賢い相続のポイント③【遺留分減殺・旧法】
施行日
1.被相続人の死亡により残された配偶者の生活への配慮
①配偶者居住権の創設 2020年4月1日施行
②婚姻期間20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与等に関する優遇措置 2019年7月1日施行
2.遺言の利用促進ならびに相続をめぐる紛争防止
①自筆証書遺言の方式緩和 2019年1月13日施行
②法務局における自筆証書遺言の保管制度創設 2020年7月10日施行
3.その他
①預貯金の払戻し制度の創設 2019年7月1日施行
②遺留分制度の見直し 2019年7月1日施行
③特別の寄与の制度の創設 2019年7月1日施行
ポイント1 残された配偶者への配慮
①配偶者居住権の新設
配偶者が相続開始時において被相続人所有の建物に居住していた場合、かかる配偶者は、遺産分割において配偶者居住権を取得することにより終身もしくは一定期間、その建物に無償で居住することができるようになります。また、自宅での居住を継続しながら預貯金その他の財産も取得できるようになります。
例えば 夫が亡くなり 妻と子一人が相続人の場合
被相続人である夫の遺産 建物2,000万円 預金3,000万円
妻 建物→配偶者居住権1,000万円 預金1,500万円
子 建物→負担付所有権1,000万円 預金1,500万円
となる。
②婚姻期間20年以上の夫婦間の居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
20年以上婚姻期間のある夫婦間で居住用不動産(居住用建物とその敷地)の贈与や遺贈があって相続が発生した場合、被相続人の意思の推定規定を設けることにより、原則として遺産の先渡しを受けたものと取り扱わず、配偶者がより多くの財産を取得することになります。
例えば 婚姻期間20年以上の夫婦の居住用不動産の贈与があって、その後夫が亡くなり妻と子二人が相続人の場合
被相続人である夫の遺産 居住用不動産(持分2分の1) 評価額2,000万円 預金6,000万円
配偶者である妻に対する贈与 居住用不動産(持分2分の1) 評価額2,000万円
(上記贈与は遺産の先渡しを受けたものと取り扱う必要がないため)
妻の遺産分割における取得額→8,000万円×1/2=4,000万円となり
最終的な取得額は、4,000万円+2,000万円=6,000万円となる。
ポイント2 遺言の利用促進
①自筆証書遺言の方式緩和
自筆証書遺言についても、財産目録については手書きで作成する必要がなくなりました。もっとも、偽造防止のため財産目録の各ページに署名押印する必要があります。
これまで、自筆証書遺言を作成する場合には全文自書する必要があった。
改正により、自書によらない財産目録を添付することができる。
パソコンで目録作成 →〇
通帳のコピーを添付 →〇
ただし財産目録には署名押印しなければならない。
②法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設
(制度の概要)
自筆証書遺言を作成した方は、法務大臣の指定する法務局に遺言書の保管を申請することができます。(作成した本人が法務局に行って手続きを行う必要がある。)
遺言者の死亡後に、相続人や受遺者らは、全国にある遺言書保管所(法務局)において、遺言書が保管されているかどうかを調べること(「遺言書保管事実証明書」の交付請求)、遺言書の写しの交付を請求すること(「遺言書情報証明書」の交付請求)ができ、また、遺言書を保管している遺言書保管所において遺言書を閲覧することもできます。
※遺言書保管所に保管されている遺言書については、家庭裁判所の検認が不要となります。
※遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付がされると、遺言保管者は他の相続人等に対し、遺言書を保管している旨を通知します。
ポイント3 その他
①預貯金の払戻し制度の創設
預貯金が遺産分割の対象となる場合に、各相続人は、遺産分割前であっても、一定の範囲であれば預貯金の払戻しができるようになりました。
(平成28年12月19日最高裁大法廷決定により、遺産分割が終了するまでの間は、相続人単独では預貯金債権の払戻しができないとされていた。)
そこで、本改正では
遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるよう、預貯金の払戻し制度が設けられました。
(1)家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しが受けられる制度
遺産に属する預貯金債権のうち、一定額については、単独で払い戻しができる。
(相続開始時の預貯金債権の額(口座基準))×1/3×(当該払戻しを行う共同相続分)=単独で払い戻しをすることができる額
例えばA銀行に預金600万 相続人は子である長男・次男の二人のみ 長男100万円払戻し可能
※ただし、1つの金融機関から受けられる払戻し額は150万円まで。
(2)保全処分の要件緩和
預貯金債権に限り、家庭裁判所の仮分割の仮処分要件を緩和する。
※本改正により、限度額内の小口の資金需要については(1)の方策により、限度額を超える比較的大口の資金需要については(2)の方策を用いることになるものと考えられます。
②遺留分制度の見直し
遺留分権利者が遺留分を侵害された場合、遺贈や贈与を受けた者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができるようになりました。また、遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備することができない場合には、裁判所に対し、支払い期限の猶予を求めることができます。
旧法では、遺留分減殺請求権の行使によって、不動産など共有関係が生じ、事業承継等の支障となっているという指摘がありました。
例えば、経営者であった被相続人である父親が、事業の継承者である長男に、会社の土地建物(1億2,000万円)を、長女に預金1200万円を相続させる旨の遺言を遺して死亡した(相続人は長男と長女のみ)。遺言の内容に不満を持つ長女が長男に遺留分の請求をする場合。
長女の遺留分侵害額→(1億2,000万+1,200万)×1/2×1/2-1,200万円=2,100万円
旧法では、遺留分減殺請求により、会社の土地建物が共有状態となりその持分は
長男 9,900万/1億2,000万 長女 2,100万/1億2,000万となる。
本改正により、遺留分減殺請求によって生ずる権利は金銭債権となり、上記事例では
長女は長男に対し2,100万円請求できる。
これにより、遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重することができるようになりました。
③特別の寄与の制度の創設
相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、相続人に対して金銭の請求ができるようになりました。
例えば、被相続人である父が死亡し、相続人は二男と長女のみ。同居の長男夫婦のうち長男は父より先に死亡している。しかし亡長男の妻が、被相続人である義父の介護をしていた場合。
これまで、長男の妻は、どんなに被相続人の介護に尽くしても、相続人ではないため、被相続人の死亡に際し、相続財産の分配にあずかれない。
他方、被相続人の長女、二男は、遠方で暮らし、たまに遊びに来る程度で、全く被相続人の介護を行っていなくても、相続財産を取得することができる。
つまり遺産分割において相続人以外の者は、被相続人の介護に尽くしても、相続財産を取得することができないという課題がありました。
そこで、相続開始後、長男の妻は、相続人に対して、金銭の請求ができるように改正され、相続人も介護等の貢献に報いることができ、実質的衡平が図られるようになりました。
※権利行使期間は、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知ってた時から6ヶ月、または相続の開始の時から1年
※特別寄与料の負担割合は、民法に定める法定相続分または指定相続分
※特別寄与料は被相続人から遺贈により取得したものとみなして、相続税の対象
参考
法務省 民法(相続法)改正・遺言書保管法の制定
日弁連 改正相続法のポイント(新日本法規)
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石原法務司法書士事務所
http://ishihara-souzoku.com/