夫婦関係を育てる3つの土台:親密さ・理解・ビジョンの共有
公認心理師の山崎です。大阪で夫婦・カップルの関係改善を中心に、日常生活での困りごとを一緒に整理し、前に進めるサポートをしています。
「自分の気持ちを伝えたいけど、相手を傷つけたくない」「何度も同じことを話しているのに、わかってもらえない」。夫婦カウンセリングでよく耳にする悩みです。
前回の記事では、夫婦関係を育てる3つの土台(親密さ・理解・ビジョンの共有)について説明しました。今回は、その土台の上で実践する「伝え方」のスキルを紹介します。
アサーティブコミュニケーションとは
自分も相手も大切にする伝え方
アサーティブコミュニケーションとは、自分も相手も尊重する自己表現のことです。自分の意見をはっきりと述べつつ、相手の立場や感情も考慮に入れます。
例えば、子どもの教育方針で夫婦の考えが食い違ったとき、どのような言葉を相手にかけるでしょうか。
A: どうして、わかってくれないの!?
B: 君の考えはわかった。けど、僕は〜と思う。なぜなら…
あなたがAのように言われると、どのように感じるでしょうか。非難されているように感じるかもしれません。あなたの考えが尊重されているようには聞こえないと思います。
Bはどうでしょう。「君の考えはわかった」から、理解されたことは伝わってきます。「けど、」以下の言葉から、異なる考えを持っているけれど、あなたを非難しているようには感じないでしょう。
Bの伝え方が好ましいのは感覚的にも理解できると思います。
3つのコミュニケーションの型
コミュニケーションのスタイルを3つに分けて考えてみます。具体的には、攻撃的、受動的、アサーティブの3つです。
攻撃的なコミュニケーション
自分の意見を強く主張し、相手の感情や意見を無視するスタイルです。「いつもやることが遅い!」「あなたのせいだ」といった言い方です。
相手は防衛的になり、反発します。短期的には自分の主張を通せても、長期的には信頼関係が損なわれます。
受動的なコミュニケーション
自分の感情や意見を抑え、相手に合わせる傾向があります。「いいよ」と言いながら不満を溜める状態です。
表面的には穏やかに見えますが、不満が蓄積し、いずれ爆発したり、関係が冷え込んだりします。自己肯定感も低下します。
アサーティブコミュニケーション
自分の意見をはっきり述べつつ、相手の意見も尊重します。「私はこう思うけど、あなたはどう思う?」という姿勢です。
お互いの意見が尊重され、建設的な話し合いができます。信頼関係が深まり、納得できる解決策を見つけやすくなります。
アイメッセージ:「私」を主語にして伝える
ユーメッセージとアイメッセージの違い
アサーティブコミュニケーションの第一歩は、アイメッセージです。アイメッセージとは、私を主語に考えや気持ちを伝える言い回しです。
以下の2つのメッセージは同じことを訴えています。
1. 何でいつも散らかしっぱなしなの?
2. 片付いてると落ち着けるの。一緒に片づけてくれる?
同じことを訴えているのですが、自分が言われる立場になったとき、どちらのほうが受け入れやすいでしょうか。おそらく2でしょう。
違いは主語です。
1. (あなたは)何でいつも散らかしっぱなしなの?
