夫婦で育む子どものアタッチメント
公認心理師の山崎です。大阪で夫婦・カップルの関係改善を中心に、日常生活での困りごとを一緒に整理し、前に進めるサポートをしています。
前回までの2回で、夫婦関係を育てる3つの土台(親密さ・理解・ビジョンの共有)と、相手に伝わる話し方(アサーティブコミュニケーション、アイメッセージ、DESC法)について説明しました。
今回は最終回として、これらのスキルを最大限に活かすための「環境づくり」について説明します。
なぜ仕組みが必要なのか
スキルだけでは不十分
アイメッセージ、DESC法、共感的理解。これまで紹介してきたスキルは、どれも効果的な方法です。しかし、スキルを持っていても、それを使える環境がなければ意味がありません。
例えば、以下のような状況を想像してみてください。
- 夕食の準備中に「ちょっと話があるんだけど」と切り出される
- 仕事から疲れて帰宅した直後に重要な話を持ちかけられる
- 子どもが騒いでいる中で話し合おうとする
- 明日の準備をしながら真剣な話をする
これらの状況では、どんなにスキルがあっても、気持ちが急いでいたり、イライラしやすかったりするため、安心して話すことがむずかしくなります。これは、かえって関係を悪化させる可能性もあります。
失敗する話し合いと成功する話し合い
失敗例:タイミングが悪い
妻は夕食の準備をしながら、「ちょっと話があるんだけど」と切り出しました。夫は仕事から帰宅したばかりで疲れています。妻は手が離せず、目も合わせられません。
夫は「今?」とイライラした口調で返します。妻も「いつなら聞いてくれるの!」と声を荒げます。結局、本題に入る前にケンカになってしまいました。
成功例:仕組みを作った夫婦
この夫婦は、毎週土曜日の午前10時を「話し合いの時間」と決めました。
土曜の朝、リビングで向き合って座ります。お茶を用意して、スマートフォンは別室に置きました。時間は30分と決めています。
妻が今週気になったことを話します。夫は途中で口を挟まず、最後まで聴きました。妻の話が終わったら、夫が自分の考えを伝えます。
30分後、タイマーが鳴りました。すべて解決したわけではありませんが、お互いの考えがわかり、次にどうするかの方向性が見えました。
「来週また話そう」と言って、二人は笑顔でお茶を飲みました。
安全な話し合いの環境を作る
時間と場所を設定する
共働きや子育て中の家庭は、平日に話し合いの機会を持つのがむずかしいかもしれません。その場合、例えば、毎週土曜日の10時から30分間を話し合いの時間と決めて、スケジュール帳に記入します。
時間設定のポイント
- 定期的にする(週1回、隔週など)
- 時間を明確にする(30分、1時間など)
- お互いのエネルギーレベルが高い時間帯を選ぶ
- 終了時刻を守る(ダラダラ続けない)
何らかの作業中のとき、明日に備えてそろそろ寝なくては、など時間に追われている状況では、ちょっとしたことでもピリピリ・イライラしがちです。場が安全でなければ、心の内を安心して話すことができません。
場所を選ぶ
自宅で話し合う場合は、リビングやダイニングテーブルが一般的です。向き合って座れるか、テレビやスマートフォンなどの気が散るものを遠ざけられるか、確認しましょう。
自宅以外で話し合う場合も効果的です。カフェやファミレス、公園なども選択肢です。自宅ではヒートアップしやすい会話も、カフェなどオープンな場所では、落ち着いてできるものです。
テーマと目的を明確にする
事前に、話し合いで取り上げたいテーマや目的を明確にしておきましょう。テーマや目的が不明確なまま話し合いを始めると、話が散漫になり、結局は何も解決せずに終わることがあります。
テーマを明確にするにはメモが有効です。これをテーマにしたいなあと思ったらメモしておきます。メモを読み返して、それについて何を話したいのか考えます。繰り返すと整理が進みます。テーマが明確になっていきます。
