カスタマーハラスメント対策に必要なこととは?
コンプライアンスとは、狭い意味では法令遵守、広い意味では倫理や社会的規範に従うこととされています。特に近年の企業活動においては、法令遵守は当然のことで、広い意味でのコンプライアンスを意識した活動が求められています。
企業がコンプライアンスを逸脱した活動を行い、それが報道などにより白日のもとにさらされると、世間から厳しい批判を浴び、これまで時間をかけて築き上げてきた企業のブランド力が一瞬にして失墜してしまうことになりかねません。
最近では、日野自動車でエンジンの排ガス燃費試験データの改ざんが相次いでいると報道され、企業存亡の危機に瀕しているのではと言われています。
また、コンプライアンス違反の代表例として頻繁に取り上げられるパワーハラスメントについても、三菱電機や郵便局、追手門学院などで報じられています。
企業イメージの低下は人材確保に悪影響も・・・
これら報道により、企業イメージの悪化は避けられませんし、今後人手不足が深刻化すると言われている労働市場で、新卒をはじめとする人材の確保にも悪い影響を与えることになりかねません。
コンプライアンス違反は、企業イメージの悪化のみならず、長期的なスパンで見ても、企業の成長に欠かせない人材の確保に苦戦するといった負の影響を及ぼす恐れがあります。
コンプライアンス体制を強化したくともどこから手をつけていいか
コンプライアンス違反は、企業活動における大きなリスクと認識している経営者の方も多いと思います。しかしながら、自社のコンプライアンス体制を強化したいと思っていても、なかなかその実行には踏み切れないとの声を聞きます。実行に踏み切れない大きな要因の一つは、何からどう始めていいか分からないということです。
よく伺うのが、コンプライアンス強化に向け、社内の体制を変更するにしても、社員に研修を実施するにしても、どこから始めて、どのようにすれば一番効果的なのかがわからないとの声です。
コンプライアンス体制の構築は、優先順位としては高くないため、危機意識はあるものの、日々の業務に追われているうちに、ズルズルと先延ばしにしてしまい、結果として手つかずの状態のままといった企業も多いのではないでしょうか。
コンプライアンス体制の構築については、弁護士の郷原先生が提唱されている「フルセットコンプライアンス」の考え方に沿って、社内体制を検討していくというのが一番効果的ではないかと思います。この進め方については、別途このコラムでその概要をお知らせしていきたいと考えています。
コンプライアンス体制構築に向け真っ先取り組むべきこととは
ただし、コンプライアンス体制の構築に向けては、「フルセットコンプライアンス」を検討する前に、真っ先に取り組むべきことが2つあります。それは、内部通報制度の適正な運営と、必要と思ったことは何でも自由に発言できる社内風土づくりです。
1.内部通報制度の適正な運営
内部通報制度とは、企業の経営上やコンプライアンス上のリスクに関する情報を知った従業員等からの情報提供を受け付け、情報提供者を保護しつつ、調査・是正を図る仕組みです。
内部通報制度というと、「チクリ」のようなイメージがあることから、積極的な運用をしていない企業も多いですが、組織内の一部の関係者のみが情報を有し、隠蔽性・隠密性が高い不正は、日常的な業務におけるチェックや監査といった通常の問題発見ルートでは容易に発覚しません。
内部通報制度を適切に整備・運用することにより、従業員等からの警鐘が早期に会社幹部に届き、自浄作用により、問題が未然に防止または早期発見しうるうえに、違法行為の抑止にもつながります。
また、内部通報制度を適正に運営することにより、社員が、報道機関・捜査機関・行政機関等の企業外部にいきなり告発(内部告発)してしまうリスクを軽減することにつながります。
ただし、内部通報制度は、通報した従業員が守られる、制度を運用している部門や担当者が通報した社員の個人情報を絶対に守るなど、会社に対する信頼感が高くないと、せっかく制度を構築しても、社員が利用しないとの状況になってしまいます。
