カスタマーハラスメント対策の重要性と実践方法
ハラスメントによる離職者
ハラスメントによる離職者が、推計年間87万人に達するとの調査結果が公表されていました。(パーソル総合研究所調査)調査は全国の20~69歳の就業者の男女2万8135人を対象として、2022年8月~9月の期間に実施されたとのことで、全回答者に「過去にハラスメントを受けた経験の有無」を聞いたところ、34.6%の人があると回答していました。
ハラスメントといっても、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメントなど、人口に膾炙したものから、最近問題が顕在化しているカスタマーハラスメントや、あまり聞きなじみのないパタニティハラスメントなど、会社が注意を払うべきハラスメントが多く存在します。
今回の調査結果では、「自分の仕事について批判されたり、言葉で攻撃される」(65.1%)、「乱暴な言葉遣いで命令・叱責される」(60.8%)、「小さな失敗やミスに対して、必要以上に厳しく罰せられる」(58.8%)といった回答が上位に並んだとのことでした。
パワーハラスメントの定義
これらの事例はパワーハラスメントに該当するかと思いますが、パワーハラスメントには厚生労働省が公表している定義が存在します。すなわち、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものです。
ここで定義されている「職場」とは、会社で通常社員が業務をしている場所を指しますが、社員が通常就業している場所以外の場所であっても、社員が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。
例えば、勤務時間外の「懇親の場」であっても、全員参加の忘新年会・歓送迎会や、社員寮や通勤中などであっても、業務の延長と見なされるような行為があれば、「職場」となり、不適切な行為があれば、ハラスメントと認定されるので、注意が必要です。
また、社員には、正社員だけではく、パートの方や契約社員の方など、会社に雇用されているすべての方を含みます。派遣の方については、派遣元の会社だけではなく、派遣の方が実際に働いている会社も、自らの社員と同様のハラスメント防止措置を講ずる必要があります。
人手不足が深刻化
コロナ禍で多少ましになったとはいえ、特定の業界では人手不足の状況が続いています。今後、少子高齢化が益々進展し、いわゆる労働力人口が減少していくことは明らかです。そのため、どの業界においても、今後人材の確保は大きな問題となってくるのではないかと思います。
せっかく苦労して採用した人材が、ハラスメントで離職するといったことを避けるためにも、どこの会社においてもハラスメントをなくし、働きやすい環境を構築していくことが求められています。
その一方で、今回のパーソルの調査結果には、「上司のマネジメントとハラスメントの関係」という項目があり、上司の多くは「飲み会やランチに誘わないようにしている」(75.3%)や「ミスをしてもあまり厳しく叱咤しない」(81.7%)など、ハラスメントを回避するような行動を多くとっていることが判明しています。
ハラスメントが過度に気になる上司
私も最近よく、上司がハラスメントと指摘されるのを恐れて、必要な指導ができていないや、上司からきつく注意されないことをいいことに、一部の社員が増長し、手がつけられないといった相談を受けます。
そのような企業からの依頼を受け、社員には、社員としての義務を果たすことが必要といった内容を、就業規則に沿って説明する研修なども実施しています。社員としての権利は保障されているが、その分果たすべき義務もあるということについて、まずは理解させることが必要なこともあります。
上司・部下のコミュニケーションの重要性
しかしながら、一番重要なのは、上司と部下のコミュニケーションの充実です。特に上司が忙しいと、余裕がなくなり、本来丁寧に説明すべきところを省き、乱暴な言葉でやさしさを欠いたコミュニケーションをとってしまうことが往々に発生してしまいます。
上司は自分が部下を持つようになると忘れてしまいがちですが、自分が部下だった頃に上司に対してどのような感情を抱いていたでしょうか?上司に対して、たとえ上司と方向性が異なっていても、自分の考えていることを上司にストレートに意見具申できたでしょうか?
上司が発した何気ない言葉が引っかかり、その言葉の真意が分からず悶々と日々を過ごしたことはなかったでしょうか?
自分が忙しいと、部下に対する対応がなおざりになりがちですが、そのような上司の姿を部下はしっかりと見ています。そのため、上司自らが部下に歩み寄らない限り、上司と部下のコミュニケーションが深まることはありません。
コミュニケーション不足の上司から、言葉の真意もわからず少し厳しめの注意などをされると、部下はそれをパワハラだと感じることになってしまいます。
部下からパワハラだと訴えられた上司は、何が悪いのかの根本原因が分からぬまま部下からパワハラと訴えられないよう、必要最小限のコミュニケーションで済まそうとします。このような悪循環が続くと、部下の成長に必要な上司の教育が不足し、うまく人材育成ができない状態に陥ってしまいます。
このような状態に陥るのを避けるためにも、上司部下のみならず、会社全体でコミュニケーションの充実を図っていく必要があります。
社内コミュニケーションの充実化策
以下に社内コミュニケーションの充実に向けた施策を2点ご紹介します。
①社内イベントの実施
会社が主催する社内イベントについては、「今時そんなもの」と思われがちですが、コロナ禍前は、バーベキューやボウリング、社員旅行などの社内イベントの効用が見直され、社内コミュニケーションの充実に向け、導入する企業が増加していました。
社内イベントの実施により、普段とは違った側面から上司と部下が触れあうことで、上司と部下の距離が縮まり、部下が相談しやすくなります。
社内イベントは、労働時間外に行う場合は、強制参加としない。全員参加の場合には、業務時間内で実施するなど、いくつか注意すべき点はありますが、社内コミュニケーションの充実に向けた有効な施策の一つです。
②メンター制度の導入
メンター制度とは、知識や経験の豊かな先輩社員(メンター:mentor)と後輩社員(メンティ:mentee)が、原則として1対1の関係を築き、後輩社員のキャリア形成上の課題や悩みについて、先輩社員がサポートする制度です。
上司と密なコミュニケーションが取れるようになるまである程度の時間を要することが多いですし、また、密なコミュニケーションが取れるようになっても、やはり上司には相談しづらいことなどもあります。
そのような課題を解消する手段の一つがメンター制度です。自分に近い先輩社員に何でも相談できる体制を構築することで、上司の指導がパワハラに該当するのか否かなどの判断について、先般社員にアドバイスを求めることも可能となります。
以上、社内コミュニケーションの充実を図り、上司が部下を遠慮なく指導できる関係を構築することで、上司の部下に対する無用な遠慮を無くすような取り組みを進めてはいかがでしょうか。