2. (私は)片付いてると落ち着けるの。一緒に片づけて。
ユーメッセージ(You message)とは、「あなたは」という表現を用いる方法です。相手の行動を批判する表現になりやすく、相手の反発を招きやすい言い回しです。
アイメッセージ(I message)とは、「私は」という表現を使う方法です。自分の気持ちの表現にとどまります。相手は責められたと感じにくく、受け止めやすい言い回しです。
- ユーメッセージ: あなた + 行動・発言
- アイメッセージ: 私 + 気持ち・考え
アイメッセージを使用することで、自分の感情やニーズを明確に伝えつつ、相手に攻撃的にならずに済むため、夫婦間での理解と協力が促進されます。
気持ちを言語化する
ABC理論で整理する
アイメッセージで伝えるためには、自分の気持ちや考えを言葉にする必要があります。
言語化をサポートするツールとして、論理療法のABC理論を紹介します。
同じ出来事(A)が起きても、人によって生じる感情(C)は異なります。その違いは、人によって受け取り方・考え(B)が異なるからです。
感情(気持ち)は単語で表現されます。考え(受け取り方)は文で表現されます。
出来事(A)が入口になります。感情(C)の言語化は比較的簡単です。考え(B)の言語化がむずかしいです。「そのとき、どのようなことが頭に浮かんだのだろう?」「その後、どうなるのを避けたかったのだろう」など、自分に質問を投げかけて言葉にしていきます。
- 出来事(A): パートナーが重要なイベントを忘れた
- 考え(B): パートナーは私の大切なことを気にかけていないかもしれない
- 感情(C): 落胆、孤立感
第一次感情と第二次感情
怒りは扱うのがむずかしいと感じる人が多いと思います。実際に、怒りをコントロールできずに関係を悪化させる例は少なくありません。
感情には、第一次感情と第二次感情があり、多くの怒りは第二次感情であるとする考え方があります。
第一次感情: 直接的な、即座の感情反応で、特定の出来事や状況に対して自然に生じる感情です。例えば、愛や喜び、驚き、恐怖などがこれに当たります。
第二次感情: 第一次感情に対する反応として生じる感情です。例えば、恥や罪悪感、怒りなどがこれに含まれます。
イライラしやすい人は、イライラを生む第一次感情に焦点を当てて、言語化することが重要です。相手にアイメッセージで伝えるべき感情は第一次感情です。
- 出来事(A): パートナーが会話中にスマートフォンをいじり始めた
- 考え(B): 私の話に興味がないのではないか、無視されている
- 第一次感情: 悲しい、さびしい
- 第二次感情: 怒り
平たく表現すると、「こんなにがっかりさせて!」「こんなにさびしい想いをさせて!」と怒ってしまうわけです。アイメッセージを使っていても、伝える感情は常に怒りの場合、まだ言語化が足りていないと思って下さい。
DESC法で整理して伝える
4つのステップ
心に思い浮かんだことを次々に話すのは、本人自身が伝えたいこと、伝えるべきことを整理できていない場合が多いようです。聴いてもらうには、ある程度整理して、伝えたいことを明確にする必要があります。
その方法として、DESC法を紹介します。これは、以下の4つのステップから構成されています。
- Describe(記述する・描写する):事象・事実を具体的に記述
- Express(気持ちを表現する):それに対する感情を表現
- Specify(具体的に提案・要求する):相手に望むことを提案
- Consequences(結果)・Choose(選択する)
D:Describe(記述する・描写する)
対象の行動や状況を具体的かつ客観的に記述します。感情や評価を交えずに、事実のみを述べることが重要です。
例:「昨日のミーティングで、あなたは私の提案に対して何もコメントしなかった」
「いつも無視する」「全然聞いてくれない」のような一般化した表現は避けます。
E:Express(気持ちを表現する)
自分の感情や考えを正直に表現します。ここで、アイメッセージです。
例:「私はあなたが私の提案に反応しなかったことに、不安を感じています」
この段階では、自己の感情に責任を持ち、相手を非難する言葉は避けることが肝心です。怒りは第二次感情であり、不安などの第一次感情から生じるものです。
S:Specify(具体的に提案・要求する)
望む変化や具体的な行動を明確に示します。
例:「今後のミーティングでは、私の提案に対するあなたの意見を聞かせてほしい」
このステップでは、具体的で達成可能な目標を設定することが大切です。あいまいな提案や大きな要求は避けます。
C:Consequences(結果)・Choose(選択する)
提案した変化がもたらす肯定的な結果を説明します。
例:「そうすれば、私たちはより効果的にプロジェクトに取り組むことができ、チームとしての成果も向上するでしょう」
相手には提案・要求にNoを言う権利があります。Noが返って来た場合には、Sに戻って新たな提案・要求を行うことになります。
週末の夫婦の会話例
週末の朝、キッチンでコーヒーを飲んでいる夫婦の会話という設定で、DESC法の例を示します。
妻(D): 太郎さん、少し話があるの。最近気付いたんだけど、家事をする時、大体いつも私一人でやっていることが多いのよ。たとえば、昨日の夜も、私が洗濯と掃除をしている間、あなたはソファでリラックスしていたわね。
夫: うん、そうだね。でも、どうかしたの?