そのため、内部通報制度を正しく運用していくためには、経営トップが以下のメッセージを発することが重要です。
経営トップが発するメッセージ
- コンプライアンスを強化していくうえでの内部通報制度の意義・重要性
- 内部通報制を活用した適切な通報は、リスクの早期発見や企業価値の向上に資する正当な職務行為であること
- 通報に関する秘密保持を徹底すること
- 適切な通報を行った者に対する不利益な扱いは決して許されないこと
- 利益追求と企業倫理が衝突した場合には、企業倫理を優先すべきこと
- コンプライアンス違反の発覚は、企業の存亡にかかわること
内部通報制度の適正な運用は必要ですが、年がら年中内部通報があるのも考えものです。内部通報制度は、いざという時の最後の手段であって、理想は、内部通報を要するような事案が社内で発生しないことです。そのために、内部通報制度の適正な運用平行して、必要と思ったことは何でも自由に発言できる社内風土づくりを進めます。その一丁目一番地が、「アビリーンのパラドクス」に陥らない社内環境の構築です。
2.何でも自由に発言できる社内風土づくり
ある八月の暑い日、アメリカ合衆国テキサス州のある町で、ある家族が団欒していた。そのうち一人が53マイル離れたアビリーンへの旅行を提案した。道中は暑く、埃っぽく、とても快適な環境とは言いがたいため、誰もがその旅行を望んでいなかったにもかかわらず、皆他の家族は旅行をしたがっていると思い込み、誰もその提案に反対しなかった。提案者を含めて誰もアビリーンへ行きたくなかったという事を皆が知ったのは、旅行が終わった後だった。
アビリーンパラドックスは「集団思考」の現象の一つと考えられており、集団の動きに反対したり、流れからはみ出ることに不安感を抱くことが発生原因の一つです。また、コミュニケーションが円滑に取れていない集団の中でも起こりますし、集団内のコミュニケーションが一定方向にしか取れていない(トップダウン)ケースでも同様に起こると言われています。
2021年3月、コロナ禍で大人数での会食はしないよう呼びかけかられていたなか、その呼びかけを行っていた厚生労働省の職員が、23名という大人数で夜遅くまで会食していたことが判明しました。当時の田村厚生労働大臣が、「非常に多い人数での宴会で、国民の信用を裏切る行為だ。深くおわびします」と頭を下げて謝罪しています。
報道によると、組織の責任者である課長が、大人数での会食を発案したとのことで、部下は、おかしいとは思っていたものの言い出すことができなかったとのことです。
「誰もおかしいと発言しないから、みんなそれでいいと思っている。その場の空気に忖度して、反対意見を言うのはやめよう」と考え、誰も何も発言しないとの状態、まさに、「アビリーンのパラドクス」状態に陥っていたのではないでしょうか。
特に「アビリーンのパラドクス」が起こりがちなのが、「声が大きい」人間が発言した意見に対して、本当は違う意見があるにもかかわらず、それを表明しない(できない)人が一定数いるとの状態です。
この状態は非常に危険で、おかしなことがあっても、誰もそれを指摘しないから、自浄作用が働かず、ズルズルとコンプライアンス違反の状態が続くといった状態に陥ってしまいます。このような状態とならないよう、組織内における「忖度」を無くすこが重要です。
今回のこの厚労省の事例でもそうですが、人事や評価権をもつ上司に対して、おかしなことがあっても部下からはなかなか言い出せないものです。
したがって、上司からことあるごとに忖度のない発言を部下に求めていくことが必要です。会社としては、「何でも自由に発言できる組織風土の醸成」を目標として掲げ、上司はそのような組織風土を醸成するために率先した取り組むことが求められます。
以上、コンプライアンスの強化に向け、まず会社が取り組むべきこと2点についてお伝えしました。会社を守るため、まずはこの2点から取り組みを進めてみてはいかがでしょうか?