コンプライアンス違反による倒産を防ぐために・・・

田中直才

田中直才

テーマ:コンプライアンス

帝国データバンクは、毎年コンプライアンス違反による倒産件数を公表しています。2020年のデータによると、コンプライアンス違反による倒産件数は、182件と前年度の225件から19.1%減少したとのことでした。

帝国データバンクが定義しているコンプライアンス違反による倒産とは、「粉飾」や「業法違反」「脱税」などのコンプライアンス違反が、取材により判明したもので、コンプライアンスとは、意図的な法令違反や社会規範・倫理に反する行為を指すとされています。

公表されたデータでは、2020年度のコンプラ違反倒産が違反類型別に分析されています。それによると、最も多かったのは決算数値を過大(過少)に見せる「粉飾」で57件とのことでした。⻑年にわたって粉飾決算を行っていたケースや、複数企業が関与する架空取引などが露見し、倒産に至るケースが見受けられたとのことです。

次に多かったのが、事業外での不祥事や悪質な不払いなどの「その他」で38件、資金流出・横領などの「資金使途不正」が26件とのことでした。 特記すべき事項として、労働問題等にかかわる「雇用」が20件と増加傾向にあるとのことで、2017年より厚生労働省が労基法等違反企業の公表を始めたことで問題の表面化が進んでいるのではとのこです。

コンプラ違反が公表されると、企業イメージの低下は避けられない

倒産にまでは至らなくても、コンプライアンス違反が公表されると、企業イメージは大いに傷つきます。最近の例でいうと、かっぱ寿司の社長が逮捕され、法人としてかっぱクリエイトも書類送検されたとの報道があります。

逮捕されたかっぱ寿司の社長は、同じ回転寿司のライバルである「はま寿司」の取締役を務めており、はま寿司からかっぱ寿司に移る直前に、はま寿司の営業秘密を持ち出していたとのことでした。

かっぱ寿司の社長がはま寿司の営業秘密を不正に持ち出し逮捕

不正競争防止法では、企業が持つ「営業秘密」が不正に持ち出されるなどの被害にあった場合、刑事・民事で告発できることになっています。今回、かっぱ寿司の社長は、はま寿司の営業秘密を不正に持ち出したということで逮捕にまで至ったと思われます。

今回逮捕された社長は、営業秘密を不正に持ち出し利用することが、不正競争防止法に抵触するということについて、きちんと理解していたのでしょうか?わかったうえで利用していたのであれば、企業経営者として許されない遵法精神の欠如ということになります。

法に触れるとは思わず、この程度なら大丈夫だろうとの認識であったとしても、ライバル会社が営業秘密として管理していたものを勝手に持ち出し、自社にいいように利用するという、企業倫理にもとる行為として糾弾の対象となります。

かっぱ寿司のブランドイメージは大きく低下

いずれにせよ、今回のかっぱ寿司の社長の行為は、法的にも倫理的にもコンプライアンスを無視した行為といえるのではないかと思います。このコンプライアンス違反の行為は、多くのメディアで大々的に報道されたため、かっぱ寿司のブランドイメージは大いに傷つくこととなりました。

社長自らが不正に手を染める会社というイメージは容易に払拭できません。かっぱ寿司については、店舗で営業は続けているので、このコンプライアンス違反があったから即倒産ということにはならないかもしれませんが、取引先からの信頼が低下するでしょうし、新卒の学生の募集などにも影響が出るなど、長期的に会社の業績を蝕む要因となりえます。

今回は、かっぱ寿司における不正競争防止法にまつわるコンプライアンス違反について、取り上げましたが、多くの会社で不正競争防止法にまつわるコンプライアンス違反が発生する素地があるのではないかと思われます。

昨今、人材の流動化が進んでいます。一昔前まで転職はハードルが高いことと認識されていましたが、現在では、多くの人が自分のキャリアアップのために転職するということに抵抗がなくなってきています。

競合他社への転職で注意すべきことは

多く企業が競合他社への転職について、就業規則で何らかの規制を加えているとは思いますが、離職した後の人間に対する拘束力はほぼ期待できず、自分のキャリアを生かすという意味からも、競合他社へ転職する方も多いのが現状です。

転職先の企業では、転職者のスキルは当然ですが、転職者のもたらす情報についても何らかの期待をしているのではないでしょうか。

この際に問題となるのが、営業秘密の利用です。不正競争防止法で不正に持ち出された営業秘密の利用が刑事・民事の告発対象であることを、どれほどの経営者が理解しているでしょうか?

ある日いきなり刑事・民事で告発されることを防ぎ、また、コンプライアンス違反として報道され、会社の看板に傷がつくことを避けるため、まずは、転職者がもたらす情報が営業秘密ではないということを確認するフローを確立しておく必要があります。

経営陣に不正競争防止法に関する正しい理解を促す取り組みを

また、転職者がもたらす情報が営業秘密と判明しても、その利用が法律違反であることを認識し、利用に待ったをかけるという正しい判断を下すことが必要になります。そのためには、最終判断を下す会社経営陣が不正競争防止法に関して正しく理解しておく必要があります。

コンプライアンス違反による倒産を防ぐとの観点から、この機会に経営陣に対する不正競争防止法に関する理解を深める取り組みを進めてはいかがでしょうか。

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田中直才
専門家

田中直才(社会保険労務士)

HK人事労務コンサルティングオフィス

BCP(事業継続計画)策定をはじめとした危機管理や、コンプライアンス対策を得意とし、コンサルティングや研修で多数の実績があります。外国人の採用支援にも注力し、ベトナムの企業と共同で人材紹介も行います。

田中直才プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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