか」という国単位の話ではなく、同じ国の中で『どの接続方式を選ぶか』で体感速度が決まる。過去の統計レポートにおける根拠の裏付けとして、これが今回の調査で最も重要な分析でした。
事実③:主要渡航先8カ国の実測ランキング
日本人の渡航需要が高い主要国に絞って集計した結果が以下だ。
(※件数13以上の国を抽出)
| 国 | 件数 | 平均下り速度 | 平均Ping |
|---|---|---|---|
| 韓国 | 15件 | 131 Mbps | 69 ms |
| アメリカ | 30件 | 112 Mbps | 78 ms |
| スペイン | 13件 | 99 Mbps | 47 ms |
| ベトナム | 23件 | 78 Mbps | 93 ms |
| カナダ | 39件 | 64 Mbps | 57 ms |
| オーストラリア | 23件 | 48 Mbps | 61 ms |
| イギリス | 16件 | 30 Mbps | 71 ms |
| タイ | 17件 | 19 Mbps | 108 ms |
アジアでも最速クラスの韓国と最遅クラスのタイと分かれ、下り速度で約7倍の差がありました。
一方、欧米諸国は全体的に平均実測値が速いイメージですが、イギリス30Mbpsという数字はするとやや意外になりました。
「先進国=高速」とは必ずしもならない、というのも今回のデータから見えた事実です。
ただし、先進国でありながら数値が伸び悩んでいるのは、古いデバイスでの測定、あるいは測定されたエリアが屋内や地下(地下鉄など)に偏っていた可能性も考慮しないといけません。
専門家として、海外通信を選ぶ時に見るべき3つのポイント
上記のデータを踏まえて、海外通信を選ぶ際に私が重要だと考えるポイントを3つに絞ります。
① 国単位ではなく「国×接続方式」で考える
「○○国は速いか遅いか」だけではなく、「ローミングより、ローミング不要の現地SIM・現地eSIM有利」という解像度で選ぶ。今回のデータでも、同じ国内で2倍以上の差が出るケースが複数ありました。
② Pingを軽視しない
ビデオ通話や地図アプリを使う方は、下り速度よりもPing値の方が体感品質に直結します。特にローミングは下り速度もPingも不利なので、リモート会議での会話のキャッチボールがやや遅れぎみになるかもしれません。
③ サービス単位でも大きな差がある
同じ国の中でも、サービス提供者によって速度は大きく異なります。SOKUDOのサービス別ランキングでは、最速クラス(シンガポールのSingtel、カナダのRogersなど)と最遅クラスの間で10倍以上の差が見られました。海外でモバイル通信を快適に利用するなら、「その国でどのサービスを選ぶか」まで調べる価値は十分あります。
おわりに
私たちBeaconLinkは、eSIMの販売事業者であると同時に、海外モバイル通信の実測データを蓄積・公開する専門企業でありたいと考えています。
販売者としては「うちの製品を選んでください」と言いたいところですが、調査者としてはフラットにデータを出すことが読者のためになると信じています。今後も実測データの収集と分析を継続し、海外通信を選ぶ方々の意思決定に役立つ情報を発信していきます。
渡航前の通信手段選びでお悩みの方、速度データについてさらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。