妻(E): 正直言うと、その状況を見ると、私はとても疲れているのにあなたは手伝ってくれないと感じて、悲しくなるの。私一人で家事をするのは大変だし、時には支えられていないように感じるわ。
夫: そんな風に思っていたなんて知らなかったよ。ごめんね。
妻(S): ありがとう。私の提案としては、これからは夕食の準備をする時、あなたも何か一つ手伝ってくれたらいいと思うの。たとえば、野菜を切るとか、テーブルのセットをするとか。
夫: なるほど、そういうことか。それならできるよ。
妻(C): それを聞いて安心したわ。そうすれば、私も少しは楽になれるし、私たち二人で協力して家を整えることで、もっと家庭が温かい雰囲気になると思うの。
避けるべき表現
「いつも」「また」は一般化する
「いつも」「また」といった言葉は、特定の出来事を全体に一般化してしまいます。
例えば、「あなたはいつも遅刻する」という言い方は、常にそうであるかのように誇張してしまいます。また、行動を批判しているつもりが、人格の批判になりうる表現です。相手に不公平感を与え、防衛的な態度や反発を引き出すことがあります。
望ましい表現
一般化せず、具体的な出来事を述べます。
- 「今日の会議に10分遅れた」
- 「昨日約束した時間に来なかった」
これは、DESC法のD(事実の記述)です。具体的な事実を述べることで、相手は何について話しているのかを正確に理解できます。
怒りを伴う質問の形
例えば、「どうしていつもこんなに無神経なの?」という言い方は、質問の形を取っていますが、実際には相手を非難しています。
相手はその質問に対して真剣に答えようとすることがあります。しかし、怒りを込めた質問はしばしば、相手の回答を「言い訳」として切り捨てます。
「何を言っても言い訳と切り捨てられるなら、黙っている方がマシ」となり、ますますコミュニケーションが悪化していくこともあります。
望ましい表現:
DESC法のEとSを使います。
- E(気持ちの表現):「私は傷ついた」「私は不安を感じた」
- S(具体的な提案):「次からは事前に連絡してほしい」
質問形式ではなく、自分の気持ちを述べ、望むことを伝えます。
メラビアンの法則:言葉は7%しか伝わらない
心理学者アルバート・メラビアンが提唱したメラビアンの法則によれば、言語・聴覚・視覚の3つの情報が不一致のとき、優先度は以下の通りです。
- 言語情報(7%)
- 聴覚情報(38%)
- 視覚情報(55%)
3つの情報が不一致のとき、言語情報は受け取ってもらえない可能性が高いです。
特に怒りに包まれているときほど、そうなりがちです。「いつも」と一般化して、「〜な人」とレッテルを貼って、「どうして〜?」と質問の形で、3つの情報が矛盾しているものです。
コントロールがむずかしいほど怒りの強度が高いときは、話し合いを避けるのが望ましいです。まずは沸騰した感情を冷ますことに注力して、話し合いはそれからが理想です。
まとめ
相手に伝わる話し方について説明しました。
アサーティブコミュニケーション
自分も相手も尊重する自己表現です。攻撃的でも受動的でもなく、自分の意見をはっきり述べつつ、相手の立場も考慮します。
アイメッセージ
「私は」を主語にして気持ちを伝えます。「あなたは」を主語にすると相手を責める表現になりがちです。
気持ちの言語化
ABC理論を使って、出来事(A)、考え(B)、感情(C)を整理します。怒りは第二次感情であり、その背後にある第一次感情(悲しさ、さびしさなど)を言語化することが重要です。
DESC法
事実を述べ(D)、気持ちを表現し(E)、具体的に提案し(S)、結果を示す(C)という4つのステップで、整理して伝えます。
避けるべき表現
「いつも」「また」といった一般化する言葉、怒りを込めた質問形式は避けます。言葉と口調・表情が矛盾すると、言語情報は7%しか伝わりません。
これらのスキルは、練習によって身につきます。最初はぎこちなく感じても、繰り返すうちに自然に使えるようになります。
しかし、一人で取り組むのがむずかしいと感じることもあるでしょう。夫婦・カップルカウンセリングでは、これらのスキルを実践する場を提供し、お互いに伝え合う練習をサポートしています。
次回は、これらのスキルを活かすための「環境づくり」について説明します。
夫婦・カップルカウンセリングのご案内: https://couples-therapy.jp/



