1人に寄り添う ーそこにある働き
ふじやま薬局の栗原です。
今回も改めてコミュニケーションについての一冊を紹介させていただきたいと思います。
コロナ禍で生まれたコミュニケーションの問題
今日ご紹介するのは東畑開人さんが記された『聞く技術 聞いてもらう技術』という本です。新書大賞にもノミネートされた一冊なので一度は本屋で見かけられたことのある本であるかもしれません。
この本が読まれた背景には間違いなくコロナ禍で人と人のコミュニケーションが揺らいだ世相があったと思います。実際この本の中では、コロナ禍の中、対策に苦悩する政治家の方々へ行った提題なども含まれております。
「聞く」のは専門家だけの仕事ではない
この本の興味深い点は、「聞く」という、ともすれば技術的に理解される営みを、専門家の手だけに委ねるのではなく、一般人、つまりおよそ人の話を聞くことについては素人といって良い私たちに対しても、その役割の意義を大いに認めている点だと思います。
聞く技術
もちろん専門家として「聞く」という技術についても詳細に(一覧的に)紹介してくださっています。
たとえば本の帯にも次のような「聞く技術」が網羅されています。
・時間と場所を決める
・眉毛にしゃべらせる
・正直でいよう
・沈黙に強くなろう
・返事は遅く
・・・
「時間と場所を決める」というのは、「技術」というよりも環境を設定することに係るものかもしれません。相手が話しやすい条件を整えること。また、相手が過度に人に依存してしまう関係を、「時間を設定する」ことで予め排除する条件を整えること。
「眉毛にしゃべらせる」というのは分かりにくいかもしれませんが、相手の顔の表情の変化に聡くなる事に関係します。顔の表情筋はとても複雑で、内側にある考えや感情を意図せずして現してしまうものです。それを読み取ることが出来れば、かなりの情報を得ることができるはずです。相手にとっても、自分の思いを汲み取ってくれる聞き手に対しては、さらに内側にある思いを現してくれることでしょう。
「沈黙に強く」「返事は遅く」は、相手が言葉を発する機会を出来るだけ奪わない配慮です。一度閉じてしまったら、その機会にはもう開かないかもしれない心の扉が開かれる瞬間に聡くなる必要があるわけです。
聞かれる技術
でもこの著者の視点の興味深い点は、「聞く技術」について語るのではなく、それと同時に「聞いてもらう技術」が大事なんだ、ということです。
いつ誰が、問題に直面するかわかりません。自分は大丈夫だと思っている同僚が倒れてしまったといった経験は多くの人が持っているでしょう。普段から、自分のことについて周りに関心を持ってもらって、いざという時に頼ることのできる関係性を築くことが大事なのだと著者は語ります。たとえば・・
・隣の席に座る
・トイレは一緒に
・一緒に帰る
・ZOOMで最後まで残る
・・・
つまり自分自身で、まずはいざという時のための関係性の構築を普段から取り組むことだ大事なのだと著者は語ります。
人が発するサインを見逃さない
そして、私たちの隣人が発する「聞いてほしい」というサインを見逃さないことが大事なのだ、と。
自分自身が、自分を過度に信じているがために、人が発する心のサインを読み取れなくなってしまう・・。それが現代の「孤立」なのではないかと私は思わされました。
「孤独」と「孤立」は違う
著者は「孤独」と「孤立」は違うと言います。孤独は、むしろ大事だ、と。静まって考え、心の平安を保つこと。私たちが忙しい時に、ついついYouTubeなんかを見て時間を潰してしまうのも、どこか「孤独」であることを心が求めているからでしょう。
でも、それと「孤立」は違う。人を孤立させてはいけない・・。
「強い」ことより大事なこと
この本を読んで、私も、どこか心の中で「自分は大丈夫だ」という、根拠のない自信に陥っているのではないかと自分を振り返されました。人の心のサインに対してアンテナを見失わないようにしないといけない、と。
特に「聞かれる技術」に関しては、やはり私たちは、自分の努力に頼りすぎる傾向があると感じます。アメリカの影響の強い私たちは、成功は個々人の努力次第というアメリカ的な考え方にかなり影響を受けています。自分で問題解決すること、打力を積み重ねること。それが間違っているわけではありませんが、例えば自分1人で各分野の専門知識を得ることよりも、各分野の友人を持っていたほうがはるかに効率が良いですね。
自分にとって必要な知識、経験、個性を持った友人知人を見定めて、積極的に普段から聞いてもらえる関係づくりをしていくことが必要なのだと思います。
そしてもしも、私たちが人によって助けられる人間であればこそ、「聞かれる」ことを本当に必要としている時々の人に心を留める必要があります。人が意図せず発してしまうサインに目を止めること。普段からその目を養っておくこと。
人は、助けられることよりも、人を助ける事にこそ幸せを感じるという統計もあります。人から助けられてばかりの関係で得られる幸福感は限定的なもの。人を助けることで得られる充実感は、それに勝ると言います。
そして最後に覚えることは、強く生きようとしてポッキリ折れてしまう生き方を回避するために必要なことは、むしろ葦のように曲がりならがも折れない心を持つことの大切さです。そのために、まずは自分の弱さを認める生き方をすること。そして人から与えられる助けに対して、最大限の感謝の気持ちを持つことが大切なのだと思います。
聞くー聞かれるの関係を構築していくために、感謝の気持ちを忘れずに自分の働きを続けていきたいと思わされました。