賢い相続のポイント⑦【遺産分割の方法】
相続財産管理制度
空き家等問題における、空き家化の最大の原因は、不動産等の相続未了にあります。その未相続の要因の一つに相続人の不存在をあげることができます。この相続人の不存在とは、そもそも、相続人がいない、もしくは亡くなっている等により生じる場合もありますが、おおよそは、被相続人に借金等の負の遺産が残されていたり、もしくは、空き家等などの管理や負担を回避したいがため、相続人全員が相続放棄をしてしまうといったことにより生じています。そこで、かかる相続人不存在の場合の清算的手続きとして、相続財産管理人制度が設けられております。
相続財産管理人とは
「相続財産管理人の役割」
相続により承継される財産の帰属主体が、相続人の不存在により不安定になった場合、相続財産を法人とみなし、相続財産管理人を選任し、相続人を捜索しながら、相続財産を管理・清算します。もし相続人の不存在が確定した場合に、特別縁故者からの請求がある場合に相続財産の全部又は一部を特別縁故者に分与する場合もあり、さらに残った財産は、国庫に引き継ぐという、いわゆる清算型の財産管理人として位置づけられます。
「相続財産管理人関係事件における手続きの流れ」
手続きは資産超過型(被相続人のプラスの財産がマイナスの財産より多いケース)のスキームと、債務超過型(被相続人のマイナスの財産がプラスの財産より多いケース)のスキームがあります。実務では債務超過型の事件が比較的多いように感じます。もし弁済後も積極財産が残る場合は、資産超過型となり、引き継ぎのための手続きと相続人捜索のため長期間の公告等を必要とします。おおまかな流れは次のとおりです。
①家庭裁判所に対する相続財産管理人選任の申立て
②相続財産管理人を選任した旨の官報公告
③相続債権者及び受遺者に対する請求申出の官報公告
※債権者等への清算が必要であれば、相続財産を換価し弁済しあるいは配当する。債務超過型であれば、ここで管理は終了する。
資産超過型となりますとさらに以下の手続きが必要となります。
④相続人の捜索の官報公告(6ケ月以上の期間を要する)
⑤特別縁故者に対する財産分与の申立て
※上記④の期間の経過により相続人の不存在が確定すると、特別縁故者に対する財産分与の申立て、すなわち相続人ではないけれども特別の関係にある者→例えば、「被相続人と生計を同じくしていたもの」「療養看護に努めたもの」等の申立てがある場合、相当であるかにつき財産管理人の意見を家庭裁判所に申述する。
⑥分与の審判もしくは申立却下の審判
⑦特別縁故者に対する分与財産の引渡し
⑧残余財産の国庫への引継
⑨管理事務終了
相続財産管理人の職務の特徴
相続財産管理人の職務の対象は相続財産(法人)であり、主たる目的は相続財産の清算にあります。また相続財産管理人の地位の法的性格は、相続財産法人の代表者となります(但し相続人のあることが明らかになって法人が成立しなかったときは、相続人の法定代理人と位置づけられます)。管理終了に至るまで管理人は、清算に向けられた地道な手続きの積み重ねと各種の報告並びに公告を必要とします。なお管理人に与えられる権限は、保存行為、利用行為、改良行為に限定され、これらを超える行為 例えば不動産の売却をするときなどは権限外行為の許可審判が必要となります。
相続財産管理人の選任申立て
(1)申立人 利害関係人または検察官 利害関係人は相続財産の帰属について法律上の利害関係を有する者のこと
(利害関係人の例 特定受遺者、相続債権者、事務管理者、徴税官庁としての国・地方公共団体、相続財産を買収しようとする国・地方公共団体、特別縁故者、福祉事務所)などとされています。
(2)選任の申立て
①管轄 被相続人の相続開始地を管轄する家庭裁判所
②申立て費用 手数料800円の収入印紙 郵券→所定の額
③管理費用(予納金)
官報公告料及び相続財産管理人報酬を予納する。 額は規模に応じて30~100万くらい。なお、管理財産に剰余ある場合は、予納金は共益費として申立人に返還される。