1回の話し合いで扱うテーマは1つに絞るのが望ましいです。複数のテーマがある場合は、優先順位をつけて、次回以降に回します。
ルールを設定する
話し合いのルールとは、例えば、「一人が話している間は他方は口を挟まずに聞く」「一度に話す時間を5分以内に制限する」などです。お互いに公平に話す機会を持ち、話が一方的にならないようにします。
基本的なルールの例
- 一人が話している間は最後まで聴く(途中で遮らない)
- 「私は」を主語にして話す(アイメッセージ)
- 「いつも」「また」などの一般化した言葉は使わない
- 相手の人格を否定する言葉は使わない
- 時間を守る(開始時刻と終了時刻)
- スマートフォンは見ない
怒りが障害となっている夫婦の場合、怒りに関するルールを決めておくのが望ましいです。
自分の怒りの強さを10段階で評価します。7を超えると冷静な話し合いが困難と判断できるなら、5を超えそうなタイミングで相手にサインを出して、話し合いを中断するなどのルールを決めておきます。
よくある障害とその対処法
障害1:「忙しくて時間が取れない」
まずは月2回15分から始めましょう。短くても定期的に行うことが大切です。
15分でも、テーマを1つに絞れば十分に話し合えます。「家事の分担について15分だけ話そう」と決めれば、集中して話せます。
慣れてきたら、徐々に時間を延ばしていけばいいのです。最初から完璧を目指す必要はありません。
障害2:「話し合いを持ちかけると相手が拒否する」
拒否する理由を聴きましょう。相手は「また責められるのではないか」と不安を感じているかもしれません。
提案ではなく相談として持ちかけるのが効果的です:
「話し合いの時間を作りたい」(一方的な提案)ではなく、「二人で話す時間を作れたらいいなと思うんだけど、どう思う?」(相談)
相手の不安を理解し、一緒にルールを作ることを提案します:
「責めるつもりは全くないんだ。お互いの考えを共有する時間にしたい。どんなルールがあれば安心して話せる?」
障害3:「話し合い中にヒートアップしてしまう」
中断のサインを決めておきましょう。「タイムアウト」「ちょっと休憩」など、お互いが使える言葉を決めます。
中断したら、必ず再開の約束もします。
- 「10分後にまた話そう」
- 「今日はここまでにして、明日の朝また話そう」
- 「次の土曜日に改めて話そう」
再開の約束がないと、「逃げた」「話を放棄した」と受け取られる可能性があります。
メタメッセージ:言葉の背後にある意味
メタメッセージとは何か
メタメッセージとは、言葉そのものではなく、「どんな声で」「どんな表情で」「どんな状況で」言われたかによって伝わるメッセージのことです。
例えば、「ありがとう」という言葉でも
- 笑顔で明るい声で言われれば → 本当に感謝している
- 無表情で平坦な声で言われれば → 形式的な挨拶
- 皮肉な表情で冷たい声で言われれば → 実は不満がある
このように、同じ言葉でも、声のトーン、表情、状況などによって、まったく違う意味になります。これがメタメッセージです。
同じ言葉、異なる意味
「今日は寒いね」という言葉自体は、ただ気温が低いという事実を述べているだけです。しかし、話し手の声のトーンや表情、状況によっては、
- 暖房をつけてほしい(依頼)
- 一緒に温かいものを飲もう(提案)
- 体調が悪いかもしれない(心配の表明)
- 外出したくない(拒否の意思)
など、様々な意味合いを持つことがあります。
もう一つ例をあげます。「疲れているみたいだね」という言葉は、ただ相手の状態を述べているように見えますが、その背景や言い方によっては、
- 大丈夫?休んだほうがいいよ(心配・いたわり)
- 今日は話しかけないでおこう(配慮)
- 疲れてるなら手伝わなくてもいいよね(皮肉・非難)
- 私も疲れているのに(不満の表明)
などの意味を持つことがあります。
メタメッセージに頼りすぎない
