スーパーグラフィックスと壁画の違い

奥村昇

奥村昇

テーマ:壁画

最近、スーパーグラフィックス(Supergraphics)という用語がよく目に入ってきます。

スーパーグラフィックスとは、1960年代半ばにアメリカの建築界で起こったムーブメントで、 「建物の外壁や内壁に施された巨大スケールのカラフルなグラフィック表現」のことを指します。


スーパーグラフィックスについては、それ以上の明確な定義は見当たりません。

「巨大スケールのグラフィック表現」だけであれば、壁画との違いは見えてきません。

実を言いますと、私が35年前に壁画制作会社を起業したのは、スーパーグラフィックスについての記事との出会いがきっかけでした。

以来、「スーパーグラフィックスと壁画の間にどんな違いがあるのか」は私自身の長年の疑問とモヤモヤでもありました。

今回は、スーパーグラフィックスの意義や背景を探りながら、壁画との違いを検証してみたいと思います。

スーパーグラフィックスとの出会いで、壁画会社を起業


当時の記事の中に「グラフィックによって建築空間や環境に変容を及ぼす」
というくだりがあって、私は直感的に「これだ!」と決意した記憶が鮮明に残っています。

私はそれまで、POPマーケティングの分野で、「人と商品の出会いの場を創り出す」研究実験と実践の最前線の現場にいました。


当時は広告やセールスプロモーション一辺倒のマーケティングが主流で、「商品の見せ方や出会いの場を変えるだけ」で売上が劇的に変わるPOPマーケティングの威力はまるで魔法のようでした。

この魔法の技法を別の分野で生かしたいと悶々としていていた頃に、先ほどのスーパーグラフィックスの記事のくだりが目に飛び込んできたのです。

当時の私は「グラフィック表現」を「壁の絵(壁画)」の意味だと早とちりしました。

私は「建物空間を巨大スケールの壁画で覆うことで、建物のイメージを変えるだけでなく、建物空間の意味(目的)や空間価値を変えられる」と解釈しました。

外観イメージが悪くて利用者が少ない建物や負のイメージが原因で建物や空間の活用が滞っている建物など、建物空間の課題は至るところにあります。


建物本体に手を加えずに、ペイント技術だけで建物の課題が解決したり、新たな空間価値をつくり出すことができたら、多くの人や企業に貢献できると確信しました。


記事との出会いから1年後には、「環境アート」を標榜して「ビッグアート」を起業しました。

スーパーグラフィックスとは


最近、改めてスーパーグラフィックスの事例や記事を目にするようになって、今更ながらスーパーグラフィックスと壁画の本質的な違いがわかりました。

スーパーグラフィックスとは、建物に描かれた巨大スケールのグラフィックペイントを指し、描かれているのは図形とタイポグラフィ(文字)がほとんどで、壁画というより「建築デザイン」「空間デザイン」の一環です。


1960年代半ばの色彩と装飾を排除する主流の建物に対抗する形でカラフルなグラフィックペイントが新たな空間表現としてムーブメント化していったようです。

また、3次元の建物空間に2次元のグラフィックを取り入れることで、物理空間と認知空間のズレが生じて錯視的空間が生まれ、この効果を建築家が積極的に活用するようになった流れも顕著に見られます。


この錯視的空間を活用した建築デザインや空間デザインは、近年よく見かけるようになりました。

奇抜なフォルムの建物に代わって、2次元のグラフィックを応用した建築デザインにすることで建築コストを削減するという近年の裏事情も、スーパーグラフィックスの再ブームにつながっているようです。


スーパーグラフィックスと壁画の違い


建築物の表現の一環として建物の一部になることで機能を発揮する、言わば視覚的物理空間を形成するのがスーパーグラフィックス。


片や壁画は、建物の壁を支持体(キャンバス)として表現された絵画またはビジュアルデザインで、何かを人に伝えることを目的としています。


いずれにしても、スーパーグラフィックスと壁画は、生い立ちも目的も全く異なるようです。


スーパーグラフィックスと壁画の複合型。独自の空間価値の創造をめざして


ビッグアートは、スーパーグラフィックスに触発されて壁画会社をスタートしました。

建物(空間)のマーケティング課題解決が目的で起業したので、当初からアート(芸術表現)としての壁画はめざしていません。

また、スーパーグラフィックスのような視覚デザインだけの壁画でもありません。

壁画の手法を取りながらスーパーグラフィックスの視点も取り入れています。

具体的には、壁画ありきではなく、建物(空間)ありきのデザインポリシーです。

建物の形や構造、まわりの環境(風景)を起点にデザインを構築していきます。

壁画単独でメッセージを発信するのではなく、建物と壁画が一体となって新たな空間価値を創り上げることを「肝」としています。


アート作品としての壁画ではなく、建物や空間の課題解決と新たな空間価値の創造という「空間演出マーケティング」としての新しい壁画領域をめざしています。


35年前に出会ったお宝の写真が原点


これは、35年前に「これこそがスーパーグラフィックスだ」と勘違いして
宝物にしてきた本のスクラップ(出典不明)です。

百聞は一見に如かずで、私のめざす壁画のモデルとなった事例写真をご覧ください。

古い殺風景な建物が、だまし絵で変身!壁画だけで建て替えられた!?



