セクハラ防止のために企業が取り組むべき5つの施策

田中直才

田中直才

テーマ:ハラスメント

 フジテレビの問題に端を発し、過去に遡ってセクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)の被害を受けたと訴える方がSNSに次々と投稿しています。セクハラやジェンダー差別は企業の信頼性や組織文化に深刻な影響を与える重要課題です。特に、かつて許容されていた言動が、現在では厳しく問われるケースも少なくありません。今回は、企業危機管理の視点から、こうしたリスクを未然に防ぎ、持続可能な職場環境を築くための5つの具体的な取り組みについて詳しく解説します。

1. 明確なポリシーの策定と周知徹底

 最初に必要なのは、セクハラおよびジェンダー差別を明確に禁止する企業ポリシーの策定です。このポリシーは単なる形式的な文書ではなく、以下のような具体性を持たせることが重要です。

  1. 禁止行為の明文化:曖昧な表現を避け、具体的な行動例(例:不適切な身体接触、性的なジョーク、役職による威圧的発 言など)を明記します。
  2. 企業の姿勢の明確化:ハラスメントを決して容認しないという強い姿勢を示すことで、全社員に対する明確なメッセージとなります。

 ポリシーは社員ハンドブックへの記載やイントラネットでの公開だけでなく、定期的な研修や社内コミュニケーションを通じて継続的に周知することが求められます。

2. 継続的な教育・研修の実施

 ポリシーの理解を深め、日常の業務に落とし込むためには、継続的な教育と研修が不可欠です。以下のポイントに注目しましょう。

  1. アンコンシャス・バイアスの理解:無意識の偏見がどのように差別的な行動につながるかを学び、自己認識を高めます。
  2. ケーススタディとロールプレイ:実際に起こり得る状況を想定したグループディスカッションやロールプレイを通じて、実践的な対応力を養います。
  3. 管理職向けの専門研修:管理職は現場の最前線でリスク管理を担う立場です。ハラスメント予防のためのリーダーシップスキルや早期発見・対応の方法を学ぶことが重要です。

3. 信頼できる相談窓口と迅速な対応体制の構築

 被害者が安心して声を上げられる環境の整備は、リスク管理の観点から極めて重要です。以下の取り組みが効果的です。

  1. 複数の相談窓口の設置:性別や立場にかかわらず相談しやすいように、複数の相談先(人事部門、社外窓口、匿名ホットラインなど)を用意します。
  2. 機密保持と報復防止の保証:相談者が不利益を被らないよう、情報管理と報復防止措置を徹底します。
  3. 迅速かつ公正な調査プロセス:相談後は迅速に事実関係を確認し、公平な視点で適切な対応を行います。必要に応じて外部の専門家を活用することも効果的です。

4. 企業文化の改革とインクルーシブな職場づくり

 個別の対策だけでは根本的な解決にはなりません。企業文化そのものを見直し、多様性を尊重するインクルーシブな環境を育むことが不可欠です。

  1. 多様性(ダイバーシティ)の推進:ジェンダー、年齢、国籍などの違いを尊重し、多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境を整えます。
  2. リーダー層の意識改革:経営層や管理職が率先してインクルーシブな姿勢を示すことで、組織全体の意識変革を促します。
  3. 心理的安全性の確保:従業員が安心して意見を述べられる職場づくりを進めることで、潜在的なハラスメントリスクも早期に顕在化しやすくなります。

5. 定期的な実態調査と継続的な改善

 企業としての取り組みがどれだけ効果を上げているかを測定し、必要に応じて改善していくことが、持続可能な危機管理体制の構築につながります。

  1. 従業員アンケートの実施:定期的に匿名アンケートを実施し、ハラスメントの発生状況や職場の雰囲気、相談しやすさなどを把握します。
  2. 外部監査・評価の活用:社外の専門家による監査や評価を受けることで、内部では気づきにくい課題を発見できます。
  3. PDCAサイクルの徹底:調査結果に基づき、課題の特定、改善策の実施、効果検証を繰り返すことで、継続的な改善を図ります。

企業危機管理としてのハラスメント防止対策

 セクハラやジェンダー差別は、企業にとって法的リスクやレピュテーションリスクだけでなく、従業員のモチベーション低下や生産性の低下といった経営課題にも直結します。単なるコンプライアンス対応にとどまらず、危機管理の重要な柱として位置づけ、組織全体で取り組むことが求められます。
企業の信頼性向上と持続可能な成長のために、今こそ本質的な改革と継続的な取り組みを進めていきましょう。

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田中直才
専門家

田中直才(社会保険労務士)

HK人事労務コンサルティングオフィス

BCP(事業継続計画)策定をはじめとした危機管理や、コンプライアンス対策を得意とし、コンサルティングや研修で多数の実績があります。外国人の採用支援にも注力し、ベトナムの企業と共同で人材紹介も行います。

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