④添付書類は以下のとおり。それぞれ相続の開始、相続人の不存在、相続財産の存在、申立人の利害関係等を示す。
申立人の戸籍謄本、住民票/被相続人の出生から死亡までの除籍謄本・改製原戸籍、住民票除票/被相続人の父母の出生から死亡までの除籍謄本・改製原戸籍/相続財産管理人候補者の戸籍謄本、住民票/利害関係を証する資料/相続人身分関係説明図/財産目録/相続財産の存在を証する資料(登記事項証明等)
(3)選任の審判
申立人及び管理人に対して告知されます。当該審判に不服申立てできません。
相続財産管理人の業務
①相続財産の調査・保全
②財産目録作成
③管理状況の報告・協議 ・・・必要に応じて裁判所と何度も繰り返す。
④管理人の権限 ・・・原則として民法103条の以下の行為に限定される。
保存行為・・・管理すべき財産の現状維持に必要な行為。例えば建物の修繕や腐敗しやすい物の処分等。
利用行為・・・物や権利から利益を得る行為。例えば家屋の賃貸など。
改良行為・・・物や権利の価値を増加させる行為。例えば無利息の貸金債権を利息付に変更する行為等。
いずれも物又は権利の性質を変更しない範囲で行うことができる。
⑤権限外行為の許可
本来の管理人の権限つまり民法103条の権限を超える行為については、家庭裁判所の許可の審判を受けなければ行うことができない。具体例として、価値ある財産の廃棄処分、寄付、売却、無償譲渡などがこれにあたる。
⑥不動産等の換価、優先債権者に対する弁済、一般債権者等への配当
「財産の換価方法」
形式競売 ・・・換価のための競売
任意売却 ・・・形式競売より比較的迅速で、高価に売却できるメリットがある。
「弁済・配当」
優先順位 ・・・対抗要件を備えた抵当権者等→請求申出期間内に請求のあった相続債権者→同受遺者→請求申出期間内に請求のなかった相続債権者→同受遺者
※滞納となっている公租公課の徴収権者も優先権のある相続債権者に該当すると考える。公租公課と抵当権との調整は、国税徴収法の定めに準じてなすことになろう。
残余財産の手続き
①相続人の出現→相続人公告期間内に相続人が出現した場合は当然かかる相続人に引継ぐ。
②特別縁故者への財産分与
③国庫帰属手続き
制度の課題と空き家問題
「予納金の負担」
管理費用として公告料のほか、相続財産管理人に対する報酬があります。相続財産中流動資産が少なく、これらの財源確保のため必要がある場合は、裁判所は相当額を申立人に負担させることを行っています。実務上相続債権者等、直接の利害関係人のいない空き家等の場合、約30から100万円の予納金の負担が障碍となって、なかなか申立てに至らないというケースがあります。
「換価の問題」
いくら相続財産管理人が選任されても、不動産が特定空き家であったり、流通性が低いなどして、換価不能もしくは、撤去のための積極財産が乏しいとなれば、結局行政代執行ないし国庫帰属となるなど、結果的には公費がかかるということになります。
相続未了の空き家等が社会問題化する今次、行政と裁判所を含めた相続財産管理人利用支援のための新たな仕組みや工夫といったものが必要となるのではないでしょうか。
司法書士の活用について
司法書士は、登記・供託及び訴訟や調停申立等に関与する過程において、仲裁的な役割を担う職務が少なくなく、なかでも登記申請手続きにおいては、登記権利者及び登記義務者の双方から受任し業務を行うことが一般的です。この意味で司法書士は権利調整型の法律職と言われ、他職と区別をされています。成年後見人の選任においても、裁判所は司法書士を一番多く活用しています。当事務所でも、財産管理業務により精通し、積極的に課題解決にのぞんでまいりたいと考えております。
参考文献 日本司法書士会連合会資料 相続財産管理人の手引き
ぜひ当事務所ホームページも、ご覧ください。
石原法務司法書士事務所
http://ishihara-souzoku.com/