私の宝!スーパーグラフィックスのモデル事例写真

上がビフォーで、下がアフターです。
建物の外壁に「窓」と「別の建物」が、だまし絵(トロンプルイユ)でリアルに描かれ、建物も街並み景観も劇的にオシャレに変化しました。

負の建物がイキイキと蘇り、街に活気とワクワクが誕生!
建物のイメージだけでなく、街の雰囲気まで飛躍的に変わり、
これにより人の流れが大きく変わります。
これぞ壁画による空間演出デザイン
の醍醐味です。

スーパーグラフィックス的な壁画の事例紹介


ビッグアートでは、スーパーグラフィックスと壁画を融合した空間演出デザインという概念で壁画を展開しています。

弊社の代表的な事例をいくつかご紹介します。

池袋の街に、突然お城が出現!|歴史発見館



歴史発見館

池袋のサンシャインの近くの狭小地に建つペンシルビルです。
建物全体を姫路城に見立てて壁画で再現しました。
窓などの障害物も絵の中に自然に取り込みました。

背景の空ともコラボして、環境と調和しながらスケールアップ。
首都高からは一際目を引く存在でした。
20年近く池袋のランドマークとして親しまれました。(現在はありません)

まわりの環境まで取り込んで迫力満点!|パチンコ WESTERN



パチンコ WESTERN

建物の壁が崩れ落ちるようなダイナミックなトリック壁画。
壁画と建物とまわりの環境(背景)を融合させた空間全体がひとつの作品になったインスタレーションです。
周囲の環境まで作品として取り込むことで、空間としての広がり感がでて、スケールアップして迫力と存在感がぐーんとアップしました。

環七沿いの名所として親しまれました。

街に溶け込んでいるのに、この迫力とインパクト!余韻が記憶に焼き付く!|美容室 Miss CROP



美容室 Miss CROP

赤いドレスの女性だけではなく、壁の白いタイルも手描きの壁画です。

実は、元々建物の側面で、グレー色の壁でした。
建物正面が白いタイルの壁だったので、側面も正面と同じにしました。
高さ10m幅10mの壁一面に、15㎝角のタイルを一枚一枚描き、陰影も付けてリアルに表現しました。
その上で、真っ赤なドレスの女性の一部を立体的にリアルに描きました。
白いタイルの建物に女性の絵が描かれていると思いきや、白いタイルの壁も絵なのです。
しかも、背景の空もこの建物空間を引き立てることで、まわりの景観に溶け込んでいます。
女性の頭が見えないのは、このデザインのフック(しかけ)です。
「今日は、どんなヘアスタイルにしましょうか?」と呼びかけ、見る人の連想体験が余韻となり記憶に残ります。


ビルの屋内空間が、まるで屋外にいるような開放的な異空間に!|アトレ恵比寿



アトレ恵比寿

駅ビルの5〜6Fの吹抜けを空の見えるアトリウムに見立てた天井画で、開放的な仮想空間を再現しました。

壁には、人影の見えるホテルの窓に見立てて高級感を演出しました。
まるで屋外にいるような非日常空間が生まれました。
新たな空間価値の創造の好事例です。


建物とグラフィックの調和のとれた上質なハーモニー|西友上福岡店



西友上福岡店

これぞスーパーグラフィックスです。
3次元の建物の構造と2次元のグラフィックが融合して、無機的な建物が表情豊かな上質の建物に生まれ変わりました。


第二ひかり幼稚園


第二ひかり幼稚園

50年以上経って老朽化した巨大遊具が、ワクワクするポップな新デザインで蘇りました。
リデザインされた遊具は、延命ではなく、全く新しい空間価値の誕生です。


絵のな中にいるような不思議な異空間|2D CAFE



2D CAFE

3次元の家具が2次元の壁画と一体になって、空間全体がまるで2次元空間のような世界。
インテリアや装飾は全て線画で表現し、家具も線画で統一することで一枚の絵のように見えます。
空間全体が一枚の絵のように見える不思議な世界です。

白と黒の無彩色空間なので、人と持ち物だけがカラーで浮き出て見えます。
不思議なフォトジェニック空間としてSNSやTVなどで大反響となりました。


まだまだ、ご紹介したい事例がありますが、今回はここまでにします。

単に壁に描く壁画ではなく、建物と一体化することで新しい空間価値をつくり出すという
ビッグアートの「壁画を活用した空間演出デザイン」を少しでもご理解いただければ幸いです。

                       感動空間プロデューサー 奥村 昇

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

奥村昇
専門家

奥村昇(アートディレクター)

有限会社ビッグアート

アート制作が目的ではなく、アートのパワーを活用した戦略的なデザイン(しかけ)で人や社会に大きな変化をもたらし、新しい価値や新しい流れを生み出します。人がワクワク元気になるまちを目指して!

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

エンタメ空間を創造するアートディレクター

奥村昇プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