メタメッセージは、言葉だけでは伝えきれない感情やニュアンスを補足しますが、一方で、メタメッセージに頼りすぎることは、相手に察することを求めることになります。ときには自分の伝える責任を相手に転嫁することにもなりかねません。
「言わなくてもわかるでしょ」「察してほしい」という期待は、しばしばすれ違いを生みます。
健全なコミュニケーションには、メタメッセージと言葉の両方が必要です。バランスが大切です。
メタメッセージの誤解を避けるために
意図を言葉で補足する
メタメッセージを明確にするためには、自分の意図を直接的な言葉で補足することが効果的です。
例えば、「今の言い方で不快にさせてしまったかもしれないけど、その意図はない」といった言葉を使うことで、誤解を防ぎやすくなります。
- 「疲れてるみたいだね」→「心配してるんだよ。大丈夫?」
- 「今日は寒いね」→「暖房つけようか?」
- 「どこに行ってたの?」→「連絡がなくて心配したんだ」
このように、メタメッセージだけに頼らず、言葉で意図を明確にすることで、誤解を大きく減らせます。
その都度確認する
都度、理解の確認を行います。例えば、「あなたが感じていることをもっと知りたい」とか「今の話で気になったことはある?」といった確認の言葉を使うことで、相手が自分の言葉をどのように受け取ったかを確かめることができます。
- 「今の言い方、怒ってるように聞こえた?そんなつもりはないんだけど」
- 「私の言いたいこと、伝わってる?」
- 「どう感じた?」
確認することで、メタメッセージのズレに早く気づけます。
環境を整える
また、誤解を避けるためには、お互いが落ち着いて話し合える環境を作ることも大切です。やり残した仕事や家事など、気がかりなことがある状態では会話に集中できません。焦りが言葉足らずをもたらしがちです。
コミュニケーションがむずかしくなっている場合は、他の一切を脇に置いて、会話に集中できる時間を設けることが有効です。これが、冒頭で説明した「話し合いの仕組み作り」です。
怒りとメタメッセージ
前回の記事で説明したメラビアンの法則を思い出してください。言葉と非言語情報(口調・表情)が矛盾するとき、言語情報は7%しか伝わりません。
怒りが強いときほど、言葉とメタメッセージが矛盾しやすくなります:
- 「悲しい」(言葉)と言いながら、睨む(表情)、強い口調(声)
- 「わかってほしい」(言葉)と言いながら、腕組み(姿勢)、冷たい視線(目線)
このような状態では、どんなに正しい言葉を使っても、相手には怒りしか伝わりません。
強い怒りを感じたときにすべきことは、怒りを冷ますことだけです。話し合いは中断するのが望ましいです。時間と場所を変えて、落ちついて話せる状態で再開するのが望ましいです。
まとめ
3回のシリーズを通して、夫婦関係を育てるコミュニケーションについて説明してきました。
第1回:3つの土台
親密さと関係の良さの両立、共感的理解(問題焦点型と情動焦点型のコーピング)、目指す姿の共有(階層を変えて考える)。これらが夫婦関係の基盤です。
第2回:伝え方のスキル
アサーティブコミュニケーション、アイメッセージ、気持ちの言語化(ABC理論、第一次・第二次感情)、DESC法、避けるべき表現。これらのスキルで相手に伝わる話し方を実現できます。
第3回:環境づくり(今回)
話し合いの仕組み(時間・場所・ルール)、よくある障害への対処法、メタメッセージの理解、意図を言葉で補足すること。スキルを活かすには環境が必要です。
これらすべてが組み合わさって、初めて効果的なコミュニケーションが実現します。
一人で取り組むのがむずかしいと感じることもあるでしょう。夫婦・カップルカウンセリングでは、これらの土台を一緒に築き、スキルを実践する場を提供し、安全な環境でお互いに伝え合う練習をサポートしています。
お二人の関係をより良いものにしていくために、専門家のサポートを活用することも一つの選択肢です。
夫婦・カップルカウンセリングのご案内: https://couples-therapy.jp